全年齢版 僕とボクっ娘勇者の異世界ファンタジー純愛冒険物語。~転生した僕は恋人のボクっ娘勇者と恋愛しながら魔王を倒して世界を救う英雄になります~
屠龍
第1章 旅立ち
第1話 転生
都内某病院。
現代医学では治療できない難病を患った少年。
日景雪菜はまだ14歳という若さで病死した。
(誰の為に生きるでもなく、ただ薄い粥を水で薄めるように生きてきた。僕は何の為に生きて死ぬのだろう。僕をずっと支えてくれたお父さんお母さんに甘え、お医者さんや看護師さんに24時間守られてただの一度も恩返し出来ず死ぬ。僕は健康な身体と強い心を持ちたかった。僕は誰かの為に尽くしたかった)
「お父さん…お母さん…ごめんね」
雪菜が呟く。
その臨終の言葉を聞いた両親は泣き崩れ医師と看護師は雪菜を救えなかった事を悔いるのだった。
雪菜はその穏やかな性格で、医師や看護師に八つ当たりする事もしなかったので皆に愛されていた。
彼の葬式は両親と病院関係者によって小さくも心のこもった葬儀で行われた。
雪菜の魂は永遠の旅路に旅立ったのだ。
雪菜は銀髪ショートカットの女の子のような美しい顔立ちで、健康なら女顔をクラスメイトにからかわれつつも意外と人気の生徒になったかもしれない。
その未来は永遠に失われた。
だが魂は肉体の死と共に消え去る事はない。
何かに満足する。
逆に満足しなくても肉体を失えば新たな肉体を得て新たな生を得る。
それは人間の肉体の場合もあるし魚の肉体の場合もある。
また我々の知っている地球であるとも限らない。
人間が知らないだけでこの世界には幾つもの世界が存在する。
その一つ、雪菜の魂は異世界フォーチュリアに転生した。
――それが少年と少女の始まりの物語。
◆◆◆
僕が前世の記憶を思い出したのは4歳くらいの事だったと思う。
前世では身体が弱く入退院の繰り返しだったがこの世界での僕は病気とは無縁な健康な身体を持っている。
驚いたのは苗字は違えど名前がユキナ。
前世の名前も雪菜だった。
「女の子みたいな名前は嫌だ」
前世では男らしくない名前だったがこの異世界フォーチュリアでは立派な戦士の名前だという。
地球と文化が違うのなら仕方がない。
この世界は中世ヨーロッパ風の建物と文化レベルなのに清潔で食べ物もおいしい。
各家にお風呂と水洗トイレがあるなんて現代日本のようだ。
そういえば生前の僕が病室で暇をしていた時に遊んでいたゲームや小説にもこういう世界があったと思う。
一日中病室で検査とお見舞いに来てくれる両親との面会時間以外はずっとゲームをしていた。
羨ましいと思う人は是非代わってほしかった。
そんな僕が健康な身体を手に入れたのだから嬉しくて仕方がない。
この世界にも学校があり引退した役人や兵士が教える塾がある。
子供は聖教会と呼ばれる宗教組織が管理運営している学校に通い成人になるまでそこで読み書きや算数、地理など基礎的な事を教わる。
成人と言ってもこの異世界フォーチュリアでは15歳で成人と認められる。
この世界の肉体は酒に耐性があるようで10歳くらいからお酒が飲めるし聖教会も推奨していた。
子供は皆10歳くらいからアルコールに慣れる為、薄めた果実酒を飲んでいる。
大酒飲みは前世では欠点だったが、この世界では毎年収穫祭になると飲み比べが行われる。
この世界の父親も大酒飲みの一人として尊敬されていた。
聖教会は創始者が酒豪だったのか飲酒する事は敬虔な信者の証となる。
では下戸はどうなるのかというと下戸は別に迫害される訳ではないが教会の主要な役職に就けない。
前世の常識だと不公平もいいところだけどこういう文化なのだから仕方がない。
ただ下戸は悪酔いされては困る職業。
つまり役人や官僚などの高位な文官職に優先的に就職できる。
これはこれで不公平だけどこういう文化だから仕方がない。
前世の常識で考えてはいけない習慣の一つだろう。
