第20話 ドイツ語カッコいいもんな
語り終えたオレは、再度剣を高く掲げた。
場はシーンと静まり返っている。
だが、やがて――なにかを察した幾人かが拍手を始めた。
一度火がついてしまえば、後は早かった。
拍手の輪はどんどんと広がっていき、あっという間に群衆は大興奮状態に包まれた。
それを見て、オレは内心ホッと一息。
いえい、作戦成功だ。ぶい!
ここにいる誰もオレの演説内容を理解していない――オレも含めてだ。
だって、適当に喋っただけだもん。
えせドイツ語っぽい感じでカッコよく聞こえそうに口を動かしだだけだもん。
ドイツ語カッコいいもんな。
ムダに厳(いかめ)しいから、こういった演説にはもってこいだ。
かわいい「ちょうちょ」だって、英語では「Butterfly(バタフライ)」、フランス語では「Papillon(パピヨン)」、イタリア語では「Farfalla(ファルファッラ)」、スペイン語では「Mariposa(マリポッサ)」、なのにドイツ語だと「SCHMETTERLