第36話 「アタマオカシイ」と評判のリスティアさん。

 ――残り時間2:41


「ホントにカンストしちゃったよ……」


 椅子に座ったままレベル999と表示されている『ステータス』を眺めても、いまいち実感が湧かなかった。

 まぁ、そりゃそうだ。オレはほとんどなにもしてないもんな。


「勇者さま〜カンストおめでと〜」

「おめでとうございます」


 リスティアと女教師さんがお祝いの言葉をかけてくるが、どう答えていいものやら。


「これで魔王も楽勝だね〜」


 今まであまり考えずに先延ばしにしてきたけど、オレには魔王を倒すという使命がある。

 『勇者シリーズ』という装備も整った。

 レベリングもこれで完了した。


 ほとんど他人任せで、オレ自身はなにもしていないが、それでも準備は終わったんだ。

 この後も細かいお使いクエストやらアイテム入手やらはあるんだろうけど、いよいよ魔王との戦いを意識しなければならない段階だ。

 まだまだ、覚悟は全然決まっていない。腹も括れていない。

 でも、やらなきゃいけないんだろうな――それが勇者の仕事だから。


 たしか、「魔王討伐の推奨レベルは500」と『攻略ガイド』に書いてあった。

 今のオレのレベルを持ってすればダブルスコア。

 数値だけ見れば楽勝なはずだ。


 リスティアが「楽勝」だと言う通り、今の俺のステータスはレベルや経験値だけでなく、すべてのパラメーターがカンストしている状態だ。

 これはあくまでも勇者のジョブ特性ゆえだ。他の職業ではこうはいかない。

 そのジョブに関連したパラメータであっても、レベルカンスト時にパラメータ自体はカンストしないのが一般的らしい。

 例えば、攻撃力が売りの戦士というジョブはレベルがマックスでも、攻撃力の値はカンストせずに850くらいまでしか上がらない。

 それに対し、勇者はちゃんとカンストして999まで上がる。

 防御力や素早さ、知性など他のパラメータについても同様である。

 いかに勇者がチート・ジョブなのか、これだけでも分かるだろう。


 このように、この世界にはパラメータをカンストさせている人間はいないわけだ――普通だったらね。

 その例外が「アタマオカシイ」と評判のリスティアさん。

 彼女は2ジョブ・カンストという力技で、いくつかのパラメータをカンストさせるに至った人類最強さんなのだ。


 そんな彼女をパラメータだけとはいえ、今のオレは上回ってしまったわけだ。

 戦闘経験ほぼゼロのこのオレが!


 ……………………本当に大丈夫なんだろうか?


「お疲れ様でした、勇者様、そしてなによりも、リスティア殿下」

「いや、お疲れってほどでも……」

「そだよー、ちっとも疲れてないよー」


 後片付けを終えた女教師さんが労いの言葉をかけてくるが、ほぼなにもしていないオレとしては返答に困る。

 リスティアも同感のようだ。むしろ、彼女は遊び感覚で楽しんでくらいだ。


「いえいえ、ご謙遜なさらずに。殿下のお力なしでは、今回のプロジェクト成功はありえませんでしたから」

「大したことしてないよー」

「ん?」


 楽しそうにホースで水撒きしてはっちゃけてただけにしか思えないのだが?


「勇者様はご存じないと思いますが、是非とも知っておいていただきたいのです。今回のプロジェクトの発案者は殿下なのです」

「そうなの?」

「えへへへ〜」


 リスティアはほっぺをポリポリと照れた様子だ。

 オレが楽して最強になれたのは、リスティアのおかげだったのか。


「それだけではございません。この『古代遺跡』の深層にある隠しエリアでメタスラの群生地を発見したのも殿下です」

「そなの?」

「たまたま見つかったんだよ〜。運が良かっただけだよ〜」

「いえいえ、文献上でしか存在を知られていなかったメタスラを探すために、殿下は世界中のダンジョンを飛び回り、その末に、ここを発見なさったのです」

「って言ってるけど?」

「ん〜、まあ、ちょっとは、いろんなトコ、行ったかな?」


 リスティアは軽くそう言うが、きっと女教師さんが言ってることが真実なのだろう。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『後から思えば、この瞬間がターニングポイントだったのだろう』


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