影の騎士

ランドリ🐦💨

第1話 新たな影が映る

「何故だ、アラン……」

 倒れた男の周りに血が広がる。


 その近くには、仲間の騎士が居た。


 騎士とはレベル5の者の事でレベルは強敵か沢山の敵を倒せば上がるがレベル5の騎士にまでなる者は帝国では一握りだ。


「俺は騎士を超えた! 」

 強敵代わりに仲間の騎士を殺す事によるレベルアップで光り輝き、叫ぶ悪の騎士が居る。


 悪に堕ちた騎士は逃亡、廃墟を根城に力を見せつけて仲間を集め、帝国では一握りしか存在しない力で私利私欲の為、盗賊行為に手を染める。


「馬車が壊れたみたいだな? 代わりに運んでやるよ! 」「手伝うぜ! 」

 騎士を超えた力で馬車の車輪を打ち壊し、剣を向けて商人の商品を奪い。

「ひぃっ! 」


「俺の持ち込んだ商品が盗品だって? 面白い冗談だな? 」「「ワハハ! 」」

 商店に赴いては机の縁を握りつぶして脅し、奪った商品を売りつける。

「っ! もちろん、買い取らせていただきます……」


「何故それほどの力を持ちながら! ……っ! 」

 そんなことをしていれば当然やってくる衛兵を返り討ちにして高笑いの悪行三昧。

「ハハハハハ! 弱者は強者に従っていれば良い! 」「その通りだぜ! 」



 だが、悪の騎士の元へは必ずシャドウナイトがやってくる。



 帝城の秘密区画にある一室で、新たなる影がこの世に映ろうとしている。

 その質素な一室にはパチパチと燃える暖炉以外は机と数脚の椅子だけがある。


 そこに男が一人、女が二人集まっている。


「今後、俺のことはRと呼ぶと良い」

 椅子の一つに座る口元以外を隠す白いマスクをした金髪の男が慣れた仕草でグラスを揺らすと後ろに控えていた同じマスクをした茶髪の侍女が「私はAらしいです。」と言いながらワインを注ぐ。


 金髪男は一舐めして香りを楽しむと「今年のガルト王国産は良さげだな、買い足すとしよう」等と品評する。


「レオ……Rのワイン品評を聞きに来た訳じゃないのだよ?」

「解っているとも、友よ」

 男の正面に机を挟んで座る黒い長髪の女が蒼い眼を細めて責めると、すぐに降参した友を自称する金髪男が宣言する。


「俺とAを差し置いて帝国騎士学校の卒業首席に輝いた我が友を、悪に堕ちた騎士を狩る影の騎士、シャドウナイトに推薦する」


 シャドウナイトは帝国の影として騎士を処断する者の事で、この金髪男は皇太子、次の皇帝として信頼出来て実力ある友である女を推薦したのだ。


「シャドウナイト就任の前祝いだ」と笑う男は指を鳴らす。


 侍女が机に乗せ開いたケースには一本の紅いナイフと主従の付けるのと同じ白いマスク、黒いマントが入っている。


 ケースを置いてから一度下がった侍女がフルプレートの鎧を台車に乗せて持ってきた。

「お前は何でも使えたがナイフが一番だったな?この短剣の名は鮮血令嬢バッドエンド、これの発動句は『泣き叫べ』」

 男が手早く短剣を抜くと名の紹介と共に発動句を唱え部屋に高音が響き始める。


 台車に乗ったフルプレートの胸部金属装甲へと手慣れた仕草で突き刺し抜いて見せれば甲高い高音と共に、装甲に綺麗な穴の口付けが残された。


 高音が、紅い短剣の叫びが止まる。


 叫びが止み自分の為したことに笑い頷いている男Rへ、侍女Aからの容赦ない言葉が降り注ぐ。


「破損した全身鎧は今月の遊興費から差し引いておきますのでご覚悟を……」


 男の笑いが引きつり、ゆっくりと鞘に紅い短剣をしまってケースに戻す。

「話しておいた通り、君の初任務は採用試験も兼ねる。内容は仲間を殺して逃亡した騎士の処理だ」

 引きつった顔を指先で整えながら似顔絵と居場所の書かれた紙を渡され話が続く。


「採用試験に合格するまでは仮だが我が友の影騎士としての名、影名を与える」

 勧められ就任祝いだと押し出されたケースから取り出した紅い短剣を腰に差す。


「影名はベクター」

 Aに手伝ってもらい黒いマントを細身の身に纏う。


「帝国の為、悪に堕ちた騎士を狩れ! 新たなる影ベクター! 」

 白い仮面を拾い顔に付けると仮面の奥の蒼い眼が輝いた。


「了解だよ」


 ここに新たな影が映る。




 帝城の裏口から出た新たなる影の騎士は標的の元へと夜の闇に紛れ走り出す。


 夜に眠る帝都の屋根を伝い飛び、疎らな警備の城壁をすり抜けて、街道では石畳に足跡の残るほどの騎士の凄まじい脚力で黒い風となり、影の騎士は標的が居るという郊外の廃墟まで到達した。


