地蔵【ある写真の話】
どうだい?
セピア色の古ーい写真だが…
気味の悪い写真だろ。
森の中に牛がいて、牛の頭が人間の顔になってる。
妙にリアルな顔でさ、こっちを怯えて見てる表情なんて…トンデモ写真だとしたら上出来じゃないか。
あと、その牛の向こうに何かいるんだよ。
見えた?
そう、木立の間に人が立ってるんだよ。
隠れてるみたいだろ?
で、木の葉や枝で見えにくいが、頭が牛になってるんだよな。
手が込んでるだろ?
全くおかしな話なんだけどさ。
それは俺の爺ちゃんが撮影したんだ。
爺ちゃんは写真が趣味で、農村の風景や坐骨の自然をよく撮影しては、大切に保管してた。
死んだあとで父ちゃんが遺品整理してると出てきたんだ。
その時、こんなに古い坐骨市の写真資料は貴重だって話になってさ、博物館に寄贈したんだ。
でも、その牛人間の写真は箱の底、袋の中に入っててさ。
「開ケルナ」って書いてあったらしい。
父ちゃんは開けて見てみると、妙な写真だったので初めは吹き出したそうだ。
UFO写真みたいな、小細工をしたオカルト写真だと思ったのさ。
でも、爺ちゃんはオカルト写真なんて撮らないし…
功名心から妙な写真を捏造するようなタイプでもない。
父ちゃんは不思議に思った。
あの寡黙な爺ちゃんが、なんでこんなものを?ってな。
父ちゃんは山口県じゃなくて、島根の生まれでさ。母さんと結婚するためにこっちに来たんだ。
つまりは地の人じゃないんだ。
で、『地の人』である母ちゃん…つまり爺ちゃんの娘に写真を見せるとな…
母さん青ざめて固まったらしいんだ。
この集落に、変わった事件があってな。
母ちゃんがまだ生まれる前の頃…空から変わった形の地蔵が降ってきたんだと。
その地蔵は人の言葉を喋り、集落の人間に自分を祀らせたんだ。
その地蔵はさ。
「1つだけ何でも願いを叶えてやる」って言うから、集落で話し合いを始めたんだ。
でも、集落の中にちょっと頭の弱い男がいてな…顔の不細工な。
可哀想に、深く考えず願い事をしちまったんだ。集落の話し合いの最中にな。
男の飼っていた牛が美しい雌だったんだが、彼はその牛が大好きだった。
男は何かを願ったらしいんだ。
そしたら、男の顔と、雌牛の顔は入れ替わった。
男は悲鳴を上げて山の中に逃げたんだ。
連れ戻そうと集落の人間は後を追った。
だが、その牛人間や人面牛を見たものは、気が狂ったり、事故にあって死んだりしたらしい。
集落の人間はとうとうあきらめて、役目を終えて動かなくなった地蔵を山へ封印した。
牛人間と人面牛は山から降りてこなかったらしい。
そして、面白半分で探し出して撮影したのが爺さんだ。
爺さんはこの写真を取ってしばらくして死んだ。
山の中で死んでた。
母ちゃんは、写真の事を話してくれてから2年後に死んだ。
母ちゃんは地蔵を見てみたいって山に入り、崖から落ちた。
父ちゃんは、この忌々しい地蔵を探してくるって山に入ったきり、帰ってこない。
そんな…いわくのある写真なのさ。
え?
よくもそんなもの見せてくれたな…だって?
だって、ホラー作家てのは、こういう話を集めてるだろう?
ネタになるかと思ったのさ。親切心だよ。
大丈夫。
俺は写真を見て何年にもなるけど、この通りまだ生きてるぜ。
平気さ。
時々思うんだよ。
この願いを叶える地蔵を見つけたら面白そうだってな。
本当に願いを叶えてくれるなら…
俺はそのうち山に行ってみるつもりなんだ…
一緒にどうだい?
怪談のネタとしてさ…
【おわり】
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