異世界につれていかれた私は善行を積まないと帰れないらしい(仮)

東雲うるま

 プロローグ

 「……部活が長引いたんだから仕方がないよね! それにどうせもう間に合わないんだから歩こう……」




 鈴木永恋すずきえれんは毎日、部活の後に祖父の稽古を受けていた。母親の『おじいちゃんもいつまでも元気じゃないんだから、生きてる間におじいちゃん孝行しておきなさい。それにおじいちゃんが稽古を受けてくれたら、毎月お小遣いくれるってよ』の言葉、主に後半部分に惹かれ了承したのである。




 その約束がまさか高校生になっても有効だったなんて……。もしも過去に戻れるなら約束してしまったあの日に戻って、私をビンタしてでも止めてやりたい。そんな事を考えながら歩いていると、車道を堂々と歩いているネコを見つける。




 「あっ! シロネコ!」




 首輪はしていないようだから野良猫かな? でも車が来たら危ないから早く車道から出さないと……。




 「お~い! ネコちゃん! そこは危ないよ~」




 驚かせてでも車道から移動させようと大きな声を出したのだが、そのネコは気付く素振りもなく、さらに車道を道なりにスタスタと歩いていく。




 「わ~っ! 全然気づかないや! あっ! 車が来ちゃった」




 暗くなり始めた道の先に車のヘッドライトが見えたので、荷物を置きネコの下に走っていく。近くに行っても逃げないようなら、抱っこして歩道まで連れて行こう。




 「ほら~ネコちゃん! 危ないって言ってるでしょ~! …………きゃっ、何これ?」




 ネコに近付いた瞬間、眩い光に包まれ意識が朦朧としていく。私はそんな状況なのに、何故かそのシロネコの尻尾をがっちりと掴んだ。






 




 ♦ ♦ ♦ ♦










 「――ん? やっと目を覚ましたか……! さあ! 起きれるかい?」 




 肉球で顔を優しくぺちぺちされて、私は目を覚ました。




 「んん~っ! あっ! ネコちゃん! 無事だったんだね! 良かった!」




 目を開けるとそこには白一色の広大な空間が広がっていた。えっ? どこ此処……。




 「とりあえず、その手を放してもらってもいいかな?」




 「あっ! ごめんなさい! パニックになってとりあえず、掴んじゃった……」




 慌ててシロネコに謝り尻尾を放した。そこでやっとこのおかしな状況に気づく。




 「えっ? 何この場所、それに何でネコがしゃっべってるの……夢?」


 


 そう思って腕をつねると痛みを感じた。痛い……そういえば、意識を失う前に眩しい光に包まれて……そうか私たちは……。夢でもなくネコが喋る理由は永恋えれんの中では、もうそれ以外には考えられなかった。




 「ネコちゃん! 私たちはあの時に一緒に車に轢かれちゃったんだね……。ごめんね! 私がもう少し早く助けに行っていれば……」




 それを聞き、シロネコが笑い出す。




 「ふふふっ……君はとても優しい子なんだね! でも君は色々勘違いしているようだから、まずは今の状況や事の経緯を話した方が良さそうだね!」




 そう言ってシロネコが話してくれた事は、自分が今、体験していなければ到底信じられないものだった。どうやらこのシロネコは別の世界から私のいた世界に遊びに来ていたらしい。そして色々見て回った結果、暗くなってきたので元の世界に一旦帰ろうとした所、私を巻き込んでしまったのだという。




 「えっ? 巻き込まれた? じゃあここは異世界って事?」




 「ほう! 物分かりが良いな。そうだな……ここの事を話すには、まず私が何者か話した方が良いと思う。簡単に言うと私はこちらの世界の神という存在になるだろう」




 えっ! このネコちゃんが異世界の神様? という事は……多くのネコたちが二足歩行で働いて暮らしている世界が頭に浮かぶ。




 「違うぞ! この姿は仮の姿であって私はネコの神ではないし、それにネコが文明を築いている世界でもない」




 「えっ! 今、私の頭の中を覗きました?」


 


 「覗くというのはいささか語弊があるが、心の声が聞こえたり想像しているものが見えるのは確かだな」




 へ~そうなんですね……。




 「おい! 心の中で返事をするな!」




 「えっ! ごめんなさい! 駄目でした? 心の声が聞こえるなら良いかと思って……」




 「普通の人間は神をもう少し敬うものなのだが……」




 「すみません! 見た目がネコなので何か実感が……(可愛いとは思うんですが敬えるかと言うと……それに話し方も神様っぽくないし)」




 結局、その心の中も読まれてしまい、ネコガミさまもそれには不服だったのかきっちりその理由を説明される。まず、なぜそんな見た目だったかというと、本来の姿を見せると私の魂が耐えられないのと、尻尾を掴んだはずのネコが別のものになっていたら、混乱してしまうからネコのままでいてくれたのだそうだ。そして話し方も私が安心するように、身近な人物の話し方に変えているくれていたのだった。


 


 「そ、そうなんですね! 折角のお気遣いにも気づかず、失礼を言って……いえ、考えてしまい申し訳ございませんでした。それではそろそろ家族も心配しますので、お家に帰らせてもらいたいのですが……」




 これ以上余計な事を言って、罰を当てられても大変なので早くお家に帰らせてもらおう。




 「…………残念だけど、今の君では帰るのは無理かな……」


 


 「えっ?」




 その理由は私の魂が再度の転移に耐えられないからという事だった。そうなったら今度こそ天に召されてしまうらしい……。私の魂、耐えられない事が多すぎなのでは?




 「神さまは『今の君では』と、おっしゃっいましたが、何か方法があるんでしょうか?」




 「神さまって……ちゃんとした名前があるんだけど……。まあいいか、とりあえず帰る方法はいくつかあるけど、霊格を上げるのが君には一番、向いているかな」




 「れいかくですか?」




 「そう! 魂の格を上げれば転移にも耐える事が可能になる」




 「それはどうすれば上がるのでしょうか?」




 「一番簡単なのは善行をなす事だね! そうすれば霊格も少しずつ上がるはずだから、地道に善行を積み重ねるしかないね」




 「……わかりました。え~と、それでここで何をするのが善行になるんでしょうか?」




 「ああ、ここじゃなくて私が作った世界に行くんだよ! 魔物もいるから霊格が上がるまで生き残るのも頑張らないとね」




 「えっ!」




 こうして私の異世界での生活が始まったのでした。

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