四十八輪目

 すぐに理解出来なかったと言うよりは、何を言われたのか分かりたく無いといった様子の秋凛さん。

 だがそれも時間が経つにつれて解れていき──。


「…………ぁ」

「うぇっ!? え、ちょ、秋凛さん……?」


 急に泣き始めてしまった秋凛さんを見て、パニクってしまう。

 少し前まで抱いていた面倒だと思う気持ちもどこかへ吹き飛んでしまい。

 どうしようかと纏まらない思考のまま、取り敢えず抱きしめていた秋凛さんをあやしてみる。


 ふざけたこと言わないで、とか。

 怒られるものだとばかり思っていたため、予想外のことに置いてけぼりをくらっている。


「ね、秋凛さん。全部話してみてよ」


 いま、胸の内に収まっている秋凛さんを見て。

 少し力を加えただけで壊れてしまうような、脆くて儚い印象を受けた。

 これまで見てきたマイペースな秋凛さんのイメージとはかけ離れたような……いや、違うか。


 今まで見ていたのは丁寧に作り上げられてきた偶像アイドルで、もしかしたらこれが本来の秋凛さんなのかもしれない。


「……聞いて、くれる?」


 肯定の意を込めて抱き締める腕に少し力を込めれば。

 それを感じ取ってくれたのか、少し間を空けてからポツポツと話し始めてくれた。






「──だからね、誰かの為に頑張らなくて良いって言ってくれたの、優ちゃんが初めてなんだ」


 三十分ほど話した後、最後にそう締めくくって笑みを浮かべる。


 正直に言えば話の半分も聞いていないし、聞いていたのもほとんど忘れてしまった。

 それでも印象に残っているものもあるが。


「あまり人生経験が豊富ってわけでも、なにか特殊な体験もしてきたわけじゃないので……アドバイスとかできなくて、すみません」

「ううん、優ちゃんは優ちゃんで居てくれるだけで私、救われるよ」

「そうですか?」

「そうなんだよ」


 真っ直ぐに見つめられながらそう言われ、恥ずかしく目を逸らしてしまう。

 そんな俺の反応を見て、秋凛さんがクスリと笑ったのが聞こえてくる。


「……あの、ね、優ちゃん」

「どうしました?」

「その、一つだけお願い聞いてもらってもいい……かな?」


 どこか話しにくそうにしている秋凛さんに続きを促してみれば、なんとも可愛らしい返しである。


「自分にできる範囲なら何でもしますよ」

「え、なんっ……んっ、んん」


 咽せたのか、何か言いかけていたが咳き込んでいる。

 そんなに慌てなくても撤回したりしないのに。


「こ、これからはみんなの為に頑張るんじゃなくて、優ちゃんの事を想って・・・、優ちゃんの為だけに頑張ってもいい……かな?」

「自分だけを思って・・・なんて少し恥ずかしいですね。……でも、そんな事で秋凛さんが楽しめるなら全然大丈夫ですよ」


 もっと別のことを頼まれると思っていたが、そんな事でいいのだろうか。

 一晩、寝ずにゲームに付き合ってとか、秋凛さんの事だから言いそうに思っていた。


「遠慮しなくてもいいですよ」


 なのだが、何やらまだお願いがある雰囲気を感じた。

 わざわざ俺に確認など取らなくても秋凛さん次第なので、先ほどのお願いなんてあってないようなものだ。

あまり役に立ってる気がしなかったからむしろありがたい。




「それならもう一つお願い、とか……いいかな?」






───

何でも言うこと(ry

女性から男性に向けて言うことは結構ある。

最低限、それくらい言えないと男性と付き合うことは出来ない。

世の中の女性の大半はそういった気概を持って生きている。


男性から女性に言うことはまず無い。

そんな事を口にするのは同人誌の中にしか存在しないと思われていた。

もちろんその後はR18展開からの結婚ルートであったり、他にも色々なエンドがある。

世の中の大半の認識は交わりからの結婚。

つまりそれを言われた秋凛は……。

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