反転

 仁は自然とこぶしに力が入っていた。この目の前にいる少年をおそらく、自分一人だと殺していたかもしれない。どうも冷静でいられない。見ているだけで、こいつが息をしているだけで怒りで気が狂いそうだった。野田も同じことを思っているように見えるが、それでも仁よりはいくらか冷静に見える。


 正直野田がいてくれてよかった。仁はそう思っていた。


「‥‥電話切っちゃったけど来るかな?」


「来るだろ。こいつのことは知らないけど、ビデオカメラの内容は困るだろうし」


 それから15分後。バイクの音が聞こえて来る。この長田茂が言うにはこの音は飯島ジュンゴのものだと言っている。しかし、バイクの音は一つじゃない。


「飯島ジュンゴ‥‥仲間を連れて来やがった」


 音を聞いたらわかる。一人じゃないどころか数十人はいるのではないかという程のエンジン音。その音はこの山の麓の方から聞こえて来る。仁は予想外だった。まさか他の奴まで連れて来るとは思わなかった。ビデオカメラの内容が大事じゃないのだろうか?


 いや、ここで俺と野田から奪い返そうと考えてるのかもしれない。そうなるとこの山を指定したのは完全にミスだった。逃げ道が殆どない上に、麓を占拠されていたら逃げ道は無くなる。逃げるにしても長田茂は置いていく他ない。


「ジュンゴはわかってんだよ。お前らがそのカメラを警察に渡す気はないことをな。お前らはここでおしまいだよ」


 もし奴らに捕まったらビデオカメラも取られ、野田も何をされるか分かったものではない。仁は野田を連れて車を降りた。


「どこにいくの!?」


「隠れるぞ!!」


 今は諦めるしかなかった。このビデオカメラを取り返しただけでも良かったと考えるしかない。どうにかこの状況を乗り切るしかない。仁はこの映像だけは絶対に渡したくなかった。野田には見せたが、もう誰にも見せたくなかった。もちろん、警察にも。


 長田茂を置いて、仁達は茂みにの中に身を隠す。バイクのエンジン音が止んだので、奴らが山に中に入ってきた可能性が高い。


「‥‥私たちがこれを警察に渡すつもりはないことを逆手に取られたってわけね」


「読み間違えた。寧ろピンチになっちまったな」


 夜中の山道をむやみに走り回るのは得策ではない。あいつらが探しに来る可能性も高い。仁はスマホを取り出し、ある場所に連絡をかけた。



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