20話、イカれた商人が来やがった



「すっげぇ!ロックドラゴンだ!でけぇ!」


「ワシと同じようなリアクションじゃな」


17日目、商人が来た。

元気な人だ。





朝、もふもふから体を起こし、ストレッチをする。

ケルちゃんが犬のように伸びをして欠伸をしているのをみて、心が安らぐ。犬、良いな。猫も好きだけど。


朝ごはんにマジックトレントの実を食べる。

マジックトレントって長いな。トレンでいいか。君は今日からトレンだ。


魔物全員と挨拶し、役割通りの仕事をはじめてもらう。

今日は迷宮に向かうので、レオくんとカイちゃんとマリは待機だ。


昼から迷宮にいこうとのんびりしていると、ドーグが呼びに来る。


どうやら、商人が来たらしい。





「どういう人なんですか?」


「まあ、金目のものに目がない、狂ったやつじゃ。道理は弁えておるから大丈夫じゃよ、多分」


「はあ……」


目の前には、10台ほどの大きな荷馬車と、それを護衛する私兵のような戦闘集団、そしてその先頭に、金が好きそうな若くて元気な男性が居る。


「どうもドーグさん、そして新しい村長、タキナ殿!私はここから北のほうにある領地で辺境伯をやらせていただいております、ゴールド・フォン・アルベリアと申します!ゴールドとお呼び下されば!」


「え、領主さま……?え?」


「ようゴールド、久しぶりじゃな!」


魔の森にある、魔物溢れる拠点に、領主である身で乗り込んでくる。しかも辺境伯といえばものすごい上流階級じゃないか。


確かに、イカれた商人のようだ。





ひとまず、ドワーフのプレハブをひとつ借りて、中へ招く。

ここから商談だ。まあ、なんとかなるだろう。多分。


「ワシがほしいのは、各種鉱石、宝石、燃料、そしてワシらの必需品、酒じゃな。対価はワシらの作る道具じゃ」


「いつもありがとうございます。あなた方のつくる道具でないと取引してくれない方々も居るので、毎度助かっておりますよ」


ドーグのほうはいつも通りの流れらしい。

さて、こちらの番だ。似たようにすればいいか。


「私は……この村……街に必要になりそうなものを買いたいです。いろいろな植物の種とか、畜産用の動物とか、本当はそれらの加工ができる人とかもほしくて……えーっと」


「はい、はい。わかりますよ。つまりはこの街に、相応しい機能がほしいのですよね。……職人を含め、いろいろと準備させていただきましょう」


ひとまず欲しいものは伝えられた。

娯楽とか欲しいと思ってた時もあったけど、正直今はいろいろしたり見たりで忙しい。遊ぶより楽しいことがいっぱいだから、娯楽は当分いらない。


「で、対価は、ドーグさん達が使わない分の魔物素材がいいんですけど……」


「ええ、もちろん買い取らせていただきますよ!例えばどういったものを売っていただけますか?」


私は、ゴールドの前に素材をいくつか並べた。


「これとか……」


「深海鋼じゃな」


「これも……」


「マジックトレントの樹液じゃ」


「これなんかも」


「ロックドラゴンの爪じゃな。ワシらの工房じゃ加工できんかった」


「……どうでしょう」


ゴールドが押し黙る。不安になるから黙るのやめて。

……しばらく俯いて黙っていたゴールドが、バッと顔を上げた。


「す…………っばらしい!おお!商いの神よ!私をタキナ殿と、ドーグと、そして商いの道と出会わせてくれて感謝する!!」


「びっくりした」


「わしもじゃ」





結局、街の発展に全面的な協力をしてくれる事になった。

条件として、街としての取引はすべてゴールドを通すことになった。まあ、ドーグ曰く、誠実に確実に金を儲けることを人生の主軸にしている人物なので、わざわざ私のアレらと敵対するような事はしないだろう。

冒頭のアレは、夕方に帰ってきたトロちゃんとスラちゃんを見せた時の反応の一部だ。

さすがに、アレ相手に舐めた真似はせんだろう、イカれていても。


結局夜までやることがあったので、今日の分のテイムは三層の適当なアビサル・アーマーに使うことにした。

アビサル・アーマー、何体居ても困らんからね。汎用性が高すぎる。あと100体はほしい。





タキナの村には宿がないため、人数を有するゴールドは護衛たちとともに街の外で野営をした。

テント類も当然一番いいものを持ってきているので、ともすればタキナの街より泊まり心地がいいかもしれない。


ゴールドは、自分用のテントの中で、もう一人に向かって話をしていた。


「あの集落は……国にバレたらどうなると思う」


「まァ良くてユスリ、悪くて戦争でしょうな。……特級冒険者か勇者でもいない限り、国に勝ち目はねェでさ」


「騎士団でも無理か?」


「相性がわるい。あのデケェふたつで片が着いちまうかもしれねぇのに、さらにレッドオーガに、ケルベロスまで居やがったぞ。他にもやべぇのがごろごろと。スケルトンの数にはビビったぜ。あの数はめんどくせぇ……御伽噺の魔王かってんですよ」


ゴールドに従うようなこの男は、ゴールドの雇っている私兵団の団長だ。彼はゴールドに対し、誠実に、思うままのことを伝える。それがゴールドに対する最良の付き合い方だと知っているからだ。


「ククッ、やはり私は恵まれているようだ。……この友好的な関係を崩す訳にはいかないな、例えば国を欺く事になっても」


「賢明でさァ」


彼女らには、勝てない。それこそ、人類の枠からはみでた、人外たる特級冒険者や、人類の最終兵器たる勇者でもない限り。


「あの街は、金の成る街だ。……他の誰にも渡しはしないさ。さて、帰ったら仕事が増えるぞ。まずは依頼品の品定めだな。幸い街づくりのノウハウは我が領には豊富だ。機密部分以外は、資材とともにすべて売り渡していいだろう。他の領の発展情報もだ。情報処理のできる役人も数人持っていこう。はやく発展してもらわんとな。人足も用意してやろう。違法奴隷商人から接収したもの達の行き場がなかったな。国に下げ渡すつもりだったが、無かったことにしよう。王家への思想反逆罪に問われた技術者の囚人も何人かいたな。都合がいい。監察保護付きで寄越してやるか。あそこは国とは関係ないからな、王家への思想なんざ関係ない。あとはそうだな、あそこまでの道をつくりたい。試算して、次回さっそく打診しよう。ああ、隣領の介入も防いでおきたいな。不安要素は減らしておこう。各領の空白地帯側を一括で購入しよう。なに、疲弊した領への慈善だと思わせればいい。これで邪魔者も減る上に感謝までされる。融通がきかせやすくなるぞ。ああ、深海鋼やロックドラゴンの素材は期がくるまで寝かせておかないとな。うちで研究だけさせて、タキナ殿の街が簡単に手出しできないほど大きくなってから大々的に商売をしよう。いやあ、こういう時の為にしっかりと資産を貯めておいてよかったな。ふふ、あとは……」


「大将、ひとまずメモなんかにまとめて寝やしょう。明日のあっしらの仕事が増えるんすよ」


「……そうだな、寝よう。起きてからのほうがいいアイデアが出る。……ふふ、今日は人生で一番楽しい日だったな」


ゴールドの人生は、この日を境に激変する事になるだろう。

良い方へ向かうのならば、良いのだが。

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