第4話 戦士カイデン
ポツーント村から、カイデンの住んでいるムライーサの町までは、歩いて六日はかかる。
アレクは最初こそ杖をつきながらも軽快に歩いていたが、次第に歩みが遅くなり、ふうふうと息を切らすようになった。
「う~ん、この剣が重くてどうにもならんわい……ここに置いていってしまおうかのう……」
アレクの後ろを飛んでいたモッコが、アレクがブツブツ言っているのを聞き、叱りつけた。
「何言ってやがる。それは『勇者の剣』だろ? 世界に一本しか無い最強の剣だぞ。魔王を倒すときに使わないでどうするんだよ。文句言わずに持って歩け!」
「……はいはい、わしが悪かったよ……持っていきますよ……」
アレクは文句を言いながらも『勇者の剣』を担ぎながら、ムライーサ村へと歩き続けた。
魔王デモアモンが復活したことで、モンスターが出てくることを恐れていたが、幸いにも遭遇することは無かった。
日が暮れたら野宿をし、翌日ムライーサ村に向けて再出発する、そんな日々を繰り返し、出発してから五日が経過しようとしていた。
神様に若返りの魔法(呪い)をかけられてから五日目が経過した。
アレクの体が一瞬青白く光り、すぐにその光は消えた。
「おお、これが若返りか……なあ、モッコ、わし、なんか変わったかの?」
モッコはため息をつきながら、首を横に振った。
「いや、全然変わってねえよ。そもそも八十八歳が八十七歳になっただけだろ? そんな劇的に変わるわけねえよ」
「……それもそうじゃな……先は長いか……早くフサフサになりたいのう……」
「しばらくは、その焼け野原みたいなハゲ頭のままだよ。我慢しろ」
「焼け野原とか言うな! ある日突然抜け始めたんじゃ……急に毛根がわしに愛想を尽かしおったんじゃ……くっ……」
アレクが泣き始めたのを見て、モッコが慌てて慰めた。
「な、泣くなよ、アレク、そんなことぐらいで……お前にはハゲ頭が似合っているぜ! よっ! ハゲダンディ!」
「……ハ、ハゲダンディ……ちっとも嬉しくないわい……」
―――――――――――――――――――――――
出発してから六日目の朝、ようやくアレク達はムライーサの町に到着した。
モッコは辺りをキョロキョロ見回した後、アレクに尋ねた。
「結構広い町だな……アレク、カイデンの家はわかるのか?」
「町の人に聞くしかないのう……よし、あのご婦人に尋ねてみよう……」
アレクは、正面から歩いてきた女性を呼び止めた。
「ご婦人、この町にカイデンという爺さんは住んでおらんかのう?」
「カイデンさんなら、この先をまっすぐ行った一軒家に住んでますわ」
「おお、親切なご婦人じゃ! ありがとうございます!」
「いえいえ、どういたしまして」
アレク達が女性に教えられた方に向かって歩いて行くと、やがて広い畑に囲まれた一軒家を見つけた。
畑では老人が一人、野菜を収穫していた。
「おお、あの顔、姿はまさしくカイデンじゃ! おーい! カイデーン!」
アレクの呼び声に気づいた老人は一瞬驚いた顔を見せた後、笑顔でアレクの元へ走ってきた。
「アレク殿! アレク殿ではござらんか!? いや~、久しぶりでござる! 元気そうでござるな!」
「そういうお主も元気そうじゃな! 安心したぞ、カイデン!」
アレクとカイデンは抱きしめ合った。
カイデンはモッコに気づき、アレクに聞いた。
「アレク殿、このパタパタと飛んでいるのが、あの時の卵の……?」
「さよう、神獣じゃ。モッコと名付けた。ほれ、モッコ、カイデンに挨拶せい」
モッコはパタパタと飛び上がり、カイデンの肩の上に乗った。
「俺の名前はモッコ。よろしくな、カイデン!」
「ハッハッハッ! こちらこそよろしくでござるよ、モッコ殿!」
豪快に笑うカイデンの頭を見て、モッコはつぶやいた。
「こいつも焼け野原か……」
―――――――――――――――――――――――
カイデンは自宅にアレク達を招き入れ、お茶とお菓子を振る舞った。
「ところでアレク殿、聞いてほしいことがあるでござるよ! 実は六日ほど前にわしの体が突然青白く光ったのでござる! その光はそのまま消えたが……つい昨日もまた、青白く光ったでござる! 不思議だとは思わぬか?」
「そ、それは……」
アレクが口ごもっていると、モッコがアレクの肩に乗り頬をつついた。
「ほれ、きちんと説明してやれ。早くしろ。カイデンの命にも関わることだぞ」
「そ、そうじゃな……実はな、カイデン、その光は……」
アレクはカイデンに事の詳細を説明した。
魔王デモアモンが復活したこと、神様に魔王討伐を依頼されたこと、五日ごとに一歳ずつ若返ること、若返り続けて零歳になると最後には死んでしまうこと、などなど。
カイデンは神妙な面持ちでアレクの説明を聞いていた。
「すまん、カイデン……お主を巻き込むことになってしまって……どうかわしに力を貸してくれんじゃろうか?」
アレクの頼みを聞いたカイデンは豪快に笑った。
「ガッハッハッハッ! アレク殿! 何も謝ることはないでござるよ! 要はもう一度、魔王デモアモンを倒せばいいこと! このカイデン、及ばずながら力になるでござる!」
「おお! さすが戦士カイデン! お主がいれば百人力じゃ!」
カイデンを褒め称えているアレクに、モッコがそっと耳打ちした。
「良かったな、カイデンが脳筋で……」
「シーッ!! 黙っておれ!!」
戦士カイデンが仲間に加わった!!
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