 廃墟は正面以外に入り口の無い構造なので正面から突破する。


「おい?あんグエ!」

 廃墟の入り口前で立っている見張りの盗賊にするりと近づいて、その男の腰に差していたナイフで首を掻き切り仕留め、倒れる音を出さない為に背中から死体を抱いてゆっくりと降ろす。


 静かにドアを開けるとこちらを見て驚く二人組の盗賊へ一気に近づく。

「誰だ!?女!?何をするオラ!えっ?グエ!」

 一人が剣を抜く前に剣の柄を押し込んで戻し、掴みかかる腕を騎士の力で振り払いマントに隠していたナイフで首を掻き切る。

「!だカッ!……!」

 もう一人の男が意味のある声を上げる前にナイフを投げつけ喉へと刺さったそれが男を廃墟の壁に磔にして、喉を押さえて苦しむ人間の標本に変えた。

「……ゥ!」

 首を掻き切った男の血を避けてゆっくりと降ろすと、哀れな標本もナイフを捻って慈悲を与えてから抜きゆっくりと床に降ろす。


 一瞬の惨劇で3人の盗賊が命を落とした。


 血濡れのナイフを持つ影の騎士は立ち止まり記憶を思い返す。


 与えられた情報から、標的の手下の盗賊は4人、このまま奇襲で手下を全滅するのが理想だ。


 多数の相手をするのは危険なのでそんなことを考えながらナイフの血を元標本盗賊の服で落とすと、選ばれし者しか抜けない訳では無く物理的に盗賊が抜くことの出来無かった剣を拝借して腰に差し、扉を開けて先に進む。


 ギシギシとうるさい廊下を進んでいくと突然目の前の壁が崩壊して、タックルで壁を破壊した全身鎧が飛び出してくる!


「ギャハハ!シャドウナイトって奴か!騎士を超えたこの俺様を殺せるものかよ!」

 全身鎧が通路なのに無理矢理に剣を振るう度にナイフで受け流すが力の差にじりじりと下がり二人の討ち合う廃墟の廊下は崩壊していく。


 廃墟とはいえ形の残る建物を剣の一振りで無造作に破壊していく様は確かに騎士を超えていて、唯一露出している影騎士の口元に冷や汗が流れる。

 ベクターは大ぶりな横薙ぎの斬撃を屈んで避けると騎士の力でもって渾身の投擲を手に持つナイフで行う。

 悪の騎士とは違う方向に突き進んだナイフは機械槍と呼ばれる旧文明の兵器のコピー品である飛び道具を構えていた盗賊の首に突き刺さった。


 最後の手下は狡猾な伏せ札として隠れていたが、影騎士の蒼い目を誤魔化せなかったのだ。


 大胆な連続攻撃からの狡猾な罠を見破ったベクターは盗賊の死体が残る入り口の部屋に立ち鞘から剣を抜くと涼しげな声で宣言する。


「サー・アラン、騎士の名を穢した罪によりシャドウナイトの名の下に処断する」


「やれるものなら、やってみろ!」全身鎧の面貌を上げた悪の騎士は挑発と受け取ったのか顔を真っ赤にして影の騎士へ突っ込んでいく。


「『砕けろ』やああああ!!!」

 悪の騎士は飛び上ってスキルの発動句を唱え、兜割りのスキル動作で加速された剣の振り下ろしが無造作に廃墟の石床に叩きつけられると、自爆覚悟の攻撃で石床を打ち砕いて出来た無数の石の散弾が影の騎士を捉えんとする。


「どうだ!俺の力は!!!」


 石床が打ち砕かれた衝撃に舞い上がった埃に向かって己の力を誇る騎士。


 その瞬間、舞い上がった埃を割いて剣は捨て机を盾にした軽装の騎士が鎧騎士へ突っ込んで行くと、その油断した懐に飛び込み紅いナイフを引き抜いて鮮血令嬢バッドエンドの発動句を唱える。


「『泣き叫べ』鮮血令嬢バッドエンド……!」

 紅いナイフが高音で叫びベクターの手でアランの胸へと飛び込んでいく。


「馬鹿……な……!俺は……最強に……!」

 残心に軽装の騎士が飛び退いて鎧騎士の胸に刻まれた口づけの穴が鮮血の口紅に紅く染まると悪の騎士は膝を突いて倒れて、影の騎士の体がレベルアップに光り輝き石の散弾を受けた傷が塞がっていく。


「どんなに強くてもその力で傷つけるばかりでは意味が無いんだよ」

 シャドウナイトの天誅であることを示す黒い封蝋の手紙を騎士の残骸に送り、立ち去る。


 ここに新たなるシャドウナイトの産声が上がった。



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