第28話 オークの村、トンタクルへ!
オークの住む森の名前はトンタクル。
もちろん森全体を住処にしているわけではなく、住みやすい場所に村を形成して暮らしており、村の名前は森の名前と同一だという。
準備を整えてトンタクルへ向かった私たちは森の中に敷かれた道沿いに歩いていた。
オークたちは街から少し離れた場所に住んでいるだけで、べつに世捨て人のような暮らしをしているわけではない。この道もオークたちが整備したもので、道から外れなければ迷うこともないということで案内人は雇わなかった。
森も鬱蒼としているわけではなく、適度に手が入っているのか太陽の光が地面までしっかりと届いている。
「これなら森の中でも開けた場所があれば田んぼを作れるかしら……」
「むしろ問題は水源ですね。まあ大きな水源がなくても水属性の魔法を使える者が多くいれば大丈夫かもしれませんが」
リツェ曰く、実際に水魔法で農作に必要な水を賄っている地域があるのだという。
それは初耳だわ。まだまだこの世界には記録すべきことが山ほど転がっているわね。
そうメモを取っていると隣でメルーテアが「その子供が持ってきたというお米がオークの村で作られていればの話ですが……」と少しばかり不安げな顔をした。
今から村に訪れるのは黒い米がトンタクルで作られているか否かの調査。
そして本当に作られているならそれが古代米か否かの確認。
最後に、古代米なら分けてもらえるかどうかの交渉が目的だ。
もし本当に古代米だったとしても、表に流通していないということはオークたちは敢えて秘匿して作り続けているのかもしれない。
それを子供が持ち出して売ろうとしていた理由も気になる。
色々とはっきりさせるためにも早く聞き込みをしたい。そう無意識に足を速めていると木製の門が見えてきた。野生動物の侵入を防ぐためのものかしら、でも全体的に新しいから最近作ったのかも。
護衛の騎士団員が先行して門番らしきオークに話しかけ、いくつか言葉を交わした。
……心なしか少しモメているように見える。
私は皆から見れば護衛対象だろうけど責任者でもある。
何か言い争っているなら出て行った方がいいかな、と足を踏み出しかけたところでサヤツミが「俺がスマートに解決してあげよう」と私の背中をぽんぽんと叩いて歩いていった。
その足取りは軽く、まるで旧知の仲に声をかけるように門番に向かって手を振る。
ややあってサヤツミは私たちを手招いた。
「本当にスマートね……!」
「俺が魔神だって伝えたんだよ」
「スマートだけど力技!?」
「ゼシカたちは敢えて身分を伏せてるけど、俺なら知られてもそんなに混乱は起こらないだろうしね!」
ぶっちゃけ王族関係より魔神の方が恐れられない?
そう顔に出すとサヤツミはウインクしてみせた。
「俺はナクロヴィアの各地を観光してただろ? この近くにも来たことがあるから話が伝わってたんだ、地域活性化に貢献する良い魔神がいるってさ!」
「あー……行く先々でお金を落とす気前のいい魔神ってことね……」
サヤツミは色々なところへ出掛けては多種多様なお土産をどっさり買ってきた。そんなのどこで売ってたの? って代物も多かったから、なかなか売れない土産物も嬉々として買い漁っていたのかもしれない。
そして行く先々で飲み食いしていたなら、恐ろしさよりも親しみを持たれていた可能性はある。
ちなみにサヤツミのポケットマネーは彼がいつの間にか稼いできた真なるポケットマネーだ。
一度稼いだ方法を訊ねたことがあるけれど「元手は何でも良いんだよ。上手くやればすぐ宝石辺りに繋がって、そこから更に跳ね上げることができる」と到底真似できないような理論を語っていた。
サヤツミ、前世の世界なら株で大儲けしていたタイプかもしれない。
なにはともあれ無事にトンタクルへと入ることができた。
中は至って普通の村だ。
ただ――なんというか、どこか活気がないように見える。
村人は全員オーク。オークは人間よりも頭一つ分ほど大きく、肌は緑で大きな牙を持っていた。髪色は様々だけれど目は全員赤い。
ゲーム内ではモンスターの一種として登場していたものの、他の種族同様ここでは人間と変わらない精神を持ち、理性と知性を感じさせる振る舞いをしていた。服飾もお洒落なオークは私から見ても羨ましいセンスをしている。
まずは米について訊ける人物を探さなきゃ、と見回していると数人の若者を連れた老いたオークが近寄ってきた。
「村長のオームルです。魔神様、本日はどのようなご用件で……?」
「おっ、話が早いな。ゼシカ、村長の家で話を聞かせてもらおうじゃないか!」
村長には混乱させてしまって悪いけれど、本当に話が早くて助かるわ。
私たちは村長の家へ向かうと早速目的を伝えた。
村長相手なら訝しまれる前に明かしておいた方がいいだろう、ということでサヤツミ以外の身分も伝えて名乗る。
村長は国に対して何かしでかしてしまったかと緑の肌を青くしたけれど、私たちが黒い古代米を探してここまで来たことを伝えるとホッとした表情を浮かべた。
「少量ですが黒い米はたしかに栽培しております。どうにも我々オークの口には流通している米が合わないようでして。ただそれがお探しの古代米かどうか判断ができず……」
「その米はいつ頃から栽培してるの?」
村長は腕組みをして首を傾げる。
それなりに年を取って見えるけれど、そんな彼にも思い当らないほど昔から作られているらしい。それなら望みはあるかも。
すると村長が「そうだ!」と手を叩いた。
「村の記録を地下に保管しております。米についても何か記述があるかもしれません」
「おやおや、ゼシカ、これは……」
サヤツミは私と目を合わせる。
そして満面の笑みを浮かべるとグッと握りこぶしを作ってみせた。
「まーた大調査の始まりだね!!」
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