2025年1月~

ep14:企画名:「セーラー服」「タバコ」「終わり」

主催者:佐々木キャロット氏

企画名:「セーラー服」「タバコ」「終わり」


趣旨

・三題噺。以下のワードを使って執筆した作品であること「セーラー服」「タバコ」「終わり」

(直接的にそのワードを登場させる必要はないが、関連性は必要)

・key wordは傍点にて明記。しかし傍点は他の用途に用いていますがあしからず。

・企画者の希望により今回の作品を書くに至った経緯記載(文章末より)




title:撮れた夕陽はあなたのよう


 ここ最近の夏はあまりにも暑すぎる。そう文句を言いたげな冬服着てきた白鷺真保しらさぎまほ。私の親友でとてもやさしいけど、人見知り。その具合は3年生になってでも食堂で対面注文ができないほどにか弱い。なので今日とか一緒にお昼できるときは私が真保まほのものも頼んでいる。


 今日のお昼は私はハンバーグ定食で茶碗に乗ったライス、日替わりスープそしてハンバーグとコーンとポテトの付け合わせ。何がすごいかって平皿ではなく鉄板プレートで出てくるところ。


 真保のはオムライス定食。黄色の卵に包まれたチキンライス。真保はマヨラーならぬケチャラーらしく、ケチャップをドバドバかけて深紅の海に泳がせる。もう一品は今日の日替わりスープで湯気の出ているコーンスープ。


 ここは私たちの通っている時雨学園カフェテリア。地域にも時雨食堂として開放しており、味と安さは全国各地の学食を比べても冠以外ありえない。絶対に、絶対学園長が少し太いのはこの食にこだわる探求心に違いない。そしてここに在学してきて私の体重が10キロ増えたのも絶対、絶対にここの学食のせいに違いない。


 ナイフとフォークを用いて肉を切るとあふれ出る肉汁。少しずつ息をフーフーかけながらその肉の塊を口にする。向かいの席にはスプーンで卵の皮を破きながらケチャップの海に少しつけながら口にしている。


 少しして真白がコップに入った水を飲んで一息。そしてまじまじと私のハンバーグを見て問いかける。


真保まほ:「ねえ、真白ましろ、こんな暑いのになんでハンバーグにしたの?」


 スプーンを少し置いて頬杖をつきながら私に聞いてくる。このポーズが一番彼女が落ち着くらしく、私もただどこか面倒くさがりで抜けてる彼女にお似合いと思っている。


真白ましろ:「この肉の塊を見て頼まない理由はないでしょ?」


 すると真保の眼が少し冷ややか。まあこのクーラーがあってやっと息を吸える季節にちょうどいい目線だ。それでも親友の空気読みなのか作り慣れた笑みを作る。


真保:「なんでダジャレなの?」


 その言葉を待っていた。私は目をかっぴらいてこう宣言する。


真白:「これこそ、鉄板ジョークでしょ?」


 それに真保の偽装笑顔が壊れて、苦笑いと何度か大きな頷き。このハンバーグと同じくらい上手いネタだと思ったのだがノリがよろしくない。


 私は各テーブルに常設してある調味料の一つ。ざっと5世紀前は金と同等の価値でトレードされた胡椒と呼称されているものを手に取った。


真白:「ここにあるペッパーくらい辛い反応だなぁ」 


 その追撃のネタにも真保は苦笑い。普通に感情自己支配が強するぎる。私のネタスキルの大幅アップグレードか真保の頬筋のダウングレードを望むほかない。


真保:「でも普通に凄い、なんでここまでダジャレが出てくるんだか……」


真白:「さあね、脳の情報の衝動に任せてるだけだからね……」


真保:「なんかラッパーみたい」


真白:「隠れて生きる新人ラッパー、実力まさにぺえぺえペイパー、それでも言葉の私はダンサー、あなたの笑顔に押したるシャッター」


 そうまた適当に返すと真保は苦笑いを超えてあきれに近かった。


真保:「多分、才能だわ……」


 そうにっこり口元が緩んでいる。その笑顔につられて私も笑っていた。


真保:「それじゃ、話変わるけど、ほら、一昨日話してた写真部の話……」


 そう、私は忘れていた。真保を理由もなく笑わかすことに必死になりすぎていた。単刀直入で私は依頼する。


真白:「あ、忘れていた。私写真部でコンクールに出すんだけどさ……、真保にモデルを頼みたいんだ!」


 そう宣言すると真保は少し顔が引きつった。もちろん真保の写真嫌いは知っている。でも真保以外に似合う少女もいないだろうと思い、私は声をかけた。


真保:「場所、時間は?」


 そう決定を先送りに情報を求める真保。その慎重な性格は一年の時、隣の席になって初めて声をかけた時からずっと変わっていない。


真白:「使ってない空き教室で放課後に」


 そう情報開示すると真保は少し黙り込んでしまうが「いいよ」とだけ答えた。それに思わずガッツポーズ。


真白:「さすが真保。頼りになる……!」


 真保は慎重だけど、私のお願いは7割くらいは聞いてくれるからとっても優しい。


真保:「その代わりその後カフェでコーヒーおごりね」


 真保は慎重だが、狡猾さも持っている。それに私は苦笑いで「さすがね」とつぶやいた。




◇放課後◇


 空き教室にクーラーを入れられないのは本当に考え物だ。教室がまるで溶岩の採れる火山のように暑い。今年初めての真夏日。まだ6月、夏休みまではあと4週間。暑くなるポテンシャルは溶岩の中に匹敵するかもしれない。


 とっくに空になったコーラのペットボトルを口にする。ぬるいし、スズメの涙ほどのコーラが淡く甘い。空になったペットボトルを見てそっとため息をついた。


 真白――早く来ないかなぁ……。


 時々抜けている彼女真保との待合場を図書室とか図書室とか……、図書室にするべきだった。どこかクーラーのガッツリ効いた学校の冷涼提供れいりょうていきょうスペースを推察するが図書室しか思い浮かばない。因みにその図書室のクーラーが一か月後壊れて図書部の人たちが干物になっていったのはまた別のお話。


 事務室、職員室は先生達が占拠しているし、保健室は体調不良者に申し訳ない。クーラーが使える文化部、特に吹奏楽は音楽室に立てこもり。運動部でも特に水泳部はまるで水を得た魚。こいつら全員、真保がなぜか今日持ってきた冬用セーラー着させて廊下に放り出してガスバーナーで炙りたい。


 からから乾いた思考回路を一人でグルグルしていると、戸がガラガラと動く。


真保:「ご、ごめん、トイレで遅れた」


 昼間来ていた冬用今不要のセーラーを腕にかけて、セーターも腰に巻く。真保はスタイルが良いからやはり絵になる。


真白:「ううん、別にいいよ」


 こんがり焼けそうになったけどね、という言葉をぐっと押し込んだ。真保は生真面目だから少しの遅刻も罪悪感に支配される人間。だからそういった罪悪感を煽るのはよろしくない。


 教室の空き教室、机と椅子は全部後ろに下げた。私は彼女に例の物を手渡す。それを見て彼女はセッティングの話をした昼間と同じような問いを投げかける。


真保:「じゃん……」


真白:「チョコです」


真保:「薬物の隠語じゃん……」


真白:「シガレットチョコです」


真保:「それとこの赤渕メガネは……?」


真白:「恥ずかしくて必要ならどうぞ」


 そう一問一答形式で答えていく。観念したかのに真保はため息をつく。


真保:「タバコもどき、問題にならないの?」


真白:「シガレットチョコの箱を一緒にパシャるから大丈夫」


 そうウインク交じりに言うともう一度真保はため息。そして次は大きく息をすって吐く。


真保:「それじゃ、一本もらうね」


 シガレットチョコを手にして、真保が一言。


真保:「ちょっと溶けてる……」


 その抑揚のない低い言い方が妙に私の笑いのツボを的確に刺激した。真保を待っていたからね、と茶化しそうになるがその言葉も部活モードには不似合い。カメラを構えてその自分の笑顔を隠しながらピントを合わせる。ゆっくり、持ち場についていく真保の後ろ姿。


 その姿をとらえるために私はそっと息を吸う。


 漆黒色のポニーテールの髪が開けていた窓からの風に揺れている。夏用セーラー服の少女の視線の先は夕焼け。写真には写らない佐世保の街並みはいつもと変わらない。まだ街灯は灯らず時々大きいビルが散見され、海という名の出口が顔をのぞかせる。


 真保の眼が少し丸くなった。何を思ったのだろうか。夕日に瞳孔が動いただけではないのだろう……。一度数秒目を閉じて私の依頼していたシガレットチョコを口にしている。表情はいつも真保が見せている無機質さ。その中に今はどこか悲しげなエモーションが浮かび上がる。


 シガレットチョコと書かれた青い箱は右側に。文字が見える程度に被写体を邪魔しない程度に入れてみる。


 黄昏ている真保は得意の頬杖に似たポーズでシガレットチョコを口に含む。ゆっくりと窓にもたれかかる。


 どこか少女の不安さが夕陽に照らされて陰影が後ろに大きく映る。しかし少女は振り返りもせずただ海と太陽の方角を向いている。


 私はシャッターを押した。連射モードにしてその一瞬をどうにか記録する。そして意を消してとれた写真を覗いてみる。


真白:「うん、OK。よく撮れた!」


 そう真保を呼ぶがその真保はポーズをゆっくりといた。ゆっくり息を整えながら私の方に寄る。陽に当たっていたからか、彼女の頬は少し赤かった。


真保:「疲れたし、緊張した、コーヒーコーヒー、カフェインカフェイン」


 そうほのかに微笑交じりの声に私は「薬物じゃなくてカフェイン中毒の言い方なのよ、それ」としか答えるほかなかった。




◇ ◇ ◇


 数刻後、モデルの約束通りカフェテリアでコーヒー。ここのコーヒーはコーヒーオタクの先生がいるからか、苦みとその奥にある香りが強いコーヒーが飲めてて私は好きだが、真白はそんなに好きじゃないみたい。


真白:「はい、これが撮れた写真」


 そうスマホに送られた写真には真保がシガレットチョコと書かれた箱の奥で夕陽に黄昏ている様子だった。


真保:「なかなかきれいにとれてるね」


 その言葉に嘘偽りない。冗談やジョークを多用する真白と違って私は率直な感想しか述べれない。


真白:「えへへ、ありがとう」


 屈託のない笑顔。二年前ならここでハグ魔の真白はハグに立ち上がって抱き着いていた。しかし、3年生になったからか、ハグの兆候がまるで見えない。


真保:「題名ってある?」


 そう訊くと真白はこう含みのある笑顔で答えた。



真白:「大人になりたくない」



 その言葉に何かがつながった気がする。なんで真白が用意したのがシガレットチョコだったのか。なんで朝じゃなくて夜が来る夕陽なのか。なんで教室の入口から一番遠い窓際なのか。

 

真白:「もうすぐ私の写真部活動もひとまず引退があるからさ……、なら一年生の頃考えていた構図にしようかなって思ってね……」


 今まで真白は私を被写体にしてこなかった。それは今日という日のためなのか。そんな自分本位な考え方を捨てようにも捨てられない。


真保:「これ、プリントアウトしてくれる?」


 そう真白に訊いてみる。すると、真白はちょうどコーヒーを口にしていた直後だったのか目をしっかり閉じて渋い顔をしている。そんなに苦いならブラックコーヒーやめればいいのに、って言いそうになる。が彼女のプライドがそれを許さないのを私は知っている。


 真白は苦ーいって顔全体に映しながらも右手でOKマークを作った。


真保:「それとやっぱ、今日のコーヒーは割り勘。写真代だから」


 そう言うと「やったぜ」と真白はOKマークからグッドサインを作った。そう言葉を使わないコミュニケーションに私はいつしか笑顔になっていた。


 私はさっき写真に撮られるときに見た夕陽をカフェテリアから見てみる。そのまだ沈む気がない夕陽に私はどこか安心感、それと儚さを覚えた。そして彼女の顔を見る。そこには私の日常が笑って動いていた……。




◇ ◇ ◇


ep:撮れた夕陽はあなたのよう(ed)


作者コメ


 今回の作品を書くに至った経緯は『1.一年ぶりに新作出すかぁ……』『2.情景浮かび上がったからなぁ……』『3.過去作に手ごろな娘おるなぁ……』『4.書くかぁ……!』になりますね。真白みたいに衝動に任せて書くタイプなので。


ご愛読ありがとうございました!

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