第20話

「そんな……せっかく見つかったのに……」


「くそ!」


「真帆……」


 ライナのスタジオに帰った椎名とシュウヤは他のメンバーに話をするとその悲しい事実に言葉が出ず。部屋には重い空気が流れていた。


「ねえ、真帆外出できないかな?」


 沈黙の中ドラマーのユウキがそう口を開くとメンバーは顔を上げた。


「そうだ! 俺達の成長した姿を見せてやろうぜ!」


「分かった! 私が病院に頼み込んでくるわ! ダメだったら無理矢理にでも連れて行く!」


 椎名もメンバーが何をやろうとしているのか分かるとその案に乗ったのだった。


 次の日。


 病院の駐車場には車椅子に乗る真帆とそれを押す椎名の姿があった。


「恵、何処に行くの?」


「ふふふ、内緒!」


 首を傾げる真帆を車に乗せると椎名は笑いながらエンジンをかけた。


 車はコンサート会場に入っていくと大きな会場は誰1人いない薄暗い場所だった。ステージから少し離れた場所に車椅子を停めるといきなりステージに光が灯る。


「え……」


 真帆の目はステージにいるライナのメンバーに釘付けになっていた。


「久しぶりだな真帆!」


「今日は俺達の成長した姿を存分に見せてやるからな!」


「さあやろう! シュウヤ!」


「真帆! 昔に戻ろう! お前と俺達のライナだったあの時に!」


 シュウヤは昔、真帆が一緒にいた頃の曲を歌い続けた。今のバラードやポップスじゃないバリバリのロックを奏でる。


「みんな……」


 真帆だけじゃない、ライナのメンバーも椎名もあの若く輝いていた頃に思いを馳せる。


 一時間の間その場にいた全員があの頃に戻っていた。


 演奏が終わると静かな会場に真帆の拍手をする音が鳴り響いた。


 それからライナのメンバーは真帆を囲み話続けた。過去の話や今までのこと、決して暗い話はしない。楽しかった事をいっぱい話して昔のように笑い合いあっていた。


「そろそろ時間よ……」


 椎名の声に一瞬その場は時が止まったように無音になる。


「みんな今日はありがとう。楽しかったわ」


「まだ聴かせたい曲があるんだからな!」


「うん、今度は娘と来るわ」


「真帆とシュウヤの子供かぁ、きっと可愛いんだろうな!」


「ふふ、凄く美人でビックリするわよ」


「じゃあ俺が貰おうかな」


「お前なんかにやれるか!」


「「「「ははは」」」



 椎名が真帆を車に乗せ病院に戻る時だった。


「恵……」


「どうしたの?」


「こんな事を言ったら怒るかもしれないけど聞いてくれる?」


「何よ、話しなさいよ」


「あのね……」


 椎名は真帆の話を聞いた。


「な、何を言ってるのよ!」


「私、恵だったら安心できるのにな……」


「ばか……」


 椎名が病院の部屋まで真帆を連れて行き帰ろうと立ち上がると真帆に話しかけられた。


「恵、今度可奈とシュウヤを会わせたい。それでね全部話しておきたいの……あの子に謝りたい。私のせいで寂しい思いをさせてしまったから」


「分かったわ、言っておく」


「恵……また会えて良かった……」


 それが椎名が聞いた最期の言葉だった。次の日容体が急変した真帆は天へと旅立っていった。


「真帆……いやぁ‼︎」


 真帆の病室に着いた椎名とシュウヤは医師から死亡宣告を受けると椎名はベットで眠る真帆に抱きついた。


 シュウヤは必死に涙を堪えるも真帆の白い顔に昔の思い出が溢れると止めどなく涙が流れた。


「先生……可奈ちゃんが着いたそうです……」


「そうか……」


 シュウヤはその会話を聞くと泣き崩れる椎名を抱えて部屋を出て行った。


「うっ……真帆」


 病室の近くにあるベンチに椎名を座らせシュウヤも隣に座り顔を俯かせているとふいに誰かが前を通った。


「はあ……はあ!」


 ずっと走ってきたのか荒い息づかいをしながら真帆の病室に入っていった。


 そして……。


「うわぁー‼︎」


 少女の泣き叫ぶ声が耳に入るとシュウヤは胸をグッと掴んだ。


 まだ17歳の少女が非情な現実を突きつけられたのだ。シュウヤは少女の泣き喚く声に激しい胸の痛みを感じて堪えていた。


 そしてシュウヤは立ち上がった。これから絶望に瀕した彼女に言わなくてはならないことがあった。どんな反応をされるのか怖くなってくる。


 シュウヤは赤くなった目をサングラスで隠すと足を踏み出した……。




 3日後、真帆の墓の前にはライナと椎名の姿があった。


「真帆……」


「最後に会えて良かった……言えなかった事全部言えたから」


「これからも俺達の事見守っていてくれ……」


 ライナのメンバーは手を合わせると真帆の墓に語りかけた。


「真帆……絶対に約束は守るから……安心して眠ってくれ」


 シュウヤは手を合わせると目を閉じて真帆が眠る墓にそう話しかけた。


「よし! 行くか!」


 沈黙を破るようにシンが立ち上がった。


「俺達にはやる事がある!」


 続けてユウキも立ち上がる。


「ほら恵も! いつまでも泣いてたら真帆が安心して眠れないだろ!」


 アキはずっと無言で泣き続ける椎名に声を掛けた。


「うん……」


 皆は立ち上がると新たな決意を胸に真帆の墓を後にしたのだった。


 ライナのスタジオには写真が飾られている。デビューした時に撮った写真だ。ライナのメンバーの前には笑顔を見せて座る真帆と椎名がいた。


 そこへ新たにひとつの写真が飾られることとなった。先日撮ったばかりのもの……ライブ会場をバックにライナのメンバーの前で真帆と椎名が笑顔で映る写真だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私の心に空いた穴 〜天涯孤独になった美少女に起きる奇跡から始まるラブストーリー〜 尚太郎 @sz9999g

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