第8話 今の俺たち
依存の関係が続いて、俺は中学卒業と同時に天音との関係を絶ったと勝手に思っていた。だが、結局高校まで同じ・・・・・・というか俺に被せてきた。
そんな、複雑な数年間を揺れる電車で思い出していた。
「ねえ、夏実くん」
「ん?」
「私、確かに夏実くんに依存してた。っていうか、あの時は君が依存させてくれたんだよね。でも、心の拠り所をくれたおかげで、少しずつ人と話す事も昔通り出来るようになった。リストカットする事も無くなった。だから、私は夏実くんに感謝してもしきれない」
「そっか、それは良かったね」
初めて聞いたあの時の本音に少し嬉しさ混じりの返事をした。
そして俺は何を思ったのか、彼女の左手首をブレザーの上から優しく掴む。天音はえっ、と不意に突かれたかのように小さく驚く。
「良かったと思ってるよ」
少しはにかんだ笑顔をみせてしまった。天音とは2年も関係があるんだ。心の内側を見せ合える関係の彼女には何でも話せるし、普段ぶっきらぼうな俺でも表情をコロコロ変えて、笑い合える。
「ふふっ。夏実くんが笑うとこなんて久しぶり見たよ。やっぱり可愛いね。君には笑顔が似合うよ」
「それって男が言う
「え〜、私にとって夏実くんは最高の主人公で最愛のメインヒロインなんだよ?」
「全然嬉しく無さすぎる設定だな」
「学校全体から嫌われてるヒロインに手を差し伸べて、他の男子に陰口を言われたら、コイツはそんな奴じゃねぇ!!って私がぶん殴って、君は私に恋するの。ね?いい設定でしょ?!ヒロイン役はよろしくね」
「デジャブだからそれやめろ。今までこと全部無意味になるぞ」
割と本気でやりそうなので、念入りにやめるよう促す。俺とコイツの努力が水の泡になるので本当に勘弁して欲しい。
「あ、そうだ!夏になったら一緒に海やプールに行こうよ!私のおっぱいを拝むことが出来るよ?」
「水着じゃねえの?」
「う〜ん。夏実くんなら・・・いいよ?何しても」
コイツは何を言っているんだろうか。腕を組んで、制服の上からでも目立つ胸を寄せて俺に対していやらしい視線を送ってくる。
「普通に海とかプールは行きたくない。単純に人混みが苦手になってしまったからな」
「なら、克服していこうよ。私が一緒に隣にいてあげるから大丈夫だよ」
「うん。そうだな・・・・・・。俺も成長しなきゃいけない時が来たみたいだ」
二人の間に静寂が走る。いつまでも、生温いことは言ってられないみたいだ。彼女は走り出している。俺だけが止まっていられるわけじゃない。
天音がいれば──────────ん?
「いや、待て」
「ん?どうしたの?」
甘い言葉に騙されそうになっていた。小悪魔的な笑みで俺を欺こうとする彼女はらきょとんとしているが俺は失敗しない。
「克服って言うけど、お前がこうなった元凶なの忘れんなよ」
「・・・・・・・・・あ・・・・・・」
「天音が俺の過去流さなきゃ俺はそれなりの生活してたんだよ・・・・・・・・・。さっき、なんか言ったか?」
「・・・・・・なんでもないです」
彼女は最寄り駅に着くまで魂が抜けていた。
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