第12話 お気楽⭐︎極楽!!?

 星酔の術で垣間見た映像──


 もし、星酔が言うように……紅牙自身が記憶を封じ込めているなら?

 あの光景が、感情が──その記憶の一部だとしたら……?


「……」


 言葉の出ない俺に、星酔は再び小さくため息をつくと、


『術は阻まれましたが……もし、何か見ることが出来たのなら……それは貴方の中に眠る記憶の断片──紅牙にとっての記憶事実です』


「紅牙に……とっての…事実?」


 紅牙……俺にとっての??


 戸惑う俺。

 だが、星酔は黙ったまま頷いた。


 ……ん? 待てよ?

 今の星酔の言葉に、少し気になったところが……?


 ──そうだ、星酔は俺に“見ることが出来たのなら”と言った。

 と、いうことは……。


 俺は改めて星酔を見つめ、


「星酔は……俺が今見たものを見てないのか?」


『……私には見ることは出来ません。それは──夢ではなく、なので』


 自嘲気味な笑みをうかべて答える星酔。

 

「夢は干渉できるのに、か……?」


『えぇ。あくまでも私の術は夢の……その奥の記憶を開くきっかけを与えただけですから』


 ……そういうものなのだろうか?

 分かるような分からないような……??


 困惑する俺に、


『さぁ、そろそろ夜が明けます。またお会いすることもあるでしょう……』


 そう言って、星酔は苦笑をうかべた。


 すると、徐々に真っ白な空間は薄暗くなっていく……!?


「あ…ちょ……ッ」


 俺にはまだ気がかりなことが……!

 だが、あっという間に辺りは真っ暗に…!?


 闇に包まれた俺……。

 意識も遠退くような感覚──


『──次は現実でお会いしましょう』


 星酔の声が遠くなる意識の中で聞こえたような気がした……。


 ピピッ…ピピピッ……


「──ッ!!」


 アラーム音に目を覚ました俺……!

 辺りを見回せば……見慣れたいつもの俺の部屋だ。


「…い……今のは…夢??」


 にしてはリアル過ぎる。

 ……冷や汗が流れたのを感じ…そして、重大なことを思い出した……!


「そうだッ……白叡!?」


 …………


 ──返事が…ない。


 これはどうとらえればいい……?


 ただ寝てるだけ?

 それとも──……??


「白叡……ッ」


 焦りつつも、もう一度呼びかける。


 お願いだから、返事をしてくれ──!


 …………


 返答なし……?

 いつもなら、たとえ寝ていても…面倒そうに返事をしてくれていたのに……ッ!?


「…ちょっ……マジで…か!?」


 やはり……星酔の術のせい?


 確かに更なる敵がとか、パワーアップがどうのとか言ってたけど、まさか昨日の今日でこんなことになるなんて!?

 いや、妖怪への対応や身の安全……というよりも、白叡の無事が気になるッ!!


「宗一郎ー!」


 ……部屋の外からは母親が俺を呼ぶ声。

 時間はどんどん過ぎていく……。

 このままでは母親が怒り出すのも時間の問題?


 焦りと不安を抱えたまま、俺は学校へ??


「……ッ」


 あぁっ! もう!!


 とりあえず部屋を出る。


 こうなったら、様子を見ながら行こう!

 白叡に声をかけつつ、妖怪に襲われないことを祈って──!


 ・

 ・

 ・


 ──結局。

 いつも以上に慎重な気分で登校するハメになった、俺。


 授業中だって、居眠りしたら……また星酔に会いそうな気がして……寝るに寝られない。

 ある意味、夢で再会できるなら、白叡にかけた術を解いてもらえるよう頼めるのだろうか……?


 いや、素直に解いてくれるとは到底思えないな。


 そんなことを考えているうちに時間は経っていき──本日最後の授業終了を知らせるチャイムで我に返った。

 正直、今日は授業なんて何も耳に入ってこなかった。友達との会話ですら上の空だった気がする。


 もちろん今日一日、何度も白叡に呼びかけたが……相変わらず返答のないまま。


 気付けば、帰りのHRまで知らない間に終わっていて、すでに放課後になっていた。

 部活をしてない俺はただ帰るだけだ。

 そのまま、さっさと帰り支度をして教室を……校舎を出る。


 ん?

