第20話 複雑オトメゴコロ!!?

 篝のストーカーを迎え撃つべく(?)、外に出た篝と幻夜。

 縁側に灯りを置いたことで、この辺りはある程度見えるが、庭の先は夜の森であることに変わりない。

 こんな中で戦うつもりなのか──? 

 ……とはいえ、一応相手をする気がある篝はともかく、幻夜は縁側に腰掛け煙草…いや、煙管きせるをふかしつつ様子を見ているといった感じだが。


 そして、隠れ家に張られた結界内…障子の隙間から俺と天狗二人が見守る中──

 四人の視線の先、真っ暗な草陰から飛び出してきたのは……大型犬くらいの大きさがある…猫??


 薄明かりに照らし出された赤茶色の毛並みと大きな瞳がギラつく、その姿に、


「ホン…ットにしつこいねぇ……また来たの?」


 ウンザリするように言う篝の言葉に、猫の唸り声は呟きへ、姿は人間へと変わっていく──!?


「──酷いわ…ワタシはこんなにも貴方を慕っているのに……! それに、篝ったら…またその姿でいるの? 元の姿の方が何倍も素敵なのに……ッ」

 

 それを見て…というより、その言葉に、篝は盛大な溜め息をつきつつ、


「……生憎だけど、お前の為に戻る気はないよ」


「もうっ、相変わらずつれないヒトね……まぁ、そんな貴方もス・テ・キ」


「…………っ」


 篝が心底嫌そうな表情を見せる中、猫から人に変化したそいつはゆっくりと顔を上げた……!


 猫耳付きのツインテールに、ぱっちり目の可愛らしい顔立ち……そして、フリルのついたゴスロリ調の着物に身を包んだ女…の子??

 言ってるセリフとかは確かにストーカーぽいし、明らかに妖怪だが……


「……なんだ…思ったより可愛いんじゃないか……?」


 ボソッと呟いた俺に、横にいた天狗二人は何故か苦渋しぶい表情を見せると……改めて、


「……宗一郎は“猫又”って知ってる?」


 彼方の言葉に思い当たるといえば……


「え…猫又って……猫の妖怪…とか化け猫……だったっけ?」


 俺の数少ない妖怪知識の中でも、一応名前だけは知っている……その程度だ。


「うん、アイツは猫又の蘭丸らんまる。……ほら、尻尾が二本あるでしょ?」


 そう言って指差す先に視線を移すと……確かに二本の尻尾が揺れている!?

 ……まぁ、妖狐に戻った幻夜もキツネ耳と尻尾付きだったから…今更そんなに驚くこともない。というか、予想の範囲内だ。

 だが、そこに今度は天音が、


「それはいいとして、よく見ろ。アイツ……オスだぜ?」


「え……? えぇっ??!」


 よく見たところで……いや、どう見たって可愛い猫耳女子なのに!?

 敢えて言うなら…その名前と、女の子にしては少し声が低いって程度だ。

 男……ってことは…オネエってやつか??


 ──あぁぁ

 まぁ…うん、イヤかもな……オネエにストーキングされるのは。


「篝は元々女の子大好きなんだけど、さすがに蘭丸はダメみたいだねぇ」


「外見はともかく、中身最悪だし……てか、オスって時点で範囲外なんじゃねぇか?」


 もっともなツッコミを入れる天音に、彼方は困ったような苦笑で、


「まぁ…気持ちこころは女の子みたいだけどねぇ」


 いやぁ……この場合、そういう問題でもないんじゃ??

 彼方の言葉に、思わず溜め息がもれる俺……だが、彼方は続けて、


「でも……篝もトドメをささないあたり、それなりに気に入ってるのかもよ?」


「いやぁ、蘭丸アイツがしぶといだけだろ」


 天音の言葉から察するに……やはり蘭丸ってヤツは強いのだろう。

 しぶとい上に、しつこいストーカー・蘭丸相手に篝はどうする気なんだろう??

