第10話 腹膜播種切除手術

3年の間に3回の手術、4回の入院、慣れたはずなのに、とてもナーバスになっていた。


楽しい事しか考えない、年末のライブの衣装をどうしよう、とか、来年はどこに旅しようか、とか。。


だけど、やはり、もしがん細胞が腹膜全体に散らばっていたら、手術で取れなかったら・・・


自分のお腹の腹膜をイメージしてみる、がん細胞が転々としている、それを一カ所にかき集めるようにイメージしてみる、それでがん細胞が本当に集まってくるのか、そんな事はわからないけれど、イメージだけ強く持ってみる。


今、ヨガインストラクターになりヨガをお伝えする時に話す言葉


「体を内側から観察してみましょう。調子の悪いところ、違和感のあるところを内側から修復するような癒すようなイメージを持ってみましょう」

というようなことをよく言うけど、

これを実践してたんだなと思う。


手術するからには、成功したい!すぐに閉じられてしまう事がないように、夫に安心してもらいたい!夫のためにもう少し生きていたい!


ナーバスになったら、そうやって自分を奮い立たせていた。


だけど、たぶん、あの頃の私はとても嫌な人間で、夫や周りの人に八つ当たりしたりしていたんだと思う。


手術を担当してくれるのは最初の手術してくださったI先生のチームに決まり、色々と打ち合わせが進んでいるようだった。珍しい手術なので撮影が入ることに同意し、この手術の見学にいろんな人が入ることも承諾した。


「出演料もらうしかないなぁ~」

夫が笑っていた。医学の発展につながればお前はすごいぞと褒めてくれた。


手術日までどんな日々だったのか、辛い事って忘れたい本能が働くものなのだろうか、

あまり覚えてないのだ。

普通に、仕事をしてる夫を支えて、週末はバンド練習して、そんな日々だったんだろうと思う。


入院して、手術前日に説明と同意書のサインがあったとき、

執刀されるI 先生の

「大丈夫ですよ~人工肛門になっちゃうかもだけど、俳優の○○さんも人工肛門でも元気に活躍されてますし、大丈夫ですよ~」

その言葉が、究極に張りつめていた私の心に突き刺さってしまったのだ。


「もう手術やめます!どうせ、助からないんだし、やりたくないです!」

とダダをこねてしまった。

人工肛門になるかもしれない!?

え?腹膜なのに何故?聞いてないよ!と思ってしまったからだ。


以前、人工肛門に関する記事をシェアし、その時のコメントに

「人工肛門、ストマになりたくない、と言う事自体がストマの人を侮辱してる」

とのご指摘を受けたけれど、あらためて認めてしまうと、本当に自分の本心はストマになりたくない、だったのだ。

(この文章を読み、不快に思われた方には深く謝罪いたします。しかし、手術を前にしての本当の気持ちを偽らず書きます。)


先生も看護師さんも夫も、とにかく私を落ち着かせようと、とりあえず病室に戻され、夫と話をした。

「やめちゃってもいいよ、あっこの好きにしていい。だけど、少しでものぞみがあるなら、手術受けてほしいなと思う。」


そう言われた。


I先生はすごい実力派の外科医で看護師さんや担当のO先生をはじめ、他の諸先生方も実力を認める名医だ。だけど、少し一般感覚から離れていらっしゃる方で、それもスタッフの皆様よく理解していらっしゃる。

看護師さんが部屋にきてくれて

「先生は時々あんな風に言っちゃうけど、大丈夫だからね」

と励ましてくれて、I先生も病室にきてくださり、ごめんね、不安にさせたね、と言ってくださり、私も落ち着きを取り戻し、無事手術同意書にサインをして夜が空けるのを待ったのだ。


もう、仕方が無い、どんな結果になろうとも、先生を信じて、スタッフの皆さんを信じて、自分の運命に従おう、怖いけど、それしかない、そう思えた。


その日の夜は夫は親友と一緒にずっとお世話になっているBarで過ごしたそうだ。

明日の手術が早く終わってしまったら・・・それを考えていたんだろうなと思う。


しかし、


手術は中々終わらなかった!


長い長い手術となった。

夫は、待っている間、やった!これは助かるに違いないと確信したそうだ。

朝から始まった手術は昼を過ぎ夕方近くまでかかり、腹膜に転移したがん細胞たちが摘出された。


手術のたびに摘出された臓器を見せられていた夫がのちに

「今まで2回のはホルモン焼きにして食べられそうなほどピンク色できれいだったけど、今回のはいかにも悪そうなやつだったよ」

と言っていた。


この手術で大腸にメスが及ぶことはなく、左肋骨が数本折られただけで(肋骨を持ち上げる器具による損傷)

先生の見立てでは、ほぼ、がん細胞は摘出できたと思います、とのことだった。


今現在の担当のOK先生(この時点での担当の先生もO先生なので、最初の先生OY先生、今の先生OK先生と記す事にする)

の素晴らしい技術の、糸で縫わない縫合により、


「ビキニも着れますよ!」


と言われたのだった。

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