 外が何やら騒がしい……?


 時折耳に入る女子たちの声。

 ……どうやら、校門のところに見たことないイケメンがいるらしい。


 最近、妖怪イケメンに頻繁に遭遇している俺には、大して珍しくもない……。

 ……まぁ、珍しいかどうか別として、女子たちが騒ぐのは仕方がないのかもしれないけど。


 だが、校門に近付くにつれ……そのイケメンが男女問わずみんなの注目を集めていることが分かった。

 みんなの視線の先──校門付近に、噂のイケメンがいるらしい。


 ……ん??


 校門の陰からちらっと見えたのは──銀髪?


 普段そうそう銀髪にお目にかかることなんてないよな……お年寄り以外で。

 俺だって先日初めて会ったくらいだし。

 

 ──……いや、まさか?


 そう思いつつ、校門を出ようとすると……


「あ! 宗一郎~!」


 …………やっぱりか。


 予想通り……校門にいたイケメンは天狗の彼方だった。

 思わず大きな溜め息が出そうになる俺。

 だが、彼方はそんな俺に構わずにこやかに手を振っている。


 当然、彼方に見とれていた奴らの視線は一気に俺へと集中した……が!


「……ッお前、目立ち過ぎ!!」


 全く人目を気にせず、注目を集めている自覚すらない彼方に、俺は慌ててその腕を掴んでこの場を離れた……!!


 この行動自体が目立とうが何だろうが、あの場で話をするわけにはいかない!

 ……何より、俺が耐えられない!

 それに、俺にも話したいことがあるんだ!!


 ふと、目に入った最寄りの小さな公園──ちょうど人もいない!


 俺は彼方とその公園に入り、乱れた息を整えつつ、


「な…何であんなとこにいたんだよ……ッ!?」


 そう言って彼方を見ると……


「もちろん、宗一郎を待ってたんだよ?」


 なんだか、脱力感……目眩すら覚えるほどに、にこやかな笑顔で答えられた。

 そして、彼方は持っていた紙袋を差し出すと、


「一緒に食べようと思ってたんだけど……」


 笑顔が苦笑に変わる彼方……。

 受け取った紙袋に、一つだけ入っていたのは……


「……たいやき?」


「うん、おいしかったよ♡」


 あ―、この紙袋の店のは美味いんだよな……ッて!


「たいやき渡すために待ってたのか?」


 というか、一緒に……のつもりが待ちきれなかったのか?


「ん? たいやきはお土産。甘いの好きでしょ?」


「……うん、まぁな」


 当然のように言われたけど、何で俺が甘党だと──あ、そうか…紅牙もなのか?


「て、また誰かの奢り?」


 他に妖怪が!??

 そう思って辺りを見回す俺に、


「今日はオレ一人。これはオレからのお土産だよ」


 お土産と言っても、一つだけかろうじて残せただけなんじゃ……?

 こんなに大きい紙袋なのに。


 ……まぁ、いいや。

 その気持ちとともにありがたく受け取っておこう。


「……でも、金持ってたのか?」


 何だか、人に奢らせるイメージがつきつつある彼方だが、


「今日はあるよ♡ えっと、何て言ったっけ……カツ…?」


 え!??

 まさか──カツアゲ!??


 確かに、妖怪が人間相手にカツアゲしたら絶対成功するだろうけど……犯罪だろ!?


「……あ! そうそう、カツカレーだ! カツカレー食べたらお金くれたの」


 俺の焦りに構わず、彼方はにこやかに祝儀袋を見せた……。


「これ……もしかして、大食い賞金か?」


 カツカレーで得た大食い賞金で大量のたいやき??

 この天狗イケメンはどういう胃袋をしているんだ……。

 ……いや、そんなことより!


「俺も彼方に話があったんだッ」


「……ん? 何??」


 俺の勢いに、きょとんとした様子で聞き返されたが、


「白叡が……!」


 俺がそう言いかけると、彼方は軽く頷いて苦笑をうかべ、


「……うん、オレもそれで来たんだよ」


「え……」


 やっぱり、白叡は──?


 困惑する俺に、彼方は苦笑をうかべたまま…左手を出すよう言った──。

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