 自ら補佐を申し出たわりに、見るからに幻夜はやる気なさげだし……。


 俺は不安な気持ちを抑えつつ……篝と蘭丸のやり取りを見守るべく、再び視線を戻した。

 

 二人は一定の距離を保ったまま。

 そんな中、蘭丸は幻夜の方をちらりと見ると、


「ちょっと……ッ、またこのキツネといるの!? さっき、あの憎たらしい天狗の気配もしたけど……いっしょじゃないの!??」


 その言葉に幻夜は薄く笑みをうかべつつ、揺れる紫煙越しに……


「……さぁ? 何のことだい?」


 ──どうやらシラを切りとおす気のようだ。

 まぁ、そうだよな……。


 だが、はなからそんなことはどうでも良かったのか……蘭丸はそんな幻夜からゆっくりと篝に視線を戻し、


「──…まぁ、いいわ。ワタシは篝……貴方さえいれば」


「~~~~ッ」


 見るからに寒気…いや、悪寒を感じた様子の篝……!

 しかし蘭丸は相変わらず…篝から視線を外すことなく、さらにじぃっと見つめ……


「愛してるわ…篝──殺したいほど……ッ」


 そう言い放った蘭丸の大きな瞳がギラつき、構えたその両手には……武器!?

 その様子を確認した篝は、盛大に…魂まで出そうな溜め息を着いた。

 

 いやいや! 篝には予想通りの展開だろうが、俺には混乱を招くのに十分な展開だ……ッ


「な…なんだ……アレ??」


 見た目は…手甲と鉤爪……??

 漫画とかでなら見たことがあるが、実物なんて初めて見たぞ!?

 あ……いや、本物の武器自体そうそう見れるもんじゃないんだけど。


 俺の驚きを察したのか、彼方は小さく溜め息をつくと、


「……アレは蘭丸お得意の武器なんだけど、結構厄介でねぇ」


「ご丁寧にも、あの爪の先に薬まで仕込んでたりするんだ」


 うんざりしたようにいう天狗二人。

 ──というか、


「く…薬??  って──まさか毒か??!」


「ん~……ある意味ね」


「まぁ、簡単に言うと、だな」


 うわぁ……それは…ちょっと……キツいな。いろんな意味で。


「な? 最悪だろ?」


 ──確かにな。

 媚薬を仕込んだ鉤爪か……そりゃあ厄介だ…!

 篝……本当にどうするつもりなんだろう??


 そういえば、篝の…というか、こいつらが戦ってるとこを俺は見たことがない。

 だからこそ、気になる……いろんな意味で!


「──篝…ワタシは貴方が欲しいの……殺してでも」


 鉤爪を構え、残酷な笑みをうかべる蘭丸。


「悪いけど……ボクはお前のモノになる気は微塵もないし、もちろん殺られる気もないよ?」


 そう言って不敵な笑みをうかべる篝。

 だが、蘭丸の鉤爪に対して、篝は特に武器なんて──…


 んん? あれ……!??


 篝は蘭丸から目を離さないまま……。

 だが、いつの間に取り出したのか、その両手には──二丁の短銃!?


「鉤爪に銃……!?」


 というか、妖怪が銃かよ!?

 妖怪イメージに反するその武器に、驚きと疑問をぶつけるべく、彼方に視線を移すと……


「篝の銃は特別だから大丈夫だよ」


 そう微笑まれ、それ以上何も言えなかった。

 とりあえず、俺は再び篝たちに視線を戻す──と、先に仕掛けたのは、蘭丸だった。


 両手の長く鋭い鉤爪がギラリと光り、篝に向かい飛びかかる──!!


 爪に仕込まれているという媚薬なんてほんのオマケで、本気で篝の命を穫りにいっている??

 殺意剥き出しだ……!!


 もちろん、あっさりと最初の攻撃をかわす篝。

 だが、更に蘭丸の攻撃は続く!


 急に始まった二人の死闘(?)……!?


 夜の闇と薄明かりの中……辺りに響き渡る、銃声と硬い金属音。

 そして、互いの攻撃をはじきかわす火花が時折チラつく…!!


