異世界に召喚されて体を繋げろとのことなので以前の世界でフラれた男と激似の男を指名しました
箱根ハコ
第1話「いや、冗談だろ。お前ホモだったのかよ。気持ち悪い」
「いや、冗談だろ。お前ホモだったのかよ。気持ち悪い」
高校の卒業式で、三崎省吾の恋はあっけなく終わりを迎えた。愛した人の嫌悪感とともに。
そうだよなぁ。
省吾は初恋相手である飯島蓮のしかめられた顔を見て納得する。
友達だと思っていた同性からいきなり恋愛感情を向けられたら気持ち悪いと思うよな。
そんなことはわかっていた。けれど、少しの望みにかけて卒業式の今日、告白に踏み切った。希望はあっけなく打ち砕かれたけれど。
体育館の裏というありふれた告白スポットは桜も咲いておらず、男女比九対一の工業高校ということもあり人はいなかった。だから告白しようと思ったのだ。
「そっか。うん、わかった」
省吾はせいいっぱいの笑顔を浮かべる。
「変なこと言って悪かったな。忘れてくれ」
蓮とは進路が分かれる。うまくやればもう二度と会うことはないだろう。
こうして省吾は幼稚園からの幼馴染みをたった一秒で無くしたのだった。
気持ち悪い、かぁ。
すぅ、と重苦しい風を胸いっぱいに吸い込む。山形の春はまだまだ寒かった。省吾は自宅に戻り、ベランダから外を見上げている。
三月の夕暮れは物悲しく、いっそう省吾の心を落ち込ませた。
団地の四階にある省吾の部屋には彼以外誰も居ない。部屋の中には引っ越し用のダンボールが梱包された状態で積まれていた。四日後に就職予定の会社の社員寮に引っ越す予定である。
蓮の笑った顔が好きだった。そっけない中に隠し持った優しさに触れるたびに心がほんわりと暖かくなる気がしていた。身長が高く無愛想な彼はクラスの中で怖いと言われることが多かったが、幾人かのクラスメイトからは慕われていた。省吾もその一人だった。
小学校三年生の春に蓮に誘われる形で入ったサッカー部は中学高校になっても継続し、お互いの家を行き来する形で交流は続いていた。弱小サッカー部だったのでふたりともレギュラーではあったが、よくて地区大会一回戦、悪ければ予選落ちをする程度のものだった。だから、練習はさほど厳しくはなく、多くの時間を蓮と省吾はこの団地で過ごした。
省吾はというと、絵に描いたようなスポーツ少年で、髪も短く筋肉もついている。身長も175センチと到底女性には思えないような高さだった。
せめて自分がかわいらしく華奢で女性のような外見だったなら、少しは蓮のお眼鏡にかなったのかな。そんなありもしない事を考える。
省吾は即座に首を振る。
女性としてではなく、男性として蓮を愛し、蓮に愛されたかったのだ。
けれど蓮には気持ち悪いと言われてしまった。
「はぁ……」
ため息をつく。
今日も家には誰も居なかった。母子家庭である省吾の母は水商売をしており、めったに家には帰らず彼氏のところに居着いているようだった。
物心ついた時から、母は最低限の金を時折置いて出ていく、それだけの存在だった。そんな省吾に優しくしてくれたのが、蓮と、蓮の家族だった。
近所に住んでいた蓮は部活後にはほぼ毎日省吾の家に来てくれるようになったし、蓮の母も時折蓮に惣菜を持たせてくれた。蓮は省吾が心配だと言っていた。家で一人でいるのはかわいそうだ、と。たまに母と居合わせた時などはもっと家に帰るようにも勧めていた。
そんな蓮に拒絶された。
世界の誰からも自分は必要とされていない気がして、視界が滲む。
「……死にたい」
心の底から呟いた。
団地の端にある省吾の部屋のベランダから見下ろすと、舗装されたコンクリートの地面が広がっている。駐車場になっているが誰もおらず、まるで誘われているような心地になった。
誰からも必要とされていない自分はいらない存在なのではないか。思うと同時に、ひどく寂しい気持ちになり、衝動的にベランダの柵を乗り越え、体を投げ出していた。
重力に従い省吾の体が地面に落ちていく、その瞬間だった。
ふいに白い光に包まれ、次の瞬間には中世ヨーロッパの応接間のような空間に移動していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます