第三章  甘じょっぱいは正義! これは真理です!

3-1

「うみゃぁあああぁあああっ!」


 おそらく『美味い』と『にゃあ』とか『みゃあ』が合わさった叫びを上げながら、イフリートが尻尾をぶんぶん振り回す。


 まるで人間の子供みたいに椅子にちょこんと座って尻尾をフリフリ、うみゃうみゃ言いながら、両手で持ったパンをごきげんで頬張る姿はもう悶絶するほど可愛いっ! ああぁっ! 最高っ! 最初の質問で『猫』って答えた私、マジグッジョブ! 


「クリームパン……本当に美味しいですね」


 アレンさんが感嘆のため息をつき、私を見る。


「クリームだけ食べたときは濃厚に感じたんですけど、こうして食べるととても優しい甘さで……。しかし軽すぎず、わりとしっかりお腹にたまるのもいいです」


 はじめてごちそうしたときからそうだったけど、アレンさんって料理の感想をしっかり目を見て伝えてくれるのよね。素直に嬉しいし、試作の場合はめちゃくちゃ参考になるからすごく助かる。いや、本当に良い人! 


「子供や女性からは言わずもがなですが、きっと男性からの人気も高いと思います」


「そうですか?」


「ええ、疲れたら誰しも甘いものが食べたくなるものだと思いますが、子供や女性と違って男性はそこでお菓子を手に取るのを躊躇うことが多いような気がします。しっかりとお腹にたまるものや、力や精がつくものが優先されることが多い。あるいは、もっと強い快楽を得られるアルコールなど。自由に使えるお金が少ない民ならば、なおさらです」


「なるほど。甘いものが食べたくても、お腹にたまらないものはどうしても優先順位が低くなってしまうと……」


「はい、片手で手軽に食べられて、ある程度食べ応えがある……これは理想的だと思います」


 おお……! アレンさんにそう言っていただけると、勇気が出る……!


「ありがとうございます! 参考になります!」


 そうだよね。そのとおりだと思う。子供と女性だけじゃない――老若男女問わず人気があるから、昔も今も変わらずクリームパンはパン屋の定番商品として君臨しているんだと思う。


「そう聞くと、やっぱりアンパンは諦められませんね! なんとか小豆を見つけないと!」


 グッと拳を握る私に、アレンさんとイフリートが同時に小首を傾げる。


「アンパン? アズキ?」


「なんだ? それ。うみゃいもんか?」


「私のパン屋にはどうしても置きたい……! 絶対に完成させたいパンなんです!」


「パンヤ?」


 イフリートがパチパチと目を瞬く。

 私はにっこり笑って、イフリートの口もとについているパンくずを取ってあげた。


「パンを売るお店だよ。私のパン屋を作りたいんだ」


「ティナが作るうみゃいもんがいっぱいあるってことか? それ、いいな!」


 イフリートが目をキラキラ輝かせる。ああ、もう、ぐぅかわっ!

 私はイフリートの頭を撫でながら、アレンさんに視線を戻した。


「並べる商品は、まず現在巷に溢れているパンに近くて抵抗が少なそうな、バゲット、バタール、ブール。従来のパンとは完全に一線を画す食パン、バターロール――これらは食事に合わせられるパンですね。それから総菜パン――食事として使えるパンとしてカレーパンを。ほかにもいろいろ考えています」


 サンドウィッチがまだ一般的じゃないから徐々に浸透させていきたいし、バゲットを使った各種タルティーヌ、アレンさんに出したクロックムッシュやピザトーストなんかもいいよね。


「そして菓子パン――お菓子のように甘いけれど、ある程度の食べ応えがあるパンですね。クリームパンとジャムパン」


「ジャムパン……ですか? それはもしかして……」


「ええ。クリームパンのクリームをジャムに変えたものだと思ってください。そして、どうしてもアンパンもラインナップに加えたい! あと、チョココルネも!」


「アンパンとチョココルネ……」

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