ディストピア・プレデター
虫島 光雄
第1話:プロローグ
「K部隊、作戦領域突入、各機報告せよ」
時速400㎞/hの速度で人型兵器プロトファスマが地面を滑る様に移動していく。地面には大小多数のくぼみにできた水たまりがあり、プロトファスマの足が通過するたびに泥水がバシャッ、バシャッと飛沫を立てる。
「K-08、腕部及び脚部可動、推進力、姿勢制御、FCS、レーダーシステム、ともに異常なし」
「K-11、こちらも同じく異常なし」
「K-15、同じく異常なし」
「K-25、異常なし」
「K-26、…異常なし」
K部隊は隊長機であるK-08機を中心に鶴翼陣を形成し、目標であるママイルの大群と向かっていた。
まだ昼であるにもかかわらず、空はどんよりと曇っていて薄暗く、やがて雨がちらついてきた。
「K-08から各機へ、雨が降ってきた、速度を上げろ、雨脚が強まる前に接近する、視界が次第に悪くなる、注意せよ」
他四機が「了解」と返事をし―
ビーッ、ビーッ、ビーッ!
「目標、正面へ確認、距離二千!」
プロトファスマのレーダーが目標であるママイルの大群を捉えた。
「全機、攻撃準備、目標、正面の敵大群!」
「敵ロックオン、距離よし、攻撃開始‼」
ズバババババッ―各機の右肩に搭載されていたコンテナからミサイルが射出される。ミサイルは垂直に一斉掃射され、湾曲した軌道を描いた直後、一直線にママイル大群へと向かい、爆発した。
「よし、各機、近接射撃、撃ち方始め!」
ズドドドドドド―K-11、K-25、K-26が両腕に構えていたアサルトライフルを一斉掃射し、ママイルを次々と潰していく。K-15は両腕と左肩に装備されたグレネードキャノンを、ママイルの大群のいる場所へボンッ、ボンッと発射し、ママイルを大地ごと吹き飛ばす。隊長であるK-08は両腕にショットガンを携え、ギリギリまでママイルに接近し、ズドンッ、ズドンッと一体一体確実にハチの巣にしていった。
ママイルは地球上のどの生物にも似ても似つかず、敢えて例えるなら、太った豚のような丸い体形に、8本の太い脚があり、足の先端は鉤爪のようになっている。目は無く、口はタコのような円形で固い。ママイル一体だけなら大した事は無い。しかし、問題なのはその圧倒的な数と驚異的な増殖力にある。彼らは一度巣を形成されると指数関数的に増殖を繰り返し、数万、いや数百万もの大群が人類に襲い掛かった。そして人類は、総人口の5割をも失う劣勢状態へとなっていった。
「08隊長、敵は軍部が想定していた数よりも遥かに上回っています!このままでは押し切られます‼」
「ぬぅ、仕方ない!各機撤退、各機撤退せよ‼」
08隊長が撤退を指示し、K-11、K-15、K-25、K-26は各々撤退を始めた。しかし、ママイルの大群は既に隊の真横にまで回り込んでおり、5機を覆いつくさんとばかりに迫っていた。
「こちら26、数が多すぎます、このままじゃ囲まれます!」
「各機、一点を集中攻撃しろ!何としても突破口を開くんだ!」
「くそ、マガジンが切れそうだ‼」
各機は先ほど来た進路を180度回頭し、その進路上にいるママイル群を優先して攻撃し―
ビーッ、ビーッ、ビーッ!
「こちら15‼6時方向に高エネルギー反応、地下からです‼」
「⁉」
地面が突如として揺れ、刹那-
ズドオォッという轟音とともに地面から数十メートルはありそうな巨大なミミズのような長い物体が姿を現した。
「ワーム型‼だとッ‼」
ワーム型。ママイルの一種で通常のママイルより遥かに大きく、狂暴である。ワーム型は口を大きく開けると、口の中が次第に強く光っていく。
「いかん‼、各機回避、散れ‼」
各機がそれぞれ左右に散っていく。しかし、K-11がまだその場から動ききれない。
「11、回避しろ‼」
「クソッ!ママイルが背部に取り付いて離れねぇ!」
K-11の機体はママイルに背部に乗っかられ、その固い口で内部ジェネレータとブースターを破壊された。
「11‼」
「ッ、推進力が―」
ズゴオオオォォォ―
「ッ、イレブウウゥゥン‼」
K-11、脳波完全停止、機体反応消失、死亡。K-11はワーム型の放った高出力ビームにより跡形もなく消滅した。
「クソオオォォ‼この野郎よくも11をやりやがったな‼」
K-15が両腕、及び左肩のグレネードキャノンをワーム型に向かってぶっ放す。
「うおおおおおおおおおおおおお‼」
ビーッ、ビーッ、ビーッ!
