第8話 恋する街角【魔法少女に憧れて】
いらっしゃいませ
『アリスcafe』へようこそ
本日の茶菓子はパステルカラーのコットンキャンディをご用意いたしました。
紅茶はクッキーフレイバー 無糖でも甘い香りが漂います。
変わりゆく人の心 コットンキャンディのように甘く優しくありますように
――――
一時は騒然としてしまった『cafe不思議のアリス』
ごめんなさい 私がかき乱してしまいました。
今はアリス店長をはじめスタッフの方々の努力で和やかな雰囲気を取り戻しております。
そして間もなくこのイベントをここまで盛り上げた主目的
マスクさんのコスプレショーが開催されます。
妹も落ち着いてきましたし、このまま引きこもっているわけにはまいりません。
さあ マスクさんの恋の応援をしましょう。
§
お店に出れば妹ははご学友に囲まれて、聖女ちゃんの顔に戻っています。まずは一安心です。
しかもいない間にもcafeでは恋の花が咲き続けていたようで、お客さまには好評を頂いております。
そんな中、主役のマスクさんが来店されました。すでにコスチュームを整え魔法少女へと変身しています。もう出演の用意の時間ですがどうしたのでしょうか
「マジックポーションは注文できますか」
戸惑いを隠せていないマスクさん 不安ですよね。
マスクさんは告白を頂いた年下の殿方へ真剣に向き合うためにこの舞台に立つ決心をいたしました。
以前、恋敗れた原因となったコスプレと言う趣味 それを自ら殿方の前で披露すると言うのです。
私たちはこの趣味は特別なものではないと、多くの人に愛される趣味なのだと分かってもらえるよう助力いたします。
しかしお相手の殿方は目立つことを嫌う大人しい方 舞台で注目を浴びるマスクさんを認めていただけるのか
ふたりを良く知る方々からは五分五分との予想
助けることは出来ますが、それ以上踏み込むわけにも参りません。
どこからともなく用意されたマジックポーション 恋を叶える魔法の薬
アリスさんきちんと予想して用意してくれました。やはりあなたは不思議な子ですね。
「でもまだ仕上げがしてないんですよ 聖女さま 出番ですよぉ」
アリスさん・・・ みなさんの前でやらせるのですか・・・
でも出来る限りのことはしてあげたいですね。羞恥心はポケットに入れて封印しておきましょう。
私が祈りのポーズをとるとcafeにいるお客様がすべて同じ姿勢に入ります。このcafeは恋する方々が集う場所 想いに共感していただけたのですね。
なんちゃって聖女ですが、出来ることを行いましょう。
「恋する乙女に世界樹の加護がありますように」
みなさんの祈りを集めたポーションに背中を押されて楽屋へと向かうマスクさん
もう迷いはないようです。
――――
――――
ショーが始まりました。
観客の中の多くの方がマスクさんの覚悟を知っております。
「同志のためにペンライトを振るのみ」
みなさんの目がお優しいのです。そして格好良いのです。
§
悪の組織ヤミーズに占拠された会場 順調に進んでおります。
ここからマスクさんの出番です。
世界樹の影にある臨時待機所 つぶやきが聞こえます。
「私に魔法を・・・ 私は世界樹の使者『ぷりぷりすいーと』」
大丈夫ですよ。胸を張っていってらっしゃいませ
§
『やめなさいっ 私が相手ですっ』
凛とした声 先程までのマスクさんではありません。
音楽とともに駆け出して舞台へと飛び上がる姿 見惚れてしまいました。
悪役さんとの立ち回り 武術を見ているような美しさがございます。
これがマスクさんの輝ける姿なのですね。素敵ですよ。
台本通り悪の幹部につかまってしまうマスクさん
実はここからの台本は空白です。何も決まっていません。
マスクさんに恋する殿方も会場のどこかで見ているはずです。
あなたの出番ですよ。
じりじりと時が過ぎます。マスクさんの表情には諦めが浮かんできます。目にはこらえきれなくなった涙が見えます。
観客席からは応援の声が飛んでいます。
あきらめないでください。ヒーローは必ず来ます。
『ヤミーズ そこまでだっ』
観客に紛れてオタクさんの装備に身を固めた彼が舞台へと飛び上がりました。
「美少女の味方 『オタク仮面』」
迷うことなく叫ぶオタク仮面さん 恋はここまで人を変えるのですね。昨日のあなたからは想像もできません。
§ § §
昨日の事でした。
