第42話 土下座
《砂月紫陽花―視点》
私と西君はラブホの奥にある事務所に連れて行かれた。
そこで警察二人が西君に何か話している。私は少し離れたところからそれを見ていた。
ラブホの女性スタッフさんもいて怯えている。彼女が通報したのかもしれない。
「あの、私帰ってもいいですか?」
すると警官のおじさんが一人、私のところへ来て。
「君は彼の知り合い?」
「地元の友達です」
「ああ、そう……、そしたらもう少し待ってくれない?」
なんで?私関係ないでしょ?
「電話してもいいですか?」
「いや、それもちょっと待って」
「……」
わけがわからず待っていると、ラブホの裏口、事務所のドアが空いた。ドアの先は外になっていて、たぶん従業員が出入りする扉なのだろう。
そこから警察官が更に5人入ってきた。
その中の女性警官が私のところにやってくる。
「あら君、可愛いね!ごめんなさいね。ちょっとだけ事情聞かせてくれるかな?」
「……わかりました」
それから私は今日の出来事や西君との関係を警察のお姉さんに説明した。
彼女の話によると、最近池袋で起きた事件で、防犯カメラに映っていた不良少年の犯人グループの中に西君と同じ顔の男がいたらしい。
最初に私が西君と友達と答えたから、私も犯人グループの一味だと疑われていたようだ。
結局ラブホで2時間くらい拘束された。そして、西君は警察署へ連れて行かれ、私は開放された。
開放される頃、ホテルのオーナーさんが出社して、従業員のスタッフさんから色々事情を聞いていた。
警察から「もう帰っていいと」私が開放されるとオーナーさんが話しかけてきた。
「ちょっと、これ見てくれませんか」
「はい」
パソコンのモニターを見ると映像がながれた。
「これ、防犯カメラの映像なんですけど、被害届出したり、民事裁判なんかで必要になると思いますので差し上げましょうか?幸い他のお客様は映っていないようなので……。ただSNSにアップするのはやめてもらいたいんですけど」
「そういうことはしないです」
「では、うちも後から請求されると大変なので差し上げますね。映像ファイルをスマホにメールで送りましょうか?」
訴えるつもりないし、たぶんいらないと思うけど念の為貰っておこう。
「はい。お願いします」
《有間愁斗―視点》
水曜日、夜――。
広島まで来てくれた紫陽花が俺に話したいことがあると言うので、居酒屋の個室に入った。
そこで、日曜日、下着を買いに行った経緯を簡単に聞いて、それからラブホの防犯カメラの映像を見た。
音声も綺麗に入っていて、紫陽花はラブホとは知らずに入ってしまったことや、俺に言われて買ったエッチな下着が入った紙袋を取り返そうと必死だったこと、俺と電話しているときの様子、警察に捕まり事情を聞かれ、開放されるまで全て見ることができた。
警察に拘束されてからは紫陽花が動画を2倍速にして、それでも全部見るのに1時間以上かかった。
テーブルを前に二人横に並んで、彼女が時間がかかるからと料理を注文し食べながら一緒に動画を見た。所々で彼女が心境を解説してくれた。
警察は裏口から出入りしていたようで、俺は2時間近くあそこに居たのに全く気づかなかった。
エッチな下着が気になるが、今はそこじゃない。
俺は許せなかった。紫陽花に嫌がらせをした西って奴が……。
そして――、
紫陽花を疑うだけで、この時彼女を助けられなかった自分自身が。
動画を見終えて彼女が言う。
「それでこの後裏口から出て、直ぐに有間さんに電話したんですよ。出なかったですけど……」
俺は頭を抱えて目を閉じた。
頭の中に、今日の昼の紫陽花とのLINEや通話のやり取りが思い出される。
【有間さん何してますか?】
【新しい下着買ったんですけど、見たいですか?】
【何かあったんですか?】
【もう!また連絡くれない!今度こそ本当に怒りますよ!】
【事故に合ってたら心配です】
【携帯壊れたのかな?】
【返事来なくて寂しい。私うざくてすみません】
【有間さんに会いたいよ……心配です】【声だけでもいいから、聞きたい】
『あっ!やっと繋がった!先週もそうでしたけど、週始めは連絡できない呪術にでもかかっているんですか?』
『もう本気で怒りますよ!』
『有間さん悪いです!最悪です』
『酷い人です!最低です!バカぁ!』
「うるせーッ!バカ女ッ!」
『わ、私……バカじゃないもん』
『謝って…ください…うっ……ぅっく』
『うっく、ずっ……あ゛っあぁぁぁ、えっく、あ゛あぁぁぁ……酷いですよ……ひっく、ずっと心配してたのに……えっく』
『ずっ…ぇっく……誰が浮気?』
『私、浮気なんてしてない!私が好きなのは有間さんだけだもん!』
『……私、ラブホに入ったけど、浮気なんてしてない!』
『いや、全然わかってないよっ!!有間さん広島の第三工場にいるんですか?』
『……わかりました』
最後の「わかりました」という決意の籠もった声がまだ耳に残っている。
こと時、なんの迷いもなく即決で今日俺に会いに行くことを決意したのかもしれない。こんなに遠い場所なのに。
バカなのは俺だったって話で……チーン。
俺は長椅子の上で正座すると隣に座る紫陽花に向き直り、土下座した。
「俺が悪かった!ごめんなさい!!」
ああ、俺の彼女はこんなに出来た娘なのに俺はなんて情けなくて駄目な奴なんだ……。
今度同じ様なことがあったら、全力で彼女を信じ、絶対に守ろう。
《砂月向日葵―視点》
有間が土下座している頃、砂月家のドアフォンが鳴った。
ピンポーン♪
「誰よ?こんな遅くに」
リビングで寛いでいた私はオートロックのドアフォンを通話にする。モニターに一階ロビーの映像が映った。
不良っぽい男が4人、にやにや笑いながら話している。
「どちら様ですか?」
『あっ、シオカいる?』
『ギャハハハハ、名前呼びウケる』
『おいッ!俺の女、呼び捨てにすんなよw』
『くくく、お前のじゃねーだろwww』
なにこいつら?ヤバくない?
「紫陽花は広島県に行ってて暫く帰ってこないですよ」
『ええぇ〜!いつ帰ってくるのぉ〜?』
『うわっ、キッモw』
「すみません。聞いてないので知りません」
そう言って私はドアフォンを切った。
なんかヤバそう。紫陽花に伝えた方がいいよね?
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