アークタワー PROJECT HALO

こたろうくん

第1話 斉天の塔とその世界

  見上げれば雲よりも高い“塔”があり、世界の全てを見渡していると云う。

 “斉天の塔アークタワー”が見下ろす世界――ノイア・ネレイア。

 男は、ヴァルキンは今日もそれを見上げていた。晴天の向こう、遙か星々の世界で自らを見ている誰かを。


「どうにもきな臭い情報が入った。アークタワー付近の空で何らかの光化学反応があったんだが、どうだ。買ってみるか? もしかすると、もしかするかもしれないぜ?」


 旧友である便利屋のベイクという男が情報屋から仕入れた、きな臭いという情報。

 そしてその晩から彼は、彼が相方パルと称する装甲貨物車で反応の検出地点へと向かっている途中。すでに空は白んでおり、程なくして朝が訪れることだろう。独りのヴァルキンは腰を据えた運転席で大きなあくびを吐いた。助手席には灰色の毛色をした仔猫が丸くなっていて、時折尻尾が震えている。


 強化ガラスが嵌め込まれた窓からはすでにアークタワーの巨大さを見ることが出来て、ガラスに投影されているナビゲーションでは目標地点が近付いていることを知らせる表示が出ていた。

 運転を始めて五時間。ようやくかとヴァルキンは溜め息を吐く。


「お前はいいな、猫。食って寝て出すだけで生きていけるんだから」


 運転もしなくていい――ヴァルキンは傍らでよく寝ている猫へと目もくれずに言った。

 猫にはノクターンという名前があるのだが、ヴァルキンはもっぱら猫としか呼ばない。そんなノクターンもすでに二代目。彼の首に掛かった二つのドッグタグを見る度に自らも年を取ったと、四十がらみのヴァルキンは思うのである。


 それから更に一時間。遂に装甲車の十輪が停止した。

 空はもう青々としていて、日差しが降り注いでいた。ヴァルキンはエンジンを掛けたままに外に出て、荒れ野へと降り立った。そして全身で日差しを浴びながら背筋を伸ばす。


 アークタワー近辺は人が住むことに適さない。ここではかつて戦争があり、大地が死んでいるのである。加えてアークタワーから出現する哨戒兵器の存在もあり、今ではかつての戦争の跡が残るばかりの荒野と化していた。


「境界線ギリギリか。あまり時間はかけられん、か」


 左手首裏に装着した情報端末を起動し、位置情報を確認する。彼が今いる地点は哨戒兵器の索敵範囲から外れた場所であったが、目的の反応が予測されている地点は索敵範囲の内側である。


 見付からないことが最上ではあるが、万が一の事態も想定したヴァルキン。彼は装甲車の貨物室へと近付き、タラップを降ろす。数段しかないそこを登ると貨物室のドアがあり、側にある小箱のフタを開けるとテンキーが現れ、そこに彼は設定した暗証番号を打ち込む。すると微かな排気音ののちにドアが開き、室内灯が点灯した。


「引退するためにも稼がなきゃな」


 そうヴァルキンは独り言ち、貨物室は彼が入った後に静かにドアを閉めるのだった。

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