第20話 目覚めさせる算段

カミュスヤーナがここユグレイティの地に帰還したのは、テラスティーネが眠りに落ちた翌日の夜だった。


さすがに丸一日たっても目覚めないのは遅すぎると思い、エンダーンはアメリアに、カミュスヤーナの様子を見てくるよう命を出した。カミュスヤーナは目が覚めており、テラスティーネが目覚めていないことを知ると、転移陣でこちらに戻ってきた。

今は、テラスティーネが眠っている寝台の横に置いてあった椅子に座り、彼女の手を取りながら、その様子を見つめている。


「エンダーン。テラスティーネはなぜ目覚めない?」

「私も夢の中のことは推測でしかないのですが、父上の夢が壊れた時に、以前父上の夢の中に彼女の魂が退避したように他の夢に移ってしまった。または、母上の魂がある状態で夢が壊れてしまったから、目覚める手段を失ってしまった。とか。」


「・・私のせいか。もう、彼女は目覚めないのか?」

「・・。」

エンダーンは何とも言えず、口を噤む。


エンダーンが聞いた限りでは、カミュスヤーナが魔力を使って夢を壊していなければ、カミュスヤーナもテラスティーネも目覚めないままで終わっただろうと思う。だから、カミュスヤーナがとった行動は間違いではないと言いたい。


「私は彼女を失ってしまうのか?」

カミュスヤーナの後ろに立っているエンダーンからは、彼の表情が見えない。エンダーンは一度大切な者を失っている。姿を変えて側にはいるけれど、以前の記憶はない。だから、彼にもカミュスヤーナの気持ちは分からなくもない。


「私は彼女がいないと生きていけないのに。」

カミュスヤーナは淡々と言うが、これは悲痛な叫びでしかない。

「・・母上がしたように、父上が母上を目覚めさせる方法は取れます。目覚めるかどうかは賭けになりますが。」


エンダーンは、これ以上カミュスヤーナの様子を見ていられなくなって、彼に向かって提案をする。カミュスヤーナが、エンダーンの方を振り返った。泣いてはいないが、とてもひどい顔をしている。きっと、テラスティーネが見たら怒るだろうと、エンダーンは思った。


「少しでも可能性があるなら。方法を述べよ。エンダーン。」

「はっ。母上も父上も私が渡した夢に入る魔道具を身につけたままです。これは一方通行ではないので、母上が父上の夢に入れたように、父上も母上の夢に入れます。父上が母上の夢に入って、母上の目を覚まさせればよいのです。ただ、母上は自分から父上の夢に入っているので、今自分が夢の中にいるという認識はあるはずです。それでも目覚めないということは、夢だと認識するだけでは目覚めるのに足りないということになります。」


エンダーンの提案を聞き、カミュスヤーナは、自分とテラスティーネの腕に付けた魔道具に目をやった。

「では、夢を壊せばいいのか?」

「それですと、今度は父上が目覚めない可能性があります。」

カミュスヤーナが顎に手を当てて考え込む。エンダーンもこれ以上の助言はできない。やはり他の方法を模索すべきだろうか?と、彼は考える。


「もう一つの懸念は、母上が自分の夢に戻っている状態かどうか分からないということです。戻っていれば、この魔道具を通じて、母上に会えますが、戻っていない場合、まず母上の居場所を探すことから始めなくてはなりません。」


「・・分かった。もし眠ってもテラスティーネに会えなければ、一旦目を覚ます。この魔道具は私と彼女の夢の中しか行き来はできないのだろう?」

「ええ、深追いは禁物です。母上が魘されている様子もないので、慎重に対処したほうがいいと思います。」


カミュスヤーナは、テラスティーネの背中と膝裏に腕を差し込んで、彼女の身体を持ち上げると、寝台の奥に寝かせ直し、手前に自分が腰かけた。エンダーンはアメリアに命じ持ってこさせた軽い睡眠薬を彼に渡した。

彼は渡した睡眠薬を一気に煽った。そして、その場に横になる。


「夢の中では、私は助けになれません。どうか無理はなさらないように。」

エンダーンの言葉に真剣な面持ちで頷くと、彼は瞼を閉じた。

彼の手が、彼女の手と繋がれているのを見取って、エンダーンは何とも言えない気持ちになって、その顔を歪めた。

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