僕は学校と同時に武芸の私塾に通っていた。
僕の父親は酒造業者で母親はその奥さん。
僕と妹が二人いる。
酒造業は花形職業なので比較的裕福な家庭。
将来は多分父親の稼業である酒造業につくのだろう。
僕は父の事が大好きだし皆が喜ぶ酒を造るのは前世からの夢である誰かの為になる生き方を満たすのに最適だから異論は無かった。
驚いた事にこの世界の酒は前世で知識だけは知っている米のお酒とかぶどう酒や蒸留酒が作られている。
これらのお酒は聖教会が推奨しているので年々改良が続けられておりこの世界でしか採れないソチという糖分を含んだ植物の茎から作られたソチナという酒もあり低アルコールで飲みやすい。
僕は酒造業者の跡取りとして豊かで社会的地位のある将来を約束された平凡な人生を送る筈。
その人生を変える出会いがすぐ訪れるとは思わなかった。
僕が生まれ育った街は小高い丘の上にあって、冬は雪深いけどそれ以外の季節は過ごしやすい。
陽が照り付ける夏はかつて過ごした日本と違い、空気が湿気てないけどやっぱり暑い。
この時期は街の子供は家の手伝いが終わると決まって山か湖へ行く。
この辺りの山や湖は妖魔の類は駆逐されているので子供が出歩いても安全だから放課後はみんなで遊びに行く。
病気になれば魔法で治療できるけど健康な身体は作れない。
陽の光を浴びて元気に遊ぶ事は子供の仕事でもある。
健康な身体を手に入れた僕は積極的に遊ぶことにしていた。
前世ではできなかった事が出来る。
木に登ったり虫取りをしたり釣りをしたり。
それだけの事で喜べる。
なんて幸せな日々だろうか。
その日は友達のヤオとミンとシンジとクズハと一緒に近くの湖で泳いでいた時だった。
この世界に転生してから健康な身体を手に入れた僕は前世で出来なかった事を満喫していた。
同じ年頃の友達と遊ぶ事もその一つで水泳も楽しみの一つ。
僕の育った村は雨季のあと気温が上がる。
水泳は子供の主な遊びでもある。
「涼しそうだね。ボクも一緒に泳いでいい?」
僕の身長くらいの石場の上から見上げたその先には、天使としか言いようのない女の子がしゃがんで僕達を見ていた。
宝石のように澄んだ緑色の瞳と、風でさらさらと揺れる長い緑色の髪。
満面の笑顔は水面を照らす陽気のようで曇りが無く、体つきはまだ可愛らしくて成長途上だけど美しい素足。
将来は美人確定の美少女。
活発な性格を表すようなシャツとショートパンツ姿の元気少女といった印象だった。
「いいよ。一緒に遊ぼう」
僕がそう言うと彼女は満面の笑顔でジャンプして湖に飛び込んできた。
「わっぷっ!?」
「あはははは♪ボクはミレーヌ。貴方の名前はなんていうの?」
「僕はユキナ。よろしくね」
みんなで笑いながら水の掛け合いをしているとミレーヌのシャツが透けていた。
膨らみかけの胸と乳首がシャツ越しに見えて、ミレーヌが女の子だって意識してしまうと僕は慌てて目をそらす。
そんな僕の様子を不思議そうにみつめるミレーヌ。
でもみんなで遊んでいるとそんなのすぐに気にならなくなったんだ。
初めて出会ったのに他人の気がしないミレーヌの親しみやすさで、僕とヤオとシンジの男三人はすぐにミレーヌの虜になってしまった。
一緒にいたミンとクズハは男たちの視線に呆れた様子だったがこれは仕方がない。
ミンもクズハも可愛いし十分美少女だけど、快活で積極的で親しみやすいミレーヌの魅力にはかなわない。
その日僕達の街にやってきて翌日から同じ学校に通う事になった少女の名前はミレーヌといった。
「今日からみんなと学ぶことになりましたミレーヌ・フォリ・アリストラードです。父は医者をしています。みんなボクと仲良くしてね♪」
ミレーヌ・フォリ・アリストラード。
僕とボクの物語はこうして始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます