十輪目

 仮に先ほどのが嘘だったとしても構わない。

 そんな些細なことよりもあれ、動画に撮って保存したいからもう一度とかお願いできないかな。

 無理かな。


「お風呂、いただきました」

「…………凄く良い」

「え?」

「あ、いやっ、サイズが合って良かったなって。私もさっさと入ってくるね。冷蔵庫とか棚開けて好きなの飲んでていいから!」


 何かを誤魔化すように早口で伝えた常磐さんはパタパタと風呂へ向かっていった。

 そんな姿を可愛いと思いつつ、何を飲んでいいものか分からないので適当なコップを借り、ミネラルウォータをいただく。


 女性のお風呂は長いものだと知っているため、気長に待とうと思うのだが……さて、何をしていようか。

 自分の家だと好き勝手できるのだが、人の家にお邪魔しているためそうはいかない。

 一人だと音がなくて寂しいので取り敢えずテレビをつけ、スマホを弄ろう。


 タイミングが良かったのかテレビでは明日の天気についてやっていた。

 徹夜からの寝落ちだから何時に帰れるか分からないけども、一日晴れのようだから特に何かあるわけでもない。

 仮に雨が降っていたとしても折り畳み傘を常にカバンの中へ入れているため問題なし。

 気温も四月にしてはだいぶ上がるようで、昼過ぎには二十度近くになるとか。


 明日は家に帰ったら何もしないで寝る日だなと、天気予報もほどほどにスマホへと視線を落とす。

 SNSを開き、流れてくる呟きを見ていけば。


『本日、午後五時ごろ。帰宅中の男子高校生を人気のないところへ連れ込み、猥褻な行為を働いたとして三十代会社員の女性が逮捕され──』

「えっ」


 天気予報はいつの間にか終わっており、ニュースへとなっていた。

 何やら気になることを言っていた気がするけども、そんなことより大変重要なものを見つけてしまった。


 ──高瀬さんがライブ配信をしている。


 すぐさまリンク先へと飛び、スマホの音量を上げて聞くも、やはりイヤホンが必要だと少し急いでカバンから取り出して装着。


『──で、その時も秋凛しゅりはゲームばかりやってたんだよね』

『あっ、ほら、それは内緒だってば!』


 いつからやっていたのかは分からないが、どうやら同じ『Hōrai』のメンバーである月居つきおり秋凛しゅりの家にお邪魔し、一緒にゲームをやっているようだ。


 音がないからとテレビをつけたはいいが、今となっては逆に邪魔だ。

 何か気になるニュースをやってた気がするけど消し、配信に集中する。


『春ちゃんは話してる暇あるならゲームに集中してよ!』

『へ? え、わわっ、ごめんっ!』


 二人は有名な大乱闘するゲームをしており、チームを組んでいるようだ。

 普段からやり慣れている月居さんとは違い、あまりデジタルゲームが得意でない高瀬さんが良い具合に足を引っ張っているようで。


『ちょっ、どこいくのっ!?』

『わ、分かんないっ!』


 その言葉を最後に、高瀬さんは場外へと消えていく。

 敵は弱い設定のCPUらしく、残った月居さん一人でボッコボコにして勝利をおさめていた。


 この後、オンライン対戦でファンも交えて遊ぶらしいのだが、その前に慣らしとしてやってみたらこのザマだったと。


 もう一度練習をと口にする高瀬さんだが、いつまでも待たせるわけにはいかないと一蹴し、オンライン対戦へと切り替える。


 ランダム設定で四対四のチーム分けがなされるわけだが、基本的に四対三みたいなものだ。

 激しい戦いが繰り広げられる中、一人違う場所で何かしているのである。

 ファンは狙いに行かないが、月居さんは容赦なく高瀬さんを落としに向かうのがさらに良い。


 たまに戦闘区域へ入っては吹っ飛ばされ、ごく稀にたまたま上手くいって吹っ飛ばしたり。

 何が起こるか分からないので結構面白い。


 オンライン対戦も二回ほど終えて三回目に入ったが。

 常磐さんがお風呂から上がったようで、配信が観られるのはここまでのようだ。


 続きが気にならない訳でもないが、これから推しと一緒にゲームをするのだから。

 それにいつも通りなら動画は残してあるはずだし、リアルタイムで一緒にじゃないのは残念だが、また後日見よう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る