第22話

 学校の放課後になるといつものように秘密の溜まり場に向かっていた所、部屋から新田君の泣き叫ぶような声がおもいっきり外にダダ漏れていた。


「何かあったのかな?」


 中に入るとすでに皆んな揃っていて、新田君が松岡君にすがりついて何かをお願いしているようだった。


「なあ〜 頼むよ〜 お願い! お願い!」


「ど、どうしたの?」


 私はあまりに必死な様子の新田君に話しかけた。


「実はさあ、バンドが解散しちゃったんだよ〜 だからまたメンバー集めから始めたんだけどいい奴がいなくてさあ〜 松岡にベースを頼んでたんだけど首を縦にしてくんないんだよ〜」


「ヘぇ〜 松岡君ベースできるんだ」


「中学生の時に新田から無理矢理やらされてね……最近でもたまに弾くときがあるけどバンド活動となるとねぇ……」


 松岡君は乗り気じゃないみたいだ。


「他にベースが見つかるまででいいからさ! 一生のお願い‼︎」


「う〜ん……」


「面白そうだね。私も見てみたいな」


「しょうがないな」


 私は何となくそう言うと松岡君はその言葉にやる気になってあっさりと首を縦にしていた。


「よっしゃ! 決まり! 上条が来てくれて良かったぜ!」


 新田君は私にありがとうと手をガッチリ握られると早速とばかりに松岡君と今後について話し始めていた。



 家に帰るのがこんなにも嬉しくて違うんだと椎名さんが教えてくれた。他の人だと当たり前のようだけど私には毎日家で迎えてくれる人がいると思うと嬉しかった。


「おかえり可奈」


「ただいま」


 このやりとりがいつまで続くのかな……ずっと続いてくれたらいいのにな……。


「可奈ちょっといい?」


「何?」


「シュウヤがね、可奈を助けてくれたお友達にお礼がしたいんだって」


「お父さん今ライブで忙しいんじゃないの?」


「私もそう言ったんだけどね、豪華なディナーを御馳走したいって言ってたわ。だから友達に空いている日を訊いて欲しいの」


「分かった。いつでもいいの?」


「何日か案が来てるからその日がいいかな。ちょうど夏休みが始まる時期だから」


「まさかお父さんは来ないよね?」


「どうかしら……来そうな感じだったけど」


「だ、ダメだよ! 皆んなライナのファンなんだから驚いちゃうよ!」


 皆んなには悪いけど黙っておきたかった。お父さんがライナのシュウヤなんて知ったらどんな風に見られるか不安だったから。


「まあそうね……シュウヤには私から言っておくわ」


「うん、お願い」


 次の日皆んなが集まっていたので私は昨日の件を話すことにした。


「あのね、お父さんが皆んなにお礼がしたいんだって。この前私を助けてくれた事なんだけど」


「え? いいよぉ〜 あったり前のことをしただけなんだからさぁ」


 藍沢さんはそう言ってくれたけど私としても何かお礼がしたいと思っていた。


「皆んなを食事に誘いたいって言ってて……ダメかな?」


「藍沢〜 せっかく誘ってくれたんだから行こうぜ! 上条の家金持ちだから相当いいもん食えそうだし!」


 新田君は笑いながらそう話した。


「まあ、食事ならいいか。オッケーだよ可奈ちゃん」


「松岡君と真田君もいい?」


「は、はい!」


「じゃあお言葉に甘えて」


 私はお父さんに言われた日にちを皆で見てその日を決めた。


「どんな美味しい夕食なのかなぁ〜 楽しみ〜」


 日にちが決まると藍沢さんは嬉しそうにそう言った。


「何だよさっきはいいよとか言ってたくせに!」


 新田君に突っ込まれた藍沢さんは顔を少し赤くした。


「う、うっさいわね!」


「「「あはは!」」」


 私は笑いながら窓から真っ青な空を見ると熱く降り注ぐ陽の光を受けた。


「すっかり夏だね〜」


 私の言葉に皆んなも視線を窓に送った。


「もうすぐ夏休みだ! 皆んなでいっぱい楽しもうね!」


「おうよ! 最初のイベントは上条の親父さん招待の豪華ディナー! 次は川でバーベキュー!」


「最後は花火だ!」


「私と可奈ちゃんはお互いの家にお泊まりすんだよね〜」


 藍沢さんは私に抱きついて新田君と松岡君に見せつけるようにして言った。


「マ、マジかよ⁉︎ いつの間にそんな仲良く……」


 驚く新田君に藍沢さんはヒヒヒと笑っていた。


「羨ましいでしょ〜 ああ、早く夏休み来ないかなぁ〜」


「ほんとだね」

 

 私は今楽しくてしょうがなかった。こんなにいい友達と笑い合ってる……だから言えなかった……2学期には転校するなんて絶対に……。

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