48.渾身の一撃

「この――奴隷風情があぁぁ――ッ!!」


 レオはターゲットを俺からメルに変えて襲い掛かった。


「「【エアハンマー】」」


 今度は仲良く俺もレティアとともに、《風魔法》をレオに放った。

 左右から迫る【エアハンマー】にレオは気づいたものの、その顔は焦っているようだ。


「くっ……」


「まったく、挑発に乗って闇雲に突っ込まないでくださいよ」


 だが、【エアハンマー】はレオに当たることはなく、ルイの剣技によってかき消された。


「……ああ、すまないな、ルイ。少しカッとなりすぎたようだ」


「【エアカッター】!」


「ふんっ!」


 レティアの【エアカッター】を、レオは双剣でガキンッと受け止めた。


「君の婚約者はたしか《賢者》なんだろう? おもしろい。この俺の双剣とどちらが強いか、力比べしようじゃないか」


「訂正するのも面倒だわ。いいわ、相手になってあげる。《賢者》を甘く見ないことね」


「ならば俺の相手は引き続きお前らだな。さっきの借り、返させてもらうぞ」


 レオはレティアのほうを、ルイは俺たちに向き直した。

 その瞬間――、


 ――ドガアアアァァァァァァアアアンッッ!!!


 王都の中心部で大きな爆発音が聞こえ、黒煙がもくもくと上がっていた。


「うそ……なによあれ……」


 レティアはそれを放心した顔で見つめた。


「レティア、落ち着いて聞いてくれ。エンシェントドラゴンがあの方角に降りるのをさっき見た。恐らく、そいつが暴れてるんだろう」


「そ、そんな……」


 レティアの顔が青褪める。

 あの方角には彼女の家があるし、エンシェントドラゴンと聞いて気が気でないだろう。


「レティア、公爵ならきっと大丈夫だ。君の家にはお抱えの戦力もあるし、王都の軍も集中してるはずだ。今はまず目の前のを蹴散らすことだけに集中しよう」


「……そうね。うん、その通りだわ」


 レティアは頷き、目の前のレオを睨みつける。


「時間がなさそうだから、さっさと倒させてもらうわよ」


「ふん、なめるなよ!」


 レオは地面を蹴ると、一気にレティアとの距離を詰める。


「【アースウォール】」


「ハアアァァ!!」


 目の前に急に現れた土の壁を、レオは双剣で切り刻む。

 それを崩すと、


「――【アイスニードル】!」


 いくつもの氷の矢がレオを襲った。


「ウオオォォォォ――ッ!!」


 レオはそれを懸命に1つずつ斬っていく。

 スキルの強さはレティアのほうが上のはずだが、経験値の差でレオも負けておらず、その実力は拮抗していた。


「――よそ見している暇はないぞ?」


「――!」


 一瞬の隙を見逃さず、いつの間にかルイは俺の懐にまで潜り込み、右手に持った剣を水平に――、


「――させませんっ!」


「チッ!」


 ルイの剣が俺の身体に吸い込まれる直前、メルが防いでくれた。


「《爪撃》!」


 俺はそのチャンスを逃さまいと《爪撃》をするが、ルイは躱して距離を取った。


「助かった、メル」


「メルにお任せください! ――ハッ!」


 今度はメルが《一鬼当千いっきとうせん》の力を利用し、ルイへの反撃を開始する。


「はあぁぁ――っ!」


「ふんっ、《剣聖》に逆らう奴隷とは愚かな奴めッ!」


 ――よし、いける!


 ルイはメルの剣を難なく捌いてはいるが、ここに俺が加わればで倒せるはずだ――。


「――うっ!」


「っレティア!?」


「……大丈夫よ。ちょっと掠っただけなんだからっ」


 そうレティアは強がったが、彼女の腕はたしかに切り傷があり、血がじわりと服に滲んでいた。


「レオ……ッ、この野郎! 《突進》!」


 俺は《突進》の勢いのまま切り付け、


「ハッ! 無能が俺に逆らうか! この俺の双剣を簡単に抜けると思うなよ!」


 双剣で防いだレオは前蹴りをしてくるが俺はそれを《頑丈》で耐え、


「な!?」


「《体当たり》!」


「ぐっ……」


 猪系の魔獣から得たスキル《体当たり》で、ショルダーチャージのようにしてレオを吹っ飛ばし、


「《爪撃》っ!」


「ぐぬ――ッ!」


 レオは双剣で防御したが、完全には防ぎきれず腕から血を流した。


「レティア! ――《聖なる癒しホーリーヒール》」


「え、えっ」


 驚くレティアをよそに腕の傷はどんどん塞がり、そのうちに綺麗に治ってしまった。

 さすが《聖なる癒しホーリーヒール》だ。回復においては最高のスキルだ。


「ど、どうなってるの?」


「説明は後だ。レティア、俺がレオを倒すから少しの間離れててくれ」


「う、うん。わかった」


 俺はレティアにそう告げ、メルのほうを見る。ルイの表情を見るにまだまだ余裕はありそうだが、メルも互角に戦っている。


 ――長くは持たないかもしれないから、早めに決着をつけなくちゃな……。


「聞き捨てならんな。お前ごときが……っ! ――許さん!!」


「《駿足》――」


 俺は瞬発力を上げ、


「うおおぉぉぉぉ――っ!!」


「――!」


 スキル《咆哮》を発動した。

 このスキルは、『不死の宵闇』で出会ったダンジョンボスのゴブリンジェネラルから奪ったもので、自身の防御力を下げる代わりに攻撃力を上昇させることができるスキルだ。

 防御力が下がるので使い所は見極めないといけないが、それができればかなり強力なスキルになる。


「ふんっ! 吠えたところでどうにもならんぞ!? 喰らえ――ッ!!」


 レオは両手に持った剣を連続で振ってくるが、


「なにぃ!?」


 足を強化し、さらに《見切り》を発動している俺はそのすべてを躱していく。

 《剣聖》であるルイの攻撃を躱せたのだから、それより劣るレオの攻撃を躱せないはずもない。


「《剛力》――はぁ!」


「ごふぅ――ッ!?」


 俺は《咆哮》と《剛力》で強化した足で、レオの腹を思い切り蹴り飛ばした。


「ごおええぇぇぇ――!?」


 吐瀉物にまみれながら地面に転がるレオに、


「《突進》!」


 一気に距離を詰めて斬りかかる。

 だが――、


「ぶぁかがあぁぁ――!!!」


 レオは狙っていたかのようタイミングを合わせ、カウンターのように剣を突き出してきた。


「――はへ?」


「これで終わりだ」


 だが、《見切り》を使っている俺がそんなものを食らうわけもなくあっさりと躱し、渾身の力で剣を振り下ろし、レオは力なく崩れ落ちたのだった。

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