ドワーフの鉱物症候群

ドワーフの日記より抜粋


これを「ミネラル・シンドローム」と名付けて、少しずつ研究することに決めた。

まずは標本作りをろうそく屋に頼むとするか。


鉱石の採掘も始まるし、忙しくなるな…





この世界は広く、まだ全体像の地図は完成していない。

命の続く限りこの世界を冒険し、謎を解明するのが一族の定め。


自ら大賢者と名乗ってはいるものの、自分より知識のある生き物がこの世界のどこかにいるかもしれぬ。


その時は潔く情報を共有し合おう。

そんなことでまた争いが起きてしまっては、この世界も長く持たない。





採掘場から珍しい地層が出たと報告があった。


知らせを受けた採掘場は、水の地区から遠く離れた西の果てにあるが、青い地層が出たという。


青い地層は水の地区に多く、水の成分を豊富に含んだ物質が多い。

他の地区で出ることはあまりないことで、新しい物質や危険なものも多い。


急いで見に来てみると、青以外にも色とりどりの美しい地層が顔を出していた。





しばらくそのあたりを調査すると、この土地にはありえない地域の土や鉱物が、痩せた土地の一角に顔を出した。


四角く切り出せばなんとも美しい標本となるだろう。


誰かに見つかれば、たちまちこの綺麗な物質は根こそぎ掘り起こされてしまう。


それはいけない。

この世界の謎を解くカギとなるかもしれぬ。不思議な地層は守らねばならない。


ただ、そう思った自分でさえも、心が奪われて吸い込まれていくような、堕落してしまうようなこの感覚は何だ?

まさか、これにも何か魔力が宿っているというのか?


たまらず、この世界の力を抑えることのできる「あの男」を呼んだ。





「あらあら、珍しいじゃない」


いつぶりかなぁ、助けてと言われるのは


楽しそうな声が聞こえた時には、私の意識は宙を舞い、何とも言えぬ心地よいまどろみに包まれていた。もう目を開けていられない。立っているのか、座っているのか、自分がどんな表情をしているかもわからない。

だんだん息をするという事すら、面倒になる。


「これは僕の力じゃ抑えられないですねぇ」


その魔法使いはなぜか楽しそうに言った。


この数と、この強さの香りはちょっとキツいよねぇ、何千年も生きてる身体には…


そんな言葉が聞こえて、私は少しだけ意識を失った。





ほどなくして私の意識は元に戻ったが、そこにはもう美しい鉱物の地層は見えない。


「魔法じゃなくてただのニオイですね」


危ないから地層はふさいでおいたよと例の魔法使いは言った。


濃縮された様々な香りが、あの美しい鉱物と共に外に出たようだ。


少しの香りなら安らぎを与えるものも、強すぎたり体に合わない場合は毒となる事もあるのか。


「香りには好き嫌いもあるからね。いい匂いも、強すぎたり好みじゃないと今みたいに具合が悪くなるから気をつけくださいね」


何事もほどほどにね、また見たい時は僕を呼んでくださいよ。


そう言って、やつは魔法陣の中に消えていった。




end


ニオイとは不思議なものだ。


癖になる香りとあの煌めきが、未だ脳裏から離れない。


その昔、ここで何があったのか。

研究はまだ始まったばかりだ。


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