第32話 エッチしないと出られない部屋




《有間愁斗―視点》


 リビングで一人、酒を飲んでいるとお姉さんが来た。


「有間さんこんばんは~」

「どうも、お邪魔してます」

「お酒飲んでるんですね?」


 彼女とはいえ他人の家のリビングで一人お酒を飲むのは若干心苦しい。それを家族に目撃されているわけで、なんとも居た堪れない気分だ。


 お姉さんも紫陽花に似て美人ではあるが、気が強そうというか、少しきつ目な顔をしている。髪は明るい茶色でボブヘア、身長は紫陽花より少し高い。今日は黒のタントップにジャージ姿。


「すみません。頂いています。お姉さんも少し飲みますか?」


 お姉さんは22歳だから酒を飲むはずだ。


「昨日も思ったんですけど、有間さんの方が歳上なのにお姉さんって呼ばれるの変な感じしますね」

「えっと……」

向日葵ひまりでいいですよ」

「わかりました」


「お酒かぁ〜、もう遅いしどうしようかなぁ」

「まぁ良かったらで……」


 向日葵さんは冷蔵庫を開ける。


「ビールは苦手だから……冷蔵庫にチューハイが入ってたよね、あっ、あった」


 冷蔵庫から取り出したチューハイをその場で開けるとキッチンで立ち飲みを始めた。


「紫陽花、昼間に有間さんに飲んでもらうってお酒準備してたなぁ〜。有間さん酔わせてどうするつもりなんだろうね?」


 聞いていた話と少し違うぞ。


「お母さんが飲んでもらえって言ったのでは?」

「ん?そんなこと言ってたかなぁ?お母さんは男は酔うと襲ってくるって心配してましたけど……」


 つまり、俺を酔わせて自分を襲わせる積りだったのか?

 部屋の鍵を締めて「この部屋、エッチしないと出られない部屋なんですよ。どうしましょう?」とか言って(妄想)

 そんなのもう、選択肢なんてないじゃないか!


 向日葵さんは話を続ける。


「紫陽花、有間さんにいつも奢ってもらってるからって言ってましたね」


 彼女なりに気を使ってくれての、もてなしだったのか……。


「そんなの気にしなくていいんですけどね」

「私の元彼はいつもお金無くて割り勘か私が奢ってましたよ。紫陽花が羨ましい」

「何で別れちゃったんですか?」

「え?それ聞いちゃいます?」

「いや、まぁ何となく……(別に興味はないけど)」

「紫陽花が来るまで隣座っちゃいますね」


 そこから向日葵さんの元彼話を聞かされた。元彼は散在癖のある女たらしで、よく喧嘩もしたがその都度セックスで丸め込まれて5年も付き合ったと赤裸々に話してくれた。

 しかし最近、向日葵さんの預金を使い込んだことと半年前にSNSで知り合った浮気相手と二股してたことが発覚し、大喧嘩になって向日葵さんがフラれた。


「私もキツく言い過ぎるから、いつも怒らせちゃって。そこは反省してるんですけどね」


「でもそれって別れて正解ですよ。俺の友達で浮気するヤツなんて……あ、アイツは浮気してたな……でもそんなにいないですよ」


「いることはいるんだ、ふふふ。……昔は優しかったんですよ。結婚するって思ってたから浮気なんて通過点で直してくれれば良かったのに……」


 人の恋愛に兎や角言う積もりはないが、そういう奴はやめておいた方がいいと思う。


「寛大ですね。で、その浮気相手の女はどうなったんですか?殺したんですか?」


「殺さないわよ!……さぁね?そっちを選んだから今も付き合ってると思いますよ……、私は、高3からずっと付き合ってたのに……」


 そこまで言ってポロっと涙が溢れた。余程悲しかったのだろう、悔しかったのだろう。

 5年も付き合ってこの仕打ちはあんまりだ。


「ふふふ、でも、もういいんですよ」


 向日葵さんは泣きながら笑っていチューハイを一気に飲んだ。


「もう忘れることにしたんです。有間さん話し易いから、どんどん喋っちゃう。紫陽花のこと裏切らないでくださいね。あの子、純粋でプライド高くて傷付きやすいから裏切られた時のショックは私より大きいですよ」