 ──その動きは…俺の目では追いきれないほど速い!

 まるで少年漫画やゲームの戦闘シーンをリアルに見ているような気分になってきた……ッ

 鉤爪に短銃なんて戦いづらいだろうと思ったけど、篝には関係なかったようだ。


 時折、流れ弾がこちらへ飛んできているようだが幻夜の結界に守られ、隠れ家ごと俺らは安全に観戦していられる。

 ……のだが。

 この一瞬の間に、どれだけの攻防が繰り返されてるのかも分からない。

 今まで俺が見てきた妖怪どもの動きとは、ケタ…いや、次元が違っている……!!?


 これが…本来の(?)妖怪同士の戦闘なのか……?


 猫又の蘭丸がどれ位強いのかは分からないが、見る限り今まで見た妖怪より確実に強い。

 だが、それを相手に余裕を見せている篝……そして、それを見守る妖怪他三名。


 この四人こいつらは……どれほどの実力を秘めているのだろう?

 そういえば、彼方は天狗軍の副大将とか言っていた──。

 外見や普段の軽い感じからは分からない実力を……恐さを、こいつらは持っているのか?

 そんな奴らと仲間だった紅牙は……??


 いや、まだ何一つ実感なんてないが。

 とりあえず、今はこいつらと仲間であることに心底良かったと思える……。


 そんなことを俺が考えている間にも、篝と蘭丸の攻防戦は激しさを増していく──!

 銃弾が飛び、それをかわしながら鉤爪で飛び込む蘭丸を体術と銃本体で受け流し、更に弾を打ち込む篝。

 繰り返される攻防の末、再び間合いを取り直して睨み合う。

 だが、二人ともほぼ無傷──!?


「……蘭丸、動き良くなったじゃない」


 相変わらず余裕の笑みをうかべる篝に、


「み…見くびらないでちょうだい? ワタシは貴方を手に入れるため、日々努力してるのよ?」


 そう笑みを返す蘭丸──だが、かすかにその笑みには焦りが見え隠れしているようにも見えた。


「それはどうも。でも努力してるとかってのは他人に言うもんじゃないよ?」


 そう言ってクスッと笑ったかと思うと……


「まぁ、いいや…頑張ってきたみたいだし……ボクもそれなりに相手してあげるよ」


 篝の呟きとほぼ同時、その両手に握られた短銃が淡く…青白い光りに変わり、やがてそれは形を変えていく──!


「……ッ…あれは…!??」


 驚く俺に、


「篝のはだって言ったでしょ? アレは篝の意思で変化するんだよ」


 にっこり微笑んだ彼方の言うとおり、篝の短銃は──刀に変化した!?

 篝の手にあった二丁の短銃が今は二本の…少し短く見えるが、確かに日本刀となってその手に握られていた。

 だが、それを見て……


「──でも、刀か。篝が刀にしたってことは……本気になったのかなぁ?」


 意外そうに言う彼方に、


「いやぁ…そういうかんじでもなさそうだが……一応、ヤル気が出てきたのかもしれんな」


 唸りつつも、そう結論着けた天音。

 そして一人、話が見えず取り残された感のある……俺。


「ど…どういうことだ?」


 やっと会話の合間を見計らい、切り出した俺に、


「ん? 篝はね、普段使うのは銃なんだけど、本当は刀が一番得意なんだよね」


 だからその刀にしたってことは、篝は本気で蘭丸と戦う気になったってこと?

 それは、蘭丸の実力を認めたってことか──??


「確かに、蘭丸は以前より強くなってるようだが──まぁ、篝の相手じゃねぇよ」


「……そう…か」


 ……どうやら、俺は天音の言葉を信じ、


「心配しなくても大丈夫だよ、宗一郎」


 そう言って微笑む彼方の笑顔を信じるしかないようだ。


 ……確かに、そうだな。俺にはどうしようもない。

 今の俺には、二人の戦いの行方をで大人しく見守るしかすべがないのだから──。

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