十二輪目
どう……とは、いったいどういった事なのだろう。
いや、文脈的にお付き合いの相手として聞かれているのだろうけれど、まだ知り合って半月も経ってないし、会ったのも今回で二回目だ。
もしかして、何かドッキリにでもかけられているのだろうか。
カメラを探してみたいが、真っ直ぐに俺を見てくる常磐さんから目を逸らすなんてできない。
演技だろうけど、真剣な告白にはキチンと答えを返さねば。
「えっと、自分ごときが言える立場ではないんですけど…………その、ごめんなさい」
「…………あはは。……そっか。うん、そりゃそうだよね。……ごめんね、いきなり変なこと言って。私のことファンって言ってくれて、少し勘違いしてたみたい」
俺の答えを聞いた常磐さんはグッと何かを堪えるようにし、誰が見ても空元気と分かる笑みを浮かべながらそう口にした。
「遅い時間だし、キリも良いからもう寝よっか」
「あ、あのっ!」
自分のせいでというのもあるが、先ほどまでと様子が全然違う常磐さんに何か言わなければと、考えるよりも先に言葉が出ていた。
片付けをしようと立ち上がったまま動きを止めた常磐さんがこちらを見るが、今にも泣いてしまいそうな表情に心が痛む。
「こ、告白、すごい嬉しかったです。自分と常磐さんが恋仲になったらって妄想とか、その、してましたし……」
「…………えっ?」
自分の恥ずかしい妄想を、まさか本人に告白するとは夢にも思わなかった。
何を話したらいいのか分からなかったので思わず話してしまったが、これは後で布団の上を転げ回るやつ確定コースだ。
だが、自分の羞恥に悶え苦しむ未来よりも、常磐さんにキチンと伝える方が優先度高い。
「これまでしてきた妄想が実現するんだって、すぐにでも首を縦に振って受け入れたかったですけど……でも、自分は『Hōrai』としての常磐さんしか見ていなくて。……常磐さんのことを見ていないのに、それはすごく失礼なんじゃないかって」
自分はファンという立ち位置で常磐さんと接していたのだ。
次に会うことはないだろう、その場限りだろうと。
本来ならそれが正しいはずだと思っているのだが、どうやら向こうはそうは思っていなかったらしく。
初めて会った時からファンの一人としてではなく、俺自身を見ていてくれたのだと。
常磐さんは対等な関係として接してくれていたのに、俺は一線を引いていたのだ。
……いや、でも二日目にしてこれだから、やっぱり俺は間違っていないのでは?
いや、いや……うん、俺が間違っている。
推しが間違っているなんてないのだから。
「これからは一個人としての常磐さんを見て、知っていこうと思うので……だからまずは友達か──んむっ?!」
「──んっ」
話してる途中で少し照れが出てきて、常磐さんから一瞬視線を外して戻した時。
目の前に常磐さんの顔があり、膝に人が乗った重みが。
それらに驚く間もなく気がついた時には両手を頬に添えられ、キスをされていた。
「嬉しいっ! そんなに私の事を想ってくれていたなんて! お互いの事を知るのなんて付き合ってからでも出来るよ!」
「は、はい」
唇が触れるだけの、長くない時間のキスであったが、その瞬間だけが永遠に続くのではと思えるような幸福感があった。
すでに顔は離れているが、いまだ常磐さんは向かい合う形で俺の膝に乗っており、その距離は近い。
そんな近い距離でカッコいいことを言われた俺はただ、頷くことしかできなかった。
───
この世界ではあまり男性と接する機会がない女性も少なくないため、出会いを目的として有名になろうとする人もいます(そこから人気が出るか出ないかは実力次第)。
なのでファンと付き合うのは半ば黙認的な形になりますが、それでもやはり離れる人はいます。
ただ、それ以上に新たなファンが増えます。
男性に魅力的に見られる秘訣や、好意的に思われる仕草、心構えなどを学ぶ的な感じで。
よほど強引に男性へ迫った場合、社会的な問題になりますが(夏月の行動も主人公でなければ黒に近いグレー)、まあ、主人公はちょっと違う世界観の人間なので。
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