69話、山の上


街へ帰還。ゼストを呼ぶ。


「これは確かに……レギオンのもので間違いはない。が、魔力に違和感があるな?俺の知ってるレギオンの魔力ではない、気もする。微妙に違うんだよな」


セイント・エルダー・リッチについていたレギオンの肉片を観察して、ゼストが首を傾げる。

この前言っていた、こっちとあっちのレギオンは別の存在かもな、って話が現実味を帯びた気がする。

ていうか、レギオンの肉片の支配力より、私のテイムのほうが支配力が強かったんだな。ありがたいね。

レギオンの肉片については、ゼストが厳重に保管し、研究解析してくれるそうだ。任せてしまおう。


セイント・エルダー・リッチは、太陽魔法の他に、治療系の魔法もつかえるという。この子は街で医療班として待機してもらおうか。傷付いた魔物の治療を主にまかせよう。あまりみんな傷つかないけどね。

そのうち、神殿とか診療所とか建てたらそこに詰めてもらおう。今のところ誰も病気になってないから必要性を感じられないんだよね、診療所。でもまあ、あったほうがいいよな。


十万くらいある敵の亡骸は、とりあえずスラちゃんに全部食べてもらう事にした。特にレアな素材も無さそうだったので。

レギオンの肉片ごと食べて大丈夫なのかと思ったが、どうやらそれは大丈夫らしい。レギオンが支配する意思をもって埋め込まなければ効果は発動しないようだ。消化してしまえば問題ない。


49日目の残りは、後片付けで過ぎていった。

夜の戦勝パーティは、一応めちゃくちゃ盛り上がった。

勝った事に対する盛り上がりではなく、調理班の新作がいくつか出てきた盛り上がりだが。


「牡蠣フライうま……タルタルつよ……」


「たこ焼きっていうのです?ころころで可愛くて美味しいのです」


「見た目グロいっすけど、めちゃくちゃ美味いすね、イカ飯」


イカちゃんに預けたファントムマーメイドによって、小型の海産物が街に齎されるようになった。それらでつくられた新しい料理は、住民にしっかり受け入れられた。

イカちゃんだと大きすぎて、小さな貝なんかはとれなかったからね。

貝類、タコ、イカ、海藻などをつかった料理がこれからまた増えるだろう。楽しみだ。





50日目。

朝はアサリの味噌汁と卵かけご飯を食べた。

うーん、味噌汁美味しいけど、なにか足りない気もするなぁ。アサリ、ワカメ、ネギは入ってる。何が足りないんだ?

卵かけご飯は、卵がめちゃくちゃ美味い。醤油もなかなか美味しいけど。米がな……米がちょっとまだ……。改良は順調だが、まだ理想には程遠い。美味しいと言えなくはないけど。


さて、今日はなにをするか。

久しぶりに迷宮以外がいいかなぁ。

海か、砂漠か、山か。

海はなにかあったらイカちゃんが呼んでくれるだろうし。

砂漠は一応、カイちゃんたちが偵察してくれている。今のところはいくつかのオアシスがあるだけだ。ダンジョンなんかも無いようだ。

となると、とりあえず山かな。どてかい木々が生えてる、霊峰に向かおう。

勇者もそっちに向かったとゴールドが言っていたが、もう十日くらい経ったし帰っただろう。





馬ちゃんに乗って、マリアと共に魔の森の奥の山に向かった。

相変わらず魔力が濃いのがわかるが、前回にきたときよりはマシに感じる。魔力に強くなったのかな?


ゆっくりと山頂に向かって進む。

とてつもなく大きな魔物たちは、私たちに見向きもしない。アビスの迷宮の八層目に似た雰囲気だな。


油断していると、虫系の魔物が襲ってきた。デカいカマキリだ。が、マリアが即制圧。いつも通り強いな。

それからは数回、虫に襲われる事があったが、マリアがなんとかしてくれた。知能が低い魔物には魅了と支配がよく効くんだって。


というわけで、山頂付近に到着。

そこに木々は無く、荘厳な雰囲気の大きな神殿があった。


神殿内部に侵入。特に魔物などはいないようだが……


「お、人だ」


「人が落ちてるのです」


神殿の奥の方に、ダンジョンのゲートがあった。

その前に、人が倒れている。

装備に神聖なものを感じる。……もしかして?


「勇者……かなぁ?」


「なのです?」


気を失っているようだし、どうしよう。

ひとまず、連れて帰るか……?

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