五十六輪目
千代村さんが嫌いというわけではない。
ただ少し、苦手なだけである。
そうなった理由は特に何かあったわけでは無い。
過去に接点があったとか、街中で見かけた時に対応が悪いのを見たとか。
そのような事は一切ないのだ。
ないのだが、千代村さんから薄気味悪いものを感じるのである。
そもそも普段、街中を歩くときに周りの人の顔なんてそこまで気にしていない。
人の顔が覚えられないのも相まって、俺が街中で有名人に気付くなどほぼ無いと言える。
たとえそれが推しであっても例外では無い。
ついでに言えば俺に霊感なんてものはないので、薄気味悪く感じるのは完全に個人的な思い込みである。
どこか"ちぐはぐ"みたいな、作られたような違和感を覚えてからそう思うようになった。
そう抱くのは千代村さんに対してだけであり、作品に対してはまた分けて考えているため。
曲は好きだし、千代村さんの歌唱力も高いのでいいと思うのだけれど。
合間に挟むMCの時であったり、不定期に行われる生配信であったりと、そういった時に引っかかる。
……本当のところを言えば、ライブ中であっても少し気になったりは。
勝手な思い込みでこうなってしまって申し訳ないという気持ちなのだが、こればかりはどうしようもない。
俺の抱く感情なんて些事なので、誰に伝えたところでって話でもある。
結果、なんだかんだでライブを楽しむのだから考えるだけ無駄なのだが。
早いもので、アンコールも一曲目が終わってしまった。
何故、楽しい時間はこうもあっという間に過ぎ去ってしまうのだろう。
あと十時間ぐらいライブやって欲しい。
二十四時間企画とか無いかな……。
残るはMC、ラスト曲を残すだけである。
メンバーが順番に今回のライブの感想や、気持ちなどを語っていく。
まだ公式発表されていないが、後一年ほどでこのグループの活動も終わってしまうからか、みんなどこか涙目であった。
今後行われるであろうライブも数え切れるほどしかないため、一つ一つがとても大切なのだと感じる。
『シュリ、すっごくパワーアップしてきたから。私たちもビックリだったよ』
『そうね。昨日の今日で合わせたからまだまだ荒削りだけれど、次のライブまでには仕上げるわ』
『その次に予定してるライブは来週の日曜、夜に生配信で発表! みんな見てねー!』
『私としては秋凛に何があったのか気になるのだけど』
『ふふ、それはプライベートな事だから今は内緒。許可が出たら生配信の時に発表できるかも?』
立てた人差し指を口元に当てながらそう呟く秋凛さんの雰囲気は色っぽく、会場が沸き立つ。
あ、サラッと流されていたけれど、次にやるライブの予定がもう決まっているらしい。
まだ何も聞いていないので配信が楽しみだ。
『それじゃほんとにほんと、最後の曲いっくよー!』
───
近親交配には気を付けてると書きましたのでそこに関して。
ずっと日本国内で主人公の種を使い子供を増やすと、子供たちが大人になった際に少し面倒なことになります。
主人公の種を使うと他の男性よりも男女比1:1に近い比率で子供が産まれますが、子供同士では交われません。
加え、一代で人口減少をどうにかできる訳ではありませんし、何代も続けていかねばまた緩やかに破滅へ向かっていきます。
なので日本国内のみの繁殖だけであれば主人公の種の価格はすぐに下落します。
主人公な種が枯れるまで高くあり続けるわけとしまして。
研究に回される、海外に売られる。などになります。
日本国外では男女比率がより偏っているため、それはもう高く売れます。
男性に給付金としてお金を渡してもお釣りが来るほどです。
日本は男性の種で成り立っているため、他国から疎まれています。
しかし、その日本から渡される種が無ければ滅ぶので何も言えません。
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