イベント一日目が終わり来場者の方々も退出し静けさが戻った会場です。
ひとりの殿方が私を訪ねてきました。
愛の告白でしょうか・・・ 世界樹の下で告白されるなんて素敵ではないですか
「マスクさんのことで相談があるのですがお時間頂けないでしょうか」
・・・はい 知っていましたとも勘違いなんてしていませんわ
§
彼はマスクさんが趣味を理由にフラれてしまった過去を重く受け止めていました。
告白した彼女の苦しみをどうしたら消してあげられるのか悩んでいます。
そしてこの舞台 きちんと見て、魅力を見出してもう一度告白をするつもりだと言います。
そこまで覚悟しているのであれば迷うことはありませんよね。
「僕は人と競うことが苦手です。目立たないようにのらりくらりと生きてきました。でもマスクさんに恋してそれではだめだと思ったんです」
マスクさんがそれほど好きなのですね。自信を持ってもう一度告白すれば良いと思いますよ。
「今まで目立たないようにしていたので、人の視線が苦手なんです。三人も集まれば何も言えなくなってしまいます。マスクさんに告白出来たことは奇跡なんです。それでもマスクさんには届きませんでした。年上の女性に告白するのはどうしたら心に届きますか もう失敗したくはないのです」
良く勇気を出して私に相談してくれましたね。それだけでも素晴らしいと感じます。
でも私も恋愛初心者です。お付き合いしている殿方もおりませんので大したことも言えません。
それでも似たような境遇で告白をした年下の殿方なら知っておりますよ。
「どのような告白をしたのですか」
『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』と言う作品をご存じでしょうか 私の好きな作品です。アニメにもなっていますよ。
「青春ブタ野郎ですか・・・」
ご存じないようですね。
主人公がヒロインのピンチを前に、体面や恥ずかしさを捨てて全校生徒を前に思い切った告白をする場面がございます。マスクさんも好きな作品です。参考になるのではないでしょうか
「僕でも主人公になれるでしょうか」
すでに主人公ですよ。
作品のことが知りたければ、本部席にいるピエロさんに声をかけてください。きっと必要な事を教えてくれるはずです。明日の事も教えてくれるはずです。
ほら もう気が付いて手を振っていますよ。いってらっしゃい
「突然お伺いしましてすいませんでした。とても参考になりました」
どうして私に相談したのですか
「聖女さまにお祈りしてもらえば恋が叶うと聞きまして・・・ でも自力で出来ることをしようと思います。ありがとうございました」
マスクさん 愛されていますね。羨ましく存じます。
§ § §
歓声を一身に浴びるオタク仮面さん
人前が苦手だと言っていたのに、あんな大舞台に立っているではありませんか 誰から見ても主人公ですよ。
『推しへの愛を叫ぶことですべての悪を倒すことができるのだ
さあ行け オタク仮面 叫べ オタク仮面』
ピエロさんのナレーション なかなか煽りますね。舞台は整ったようです。
さあ あなたの告白をみせてください。両片思いの壁を破る瞬間を見せてくださいな。
「マスクさん 好きだぁ 大 大 大 大好きだぁ」
「優しく笑う横顔が好きだぁ 髪をかき上げる仕草が好きだぁ」
「変身して戦うマスクさんも好きだぁ 好きなんだぁ」
「全部 全部 マスクさんの全部が大好きなんだぁ」
ピエロさんは青春ブタ野郎をきちんと布教してくれたようです。
それに彼も勇気を出しましたね。あんな告白をされて心に届かない乙女なんていませんよ。
迷うことなく応えるマスクさん
「私もだいしゅきっ」
はい 知っていました。大好きですよね。だいしゅきですね。 おめでとうございます。
両片思いをめぐる大いなる茶番劇
ここに大団円でございます。
ふたりは多くの観客、スタッフに囲まれてお祝いの雨を浴びております。
オタク仮面さん かなり手荒な祝福を受けていらっしゃるようですが・・・ 祝福ですよね。
――――
――――
両片思いのふたりが勇気をもって一歩を踏み出したお話を私の視点より語らせて頂きました。
この恋が周りに与えた衝撃
次回、勇気をもらって幼い恋が動き出します。
またのご来店をお待ちしております。
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