第2話 若返りの魔法

「魔王デモアモンが復活したですと!? 本当ですか!? 神様!」


「本当じゃ……魔王の復活と同時に魔物が天界に侵入してきおった……天使、神兵はことごとく打ち負かされ、わしもほとんどの力を吸い取られたが、こうして逃げることができた……」


「そうでしたか……それは大変でしたのう……それで何故ここに?」


「うむ、実はお主にどうしても頼みたいことがあってのう……聞いてくれるか?」


「嫌な予感しかしませんが……一応聞きます……何じゃろうか?」


「うむ……アレクよ、お主、魔王デモアモンを倒してはくれぬか?」


「……」


 ―――――――――――――――――――――――


「嫌じゃ! 絶対に嫌じゃ!」


「お主、前に一回倒したではないか……勇者のお主なら、今回も簡単に……」


「そんなこと、無理に決まっていますじゃろう! わしは八十八歳、もう米寿ですぞ! 昔の力など、とうになくなりましたわい!」


「そうは言っても、お主しか頼める者がおらんのじゃ……」


「勇者など、探せばいくらでもいるじゃろう! 例えば、どこかの国の王子とか、さすらいの武芸者とか……」


「いや、世界中探したが、勇者の素質を持った者は見当たらなんだ……せめてお主に息子か孫がいれば、と思ったが……」


「悪かったですのう、独り者で! とにかく、わしには到底無理じゃ……わしはもう何十年も剣を握ってはおらん……今デモアモンに戦いを挑んでも秒殺されるのがオチじゃ……」


 アレクの拒絶を聞いていた神様は、アレクに向き直り、ガシッと両肩を掴んだ。


「安心せい! わしに秘策がある……お主をデモアモンと戦えるようにする秘策がな……」


「秘策ですと? わしに何か力を与えてくださるのか?」


「うむ! お主を若返らせる! お主だけではないぞ、戦士カイデン、僧侶シンラ、魔法使いクロマも若返らせるのじゃ!」


「なんと! 神様は、そんなことができなさるのか? それに、そもそもカイデン達は健在なのですか?」


「安心せい、お主の戦友達は皆健在じゃよ。わしの残り少ない力を、お主達の若返りにすべてつぎ込む……そうすればお主達は若返り、全盛期の頃の力を取り戻せるはずじゃ!」


「わしは若返るのか……」


「そうじゃ! あの頃のカッコいいお主に戻るのじゃ! だから、お願いします!」


 神様は土下座して、額を地面につけて、アレクに頼みこんだ。


「まあ、神様がそこまで言うなら……若返りにも興味あるし……わかりました……本当は嫌で嫌で仕方がないんじゃが……わしを若返らせてくだされ」


「おお! さすがは勇者アレクじゃ! 恩に着るぞ! ところでアレクよ、お主達が魔王デモアモンを倒したのは何歳の時じゃ?」


「二十歳の時です……わしら四人は全員同じ歳で、あの頃のわしらは一番強く、向かうところ敵なしじゃった……」


「よし、わかった! それでは二十歳まで若返るように、今からわしの最後の力をお主達に注ぎ込むぞ!」


 割れた湯飲みを片付け終わったモッコが、パタパタと飛んできて、アレクの頭の上に乗り、足踏みした。


「お、おい、いいのか? アレク! 他の三人に話もせずに、勝手に決めちまって……」


「なあに、大丈夫じゃよ、モッコ。あいつらとて若返った方が嬉しいはずじゃ。それにあいつらの力を借りなければ、魔王デモアモンは倒せん」


「俺は伝えてからの方が良いと思うけどな……まあ、お前がそう言うなら構わねえけどよ……」


 そう言ってモッコは、再びアレクの頭の上で足踏みした。


「しかしやったな、アレク!ここに毛が戻るぜ!」


「おう、そうじゃ! もう一度フサフサに戻るんじゃ! 神様、お願いいたします!」


「うむ、まかせておけ!」


 そう言って、神様は何やらぶつぶつと呪文を唱え始めた。


「……勇者アレク、戦士カイデン、僧侶シンラ、魔法使いクロマの肉体よ、二十歳まで若返れ! カーッ!!」


 叫び声と共に神様は両手を天に向かって上げた。


 するとアレクの全身が、青白い光に包まれた。


「おお……いよいよ、いよいよわしは若返るのか……フサフサの髪に戻るのか……」


 ―――――――――――――――――――――――


 しかし、何も変わらないまま青白い光は消えて、神様はへなへなとその場に座りこんだ。


「……? なあ、モッコよ、わしは何か変わったか?」


 アレクが不思議そうにモッコに尋ねると、モッコは首を横に振った。


「いや、何も変わってないぜ、アレク。相変わらずハゲたまんまだ」


 アレクは嫌な予感がして、神様に尋ねた。


「あの~神様……何も変わってはおらんのじゃが……ひょっとして失敗か?」


 神様は、ぜいぜい言いながら、下を向いたまま質問に答えた。


「すまん……アレク……わしの力が足らんばかりに……」


 アレクは少し落胆した。


「そうですか……無理でしたか……」


「いや、そうではない……成功はした……したんじゃが……」


 神様は下を向いたまま、ごにょごにょと喋っている。


「成功? どういうことですかいのう? 神様」


「お主達を一気に二十歳まで若返らせることが出来なんだ……お主達はこれから徐々に若返るのじゃ……」


 アレクは胸を撫で下ろした。


「なんじゃ、それは成功したも同じじゃ……わしは、あとどれくらい経てば二十歳に戻れるんですかのう?」


 神様はばつの悪そうな顔をしながら、うつむいたまま答えた。


「……今日から数えて五日ごとに一歳ずつ若返るんじゃ……つまり、お主が二十歳になるには、言い換えれば六十八歳若返るには、五日かけることの六十八で、三百四十日待たねばならん……」


 それを聞いたアレクとモッコは、顔を見合わせてお互いに叫んだ。


「「長っ!!」」

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