50.王都を救え!

「終わった……か」


「アルゼ様!」


「アルゼ!」


 メルとレティアの2人が駆け寄ってきた。


「アルゼ様、お怪我はありませんか?」


「ああ、大丈夫だ。問題ないよ」


「もうっ、心配するじゃないの! なんで1人で戦うのよ!」


 心配そうな顔を浮かべるメルとは対照的に、レティアは頬を膨らませて眉を顰めた。


「あぁ……まあ、な。なんていうか、これは俺とルイの問題な気がしてさ。そこにメルの力を借りて解決するのはなんか違うかなって思っちゃったんだよ」


「なによそれ……相手は《剣聖》なのよ!? そんなんで死んじゃったら元も子もないじゃないの!」


 レティアはそう言ってそっぽを向いた。

 ただ怒っているように見えるかもしれないが、俺は彼女なりに心配してくれてることをよくわかってる。


「ふふ、レティア様、アルゼ様のことがとっても心配だったんですね。無事でよかったです」


「べ、別に私は心配なんてとくにしてないわよ? どうせアルゼが勝つって思ってたし。全然、これっぽっちもまったく」


「なるほど、アルゼ様のことを信じきっていたんですね! メルと同じです! さすがレティア様ですね!」


「っもう!」


 レティアは顔を赤くして、メルにあーだこーだ言っているが、


「安心するのはまだ早いぞ。こいつらを倒しても、まだエンシェントドラゴンや他の魔物が残ってるからな。次はそいつらをどうにかしないとな……」


 ルイとレオは死んだが、遠くから相変わらず魔物の声は聞こえている。

 どうやら、こいつらを倒したところでどうにかなる問題でもないようだ。


「そうね。早くみんなを助けなくちゃ」


「アルゼ様がお1人で戦ってくれたので、少し休むことができました。メルもまだまだ戦えそうですっ」


「よし、それじゃあ急いで――ん? あれは……」


 移動しようとすると、大通りを貴族邸のある方向へ向かって走るアビとシンシアを見つけた。


「アビ! シンシア!」


 俺が大きな声を出すと、2人はこちらを振り返り、


「レティア様!!」


「おー、やっぱり無事だったのですよー」


 シンシアの驚きと嬉しさの混じった声と、いつも通りのアビの声が返ってきた。


「無事だったのですね、レティア様」


「ええ、もちろんよ。シンシアたちも無事でよかったわ」


「はい。メルさんもアルゼ様もご無事でなによりです」


「ああ、2人とも無事でよかった。ここで合流できて運がよかったかもしれないな。この先は魔物が多そうだし、中心部にはエンシェントドラゴンがいるだろうしな」


「さっきエンシェントドラゴンが降りていくのを見たのですよー」


 アビがなんだか鼻をスンスンと鳴らし、不快そうな顔を浮かべていた。


「どうかしましたか、アビ?」


「んー、なんだかここはテオス山で嗅いだが強いのですよー」


「あの匂いって、アビにしかわからなかったってやつか」


「そうなのですよー……」


 アビは鼻をつまんで抵抗していた。

 俺たちにはわからなくて、アビにしかわからないっていう変なものだが――、


「あっ」


 そこで俺は1つのものを思い出した。


「なあ、アビ。あそこにあるアレ……」


 俺は先ほど見つけた匂いがしない、だけど煙が出ていた壺を指さした。


「あっ、そういえばたしかにあれは匂いしませんでしたね」


「ああ、もしかしたら俺たちにはわからないだけだったかもしれないと思ってな」


 アビは恐る恐る壺に近づいていき、


「うぅ~~、匂いがどんどん強くなってくのですよー! これに間違いないのですよー!?」


 我慢の限界が来たのか、俺たちの前を通り過ぎて大通りにまで戻り、大きく深呼吸を繰り返していた。


「……そういえば、あいつが『エンシェントドラゴンを王都に襲わせたのは俺たちがやった』って言ってたわ」


 レティアは、ちらりと横目で今はもう見る影もないルイだったものの黒いナニカを見た。


「ああ、それは俺も聞いた。ウェルシー商会と『勇猛な獅子』もそれに関わっているようだ。ルイの口ぶりでは、ウェルシー商会は『トランの消滅』にも関わっていそうだったし、あの匂いがドラゴンを呼び寄せるのに関係してるのかもしれないな……」


 あの壺から立ち昇る煙の匂いが引き寄せているのだとしたら、その発生源を抑えればなんとかなるかもしれない。というか、有効な手立てはそれくらいしか思い浮かばない。


「とりあえず、あの壺を壊そう。もしかしたら、それでドラゴンたち魔物が落ち着くかもしれない」


「アルゼ様、あの匂いが原因だとしたら、あれ1つだけとは思えません。この王都中に設置されているのでは……」


「たしかにメルさんの言う通りかもしれません。それどころか、テオス山にもあるかもしれません。アビさんが『変な匂いがする』と言っていたのはあの山にいるときだったので」


「そうね。ねぇ、アルゼ。危険だけど、分かれて見つけ次第壊したほうがいいんじゃないかしら?」


 俺はみんなの意見を聞いてしばし考える。

 正直、何かあったときのことを考えるとバラバラになるのは少し怖いが……。


「わかった、3つに分かれよう。メルとアビ、レティアとシンシア、俺は1人で動こう」


「そんな、危険です!」


「それはそうだけど、一刻も早く王都を救うためだ。危険を冒してでもそうするしかないさ。君たちはまずは王都にある壺を破壊してくれ。衛兵や冒険者がいたら協力を仰ぐんだ」


「わかったわ。アルゼはどうするの?」


「俺は――」


 空に浮かぶドラゴンやワイバーンを見上げる。


「――王都の中心部へ向かう」

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