 そう言われて胸が痛くなった。俺には一つだけ秘密がある。例のアプリだ。でもこの秘密を打ち明ける積りはない。

 最近は全て紫陽花に話して楽になりたいとう気持ちが強いが、仮に話したところで不安にさせるだけ。解決しない。


「肝に銘じておきます」


「じゃあ私、部屋に戻りますね。あ、そうだ。昨日はWi-Fiありがとうございました。環境凄く良くなってほんと助かってます」


「俺にできることなら、いつでも力になります」


 そう言うと向日葵さんは微笑んで部屋へ戻っていった。



 向日葵さんがいなくなってからスマホを見る。すると麻莉ちゃんからLINEが来ていた。


麻莉【日曜オッケーですよ。会うの池袋でいいかな?】


 俺は例のアプリの件で麻莉ちゃんと連絡を取っている。そして、彼女の知り合いで催眠アプリを使った人を紹介してもらうことになった。何か解決策が聞けるかもしれない。




《砂月紫陽花―視点》



 私は湯船に浸かりながら考える。


 普通……おちんちんって言わないのかな?

 教育実習で先生方がオムツ替える時に普通におちんちん綺麗にしましょうね~って言ってフキフキしてたけど……。

 大人男性に言ったら変態なのかも?

 じゃあ何て言えばいいの?松茸?……有間さんの松茸w

 ぷ、ふふふ、面白い。


 はぁー、有間さん待たせてるからもう出よう。


 私は立ち上がり脱衣所に移動する。

 体を拭いて、予め用意しておいた着替えを見て少し悩む。


 この下着……可愛くない。新しい下着欲しいな。日曜日一人で買いに行こうかな……。


 お酒飲むと男の人って襲ってくるらしいけど……、今日は凄く体調いいから襲われても大丈夫だよね。

 うーん、下着が微妙だけど他にいいの無いし。



《有間愁斗―視点》


 紫陽花がお風呂から出てきた。


「お待たせしました。チューハイも飲んだんですか?」

「これ、さっきお姉さんが来て飲んでいったよ」

「ふーん。昨日も話してたし、お姉ちゃんと仲良いですね?何か言ってましたか?」


 あれ?機嫌が悪くなった。これ不味いパターンじゃ?


「お母さんは男にお酒飲ますと襲われるって心配してたけど、紫陽花が俺の為にお酒用意してくれたって……」

「え?いや、ち、違いますよ!お母さんも飲んでもらえって言ってました!」


 え?何かムキになってるぞ!?


「いや、でも……」

「お母さんも言ってましたッ!」


 語尾が強い!


 例えば、彼女がカラスは白と言えば白、そこの窓(3階)からちょっと飛び降りて、と言えば、喜んで飛び降りさせてもらう。そんなの常識なんだよ!


「お母さん優しいなぁ〜」

「疑ってますよね?」


 暗殺者が仕事するときの目で俺を睨んでいるんだが……。


「え?な、何を?美味しいお酒飲めて、ほんとお母さんに感謝感謝だよぉ〜!素晴らしいお母さんだなぁ〜。お母さん優勝!」

「バカにしてますか?」

「いやしてないって!そ、そろそろ部屋行く?」

「そうですね…………本当は私が有間さんに飲んで欲しくて用意したんです……」


 いや、そっちの方が嬉しいけど!


「そっか、ありがとう、嬉しいよ。……しーおか」


 俺が名前を呼んで笑うと彼女は難しい顔をやめた。


 それからテーブルを片付けて彼女の部屋へ向かう。そして、部屋の扉を開けると……、俺の布団が撤去されていた。






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