Q
「さて、コレで4人全員の証言を聞きましたけど…探偵さん、分かりましたか?」
「……ええ、まぁ…」
そう言う探偵は何処か歯切れの悪い様子だ。
「どうかしたんですか?」
「刑事さん、遺体に不審な点はありませんでしたか?例えば…腕に変な機械が付いていたとか…」
「…ありました」
そう言うと、探偵は「やはり…」と言いながらも、何処か曇った表情であった。
「で、その真相っていうのは分かったんですか?」
「はい、まあでも、今回の推理はあまりにも現実味が無い上、証拠も無いので、あくまでも推論の域を出ない事を念頭に置いて聞いて下さい」
「…分かりました」
そうして探偵は語り出した。
「今回の事件、全ては男の恋人が亡くなったことから始まりました」
「ほう…」
「男はもう一度彼女に会うためにタイムマシンを開発しようとしました。しかし、男の技術力では"人間"が乗ることできるタイムマシンを作る事はできなかった」
「?それと今回の事件、どのような関係が?」
「よく考えてみてください。"人間"を乗せれるタイムマシンは作る事はできなかった。という事はつまり?」
「逆に言えば、"人間"以外を乗せられるタイムマシンは作る事が出来た…ということですか?」
「そう言う事です。そこで男は考えた。人間の肉体ではなく、意識だけを過去の自分の肉体に飛ばしてしまえば良いのでは?と。」
「なるほど…」
「そして、おそらく結果としてはタイムマシンは正常に作動したが、意識の無くなった空っぽの肉体のみが残り、水や食料を摂らなかったために、亡くなったのではないかと…」
「そういうことですか…それにしても何やら浮かない顔ですね。どうかしたんですか?」
「刑事さん、冷静に考えてみて下さい。今、彼の精神は過去にあります。それではもし、現代にまた帰ってきたらどうなるでしょうか?」
「そりゃ、元の肉体に…ん?」
「そう、彼の肉体は既に死んでおり、もう元の肉体に帰ってくることはできないんです」
「それじゃ彼は…」
「…おそらく精神だけのまま一生いや、永遠に彷徨い続ける羽目になると思います」
「…想像しただけでゾッとしますね」
「ええ、本当にゾッとしますね……ん?」
「?どうかしたんですか?」
「…刑事さん、そういえば何で君津さんの死を"自殺"と断定したんですか?」
「ああ、それは現場に遺書があったからで……探偵さん、どうかしましたか?」
「……刑事さん、あなたが君津さんの立場のとき、遺書なんて書きますか?」
「…言われてみれば確かに。君津さんは自分が死ぬとは考えていませんし…」
「……それから、先程の証言を聞いていて、いくつか気になったことがあるんです」
「それは一体…?」
「…1つ目は、君津さんの恋人の死についてです」
「はぁ…」
「…今回の事件、実は私も裏で調べていまして…そこで近隣住民の方々や、今回の証言者の周辺人物にも聞き込みをしていたんです」
「…それで?」
「するとですね……みんな口を揃えてこう言うんです。『君津零に恋人なんていない』と。」
「…え?」
「そうなんですよ、実は君津さんに恋人なんて最初からいなかったんですよ。」
「いや…でも、3人の証言だと……しかも、Bさんが噂になってるって…」
「そう、それなんです。本当、騙されました。そんな噂なんて最初からなかったんですよ」
「…そんな」
「しかもそれだけでなく、Bさん、5年前からずっとあそこに住んでいたらしいですよ」
「…」
「さらには、あの3人にも交流があったみたいですよ」
「……は?」
「まあ、以上の事から推理すると、おそらくあの3人が君津さんを殺したと見てほぼ間違いないでしょう」
「……でも、タイムマシンは!そう、タイムマシンはどうしたんですか!?」
「……コレは仮説ですが、あれはタイムマシンなんかではなく、君津さんを殺した凶器なのではないでしょうか」
「…つまり、タイムマシンですら、嘘だったと」
「…そういう事です」
「……何とも後味の悪い事件ですね」
「…ですね。まあ、でもコレはあくまでも推理ですので、後は警察にお任せしますよ」
「…分かりました」
──── 翌日、その刑事は死体で見つかり、探偵は行方をくらました。
─完─
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