四十一輪目
ずっと何も話さないというのも居心地が悪く。
調理を続けながら頭を回転させ、何とか話題を絞り出して会話を続けたが。
「…………」
作ったのもうどんつゆに簡単な野菜スープだけで、本来ここまで疲れるものじゃ無い。
料理ができる頃には精神的疲労が凄いことになっていた。
でも、この疲労は会話を頑張った事だけでないのに気付いた。
夏月さんで多少慣れたかもとか思っていたけど、それはずっと一緒にいた夏月さん相手だからであり。
懐かしく今、推しを前に少しテンパっている気が。
調子というか、テンションが少しおかしいのはそのせいだろう。
下手な話題を振れないし、夏月さんがいながらも、よく見られたいという思いがあった故。
次は二人きりでの食事が待っている。
いや、確かに最推しは高瀬さんと夏月さんなのだが、基本的に箱推しなので秋凛さんも推しなのだ。
……………………あれ。
これ、別に俺も一緒にここで食べなくても良かったのでは。
秋凛さんも元気だったわけだし、ご飯だけ作ってサヨナラでも……。
好きな推しと食事できるなんて前ではそういったイベントが開催され、行ったとしても一対多数が普通である。
だからこんな事を考えるなんて本来ありえない事なのだが、何を話したらいいのか分からないので今回は遠慮を……。
「優ちゃん、どうかしたの?」
「いえ、何でもないです」
「そう? それじゃ、食べよ?」
「はい」
流れで食卓に着いてしまう。
すでに自分の分も盛り付けを終えている時点で帰るという選択肢は残されていなかった。
「いただきまーす」
「いただきます」
汁物や麺系は余程変なものを入れない限り失敗するようなことはない。
けどもやっぱり口に合うか不安になってしまうので、秋凛さんが食べる姿を伺い見る。
「わ、すっごく美味しいよ」
「それは良かったです」
秋凛さんの様子を見るにお世辞では無さそうだ。
でも人の手料理を初めて食べる時って大抵美味しいもんだと思うので、調子に乗らないよう気を付けないと。
食事中、不思議と会話が途切れることはなく。
想像していたことにはならず、とても楽しい食事の時間であった。
片付けは秋凛さんがやってくれているので、俺もその間に帰り支度をしておく。
「あれ? もう帰っちゃうの?」
「えっと、まあ、秋凛さんも元気そうでしたので」
「もう少し、居て欲しいな。……ダメ?」
「いや、ダメって事はないですけど……。帰ってもゲームくらいしかする事ないので」
「優ちゃんもゲームするの? 私、たくさん持ってるから何かしようよ」
俺がゲームをやると知り、秋凛さんは子どものように無邪気な笑みを浮かべている。
「ディスクはこの棚にあるから、優ちゃん選んでいいよ!」
「それじゃ…………これで」
よくゲーム配信しているのを知っている。
一人用からオンラインで複数人、何でもござれだ。
ザッと見ていき、つい最近夏月さんとやったゾンビゲームを手に取る。
これは別にゲームで情けない姿を見せたくない、とかそういった思いは全くない。
いや、ほんと。
ただ少しだけ他のゲームよりはやり慣れていて、疲労が少なく済むだろうと思って選んだだけである。
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