《完結》サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。

ゆちば@「できそこないの魔女」漫画原作

第1章 ちぎれたサラシと【女体化の呪い】

第1話 ちぎれたサラシと【女体化の呪い】

 ビリッビリビリッ


 嫌な音がすぐそばでする。


 私、聖騎士アルヴァロ・ズッキーニはハラハラしながら周囲に視線をやるが、幸い誰からも注目されていないことにホッとした。


(どうかこのまま事態が納まってくれますように……)


 けれど、世の中そんなに甘くない。


 王家主催の茶会をぶち壊しにやって来た国際指名手配中の黒魔術師は、黒髪金眼の若き国王フェルナン・フォン・イフリートに禍々しい魔力のこもった杖先を向けて叫ぶ。


「国王フェルナン! 貴様を呪い殺してやる! 我が最大の術、受けてみよ!」

「よし! 受けて立つ!」


 黒魔術師の前に仁王立ちするフェルナン陛下の姿を見て、私は目玉が飛び出そうになった。


(受けて立たんでいい! こんの体育会系国王……ッ! )


「陛下! 危ない!」


 いくら本人が望んだとしても、従者としては主君が呪われるなんてもっての外。黒魔術師の禍々しい術をフェルナン陛下に浴びせるわけにはいかないと、私は無我夢中でフェルナン陛下の前に飛び出し――。


 ビリリィッ!!


「うわぁぁぁっ!」


 呪いの黒光を身に受けた私は、大きな悲鳴をあげた。


 ちぎれてしまったのだ。

 手足じゃない。そんなグロい展開じゃない。


 ばい〜〜んっっっ!!


 サラシがちぎれてしまい、隠していた私のたわわな胸が騎士装束のインナーのボタンを弾き飛ばしたのだ。


 くっきりとした胸の谷間がインナーの隙間から覗き、それを見た王族の皆さん――とくにフェルナン陛下は絶叫した。


「アルヴァローーーーッ! むむむ、胸がーーーーーッ!」


 声がでかい。ってかめっちゃ見てくる。


「陛下、み、見ないで……っ」


 私が大慌てで胸元を手で隠そうとしても、この大ボリュームをどうにかするのは不可能だった。


(もうダメだ……。女ってバレた……。擦り切れるまで使いまくってたサラシの寿命、完全に見誤ったじゃん……)


 私はもうどうしたら良いのか分からず、半泣きでフェルナン陛下を見つめることしかできない。


 そう、私は女。


 アルヴァロ・ズッキーニ、なんてふざけた名前の聖騎士は仮の姿。その正体は、没落貴族アルヴァローズ・ツー・シルフィード18歳であり、女嫌いで有名な国王フェルナンに十年越しの片想いをしている、恋する乙女だ。


(今まで男のフリをして騙してたって分かったら、女嫌いのフェルナン陛下に嫌われるどころじゃすまない……。最悪、処刑の可能性だって……)


 結ばれることは無理でも、せめて陛下のそばにいたいと願い、必死の思いで聖騎士にまで上り詰めたというのに。


 血と涙の滲む十年が、サラシがちぎれたせいでパーになってしまうなんて。


「アルヴァロ!」


 フェルナン陛下の鋭い視線に射抜かれ、私はぶるりと震え上がる。


「陛下! ももも申し訳ございません。私は……、私は……」


 カタカタと震えが止まらないまま俯く私の肩に、ポンと大きな手のひらが乗った。


 私の大好きな大きな手。

 生まれ変わったら、この手を堂々と握れるような人間になりたい――……と私が来世に思いを馳せていると。


「俺を庇ってくれたこと、感謝する。しかし、まさかお前が【女体化の呪い】を受けてしまうとはな」

「へ……?」


(にょたいか?)


 フェルナン陛下の言葉に目が点になったのは、私だけではなかった。


「【女体化の呪い】だと?!」


 黒魔術師が衝撃を受けた表情を浮かべている。そりゃそうだ。


 今さら、彼が何の呪いを放ったのかは分からない。申し訳ないが、聖騎士である私にはまぁまぁ強い呪いを無効化するくらいの呪術耐性があったため、まったくもって無傷なのである。


(うーん、なんかごめん。謎の黒魔術師の人!)


「【女体化の呪い】などかけていないぞ! 私は――」

「えぇい! 人を騙す悪魔め! 俺の大切な従者を女体化させるなど、言語道断悪即斬んんんッ!」


 人の話を聞かないことに定評のあるフェルナン陛下は、黒魔術師に向かって剣を抜き放つ。

 そしてその剣は王様パワー的なもので眩く輝き、一呼吸で敵の喉元に差し迫った。


「女体化したアルヴァロを元に戻せ!」

「だから、女体化なんて知らねぇ!」


 女体化女体化うるさい。


 だか、黒魔術師は、私が女体化させられたと信じて疑わないフェルナン陛下の剣幕に押されたらしい。

 彼は「せいぜい女体化した従者を楽しむがいい!」と、とんでもない発言を残して一目散に逃げ去って行った。


「アルヴァロ……。その……怪我はないか?!」


 黒魔術師を追うことを諦め、剣を鞘に収めて駆け寄って来るフェルナン陛下の視線は、相変わらず私のはち切れそうな胸一直線。


 それはこの際いいとして。


「私に怪我はありません。でも……、女体化してしまいました」


 ありがとう、黒魔術師の人。

 この場はとりあえず、【女体化の呪い】で凌がせてもらいます。


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