「新たな反応、上です‼」
「15‼」
「ッ‼」
ズドオオオオォォォォ―
K-15、脳波完全停止、機体反応消失、死亡。
突如として今度は上から翼膜の生えた二十メートルほどの物体が落ちてきた。K-15はこの物体に潰された。
「ワイバーン型までッ‼」
鬼に金棒と言わんばかりに次々と新たなママイルが出現していく。そう、ママイルは只々人間を捕食している訳ではない。ママイルにも知性が存在した。K部隊の突撃は初めからママイルに読まれており、ママイル達はK部隊に奇襲を仕掛けたのである。
K部隊はもはや全滅寸前であり、撤退どころではなくなった。
「25、26、お前らはワイバーン型を相手しろ。俺はワーム型を叩く」
「えっ⁉」
「二人で回り囲むように散開しろ、ワイバーン型の気をばらけさせるんだ‼」
「しかし08隊長、いくら何でもワーム型を単機で挑むのは危険すぎます‼」
「いけ‼いかんかぁ‼」
K-08はK-26の、警告を無視して、ズドンッ、ズドンッと残り僅かなショットガンの弾をぶっ放しながらワーム型がいるママイルの大群へと特攻していく。
「さあかかってこい‼、ママイル共がぁ‼」
「…」
「何をしている26、来るぞ!」
ズドオオオオォォォォ―
ワイバーン型が再び上から、圧し潰そうとやって来た。
「やるしかないか」
「ああ、俺たちでやるぞ!」
K-25、K-26はそれぞれワイバーン型の左右に展開し、片方の気をそらす。
ズドドドドドド―
「こっちを向けええぇぇ‼」
K-26が両腕のアサルトライフルをフルオートでぶっ放す。ワイバーン型はK-26を無我夢中で追い回す。尻尾や翼膜の腕をぶんぶん振り回してくる。K-26は各種ブースターを使って巧みにかわしていく。
(もっとだ、もっと引き寄せ―)
ドドッ―
「ッ‼、弾切れ…しまっ‼」
弾切れを起こしたK-26のわずかな隙をワイバーン型は見逃さず、尻尾を思い切り振り回す。
グシャアッ
「うわああ‼」
K-26の左腕部が吹き飛ばされ、左ブースターをも損傷した。
「そこだあああああ‼」
K-25が懐に入り隠し武器レーザーブレードをワイバーン型の腹部に見事に当て、切り裂いた。
「26、ありがとう!おかげでブレードを―」
「25‼高出力ビームだ、回避しろ‼」
ワーム型と戦っていたK-08隊長が叫んだ。ワーム型は再び口を大きく開け、強く光っていく。狙いは、K-25。
ズゴオオオォォォ―
「ぐわあああ‼」
K-25は避けた。しかし、完全に避けきることはできず、右腕部、右脚部が跡形もなく吹き飛んだ。
「う…うぅ」
「大丈夫か、25‼」
「…あぁ、なんとか避け―」
ズドオオオオォォォォ―
「⁉」
K-25、脳波完全停止、機体反応消失、死亡。
「そ、そんな馬鹿な‼」
腹部を切り裂かれたワイバーン型は黒い血を垂らしながらもまだ生きており、K-25を踏み潰した。
「う…うああああああああああああああああああああ‼」
K-26は頭の中が真っ白になった。25だけは救えたはずなのに、救えなかった。
「あああああああああああああああああああああああ‼」
K-26はワイバーン型に突っ込んでいった。ワイバーン型は尻尾で薙ぎ払おうとするが、残った右ブースターを使って避け、懐に入った。
そして、右腕部を腹部の裂け目に突っ込み―
「ぬうううううううううううううあああああああああああああああああああ‼」
ワイバーン型の内臓を引きちぎった。
ワイバーン型は金切り声を上げ崩れるようにその場に倒れた。今度こそ本当に死んだのだ。
「聴こえるか、26」
「…はい、聴こえます」
「お前に最後の命令を与える」
「…」
「生きろ」
「…ッ!」
「生きて、生きて、生きて、生きて、生き抜くのだあああああああ‼」
「…生き…る」
「わかったらさっさと行け‼、この馬鹿者がああ‼」
「‼、はい」
K-26は右ブースターを全力で吹かして離脱していく。道中の通常ママイルの攻撃はすべて搔い潜り、K-26はママイル群の包囲網から抜け出した。
「それでよい」
ゴオオオオオオオ―
「そういえばお前との決着がまだだったな、いいだろう、ケリをつけよう」
K-08は左にあるコントロールパネルを操作し、暗号コードを入力する。
ピピー、入力が終わるとコードがつながった小さなスイッチが出てきた。
「よく見ておけ、ママイル共」
K-08はそのスイッチを手に取り―
「これが、K部隊の―」
スイッチを押した。
「意地だああああああああああああああああああああああああああ‼」
ブーッブーッブーッブーッブーッ
警報アラートが絶え間なく鳴り響き―
「…08隊長」
遠くの方で凄まじい衝撃と音とが響いた。
「…生き…ろ…」
K-26は無意識ながら、目から多量の汗を流していた。
K-08、脳波完全停止、機体反応消失、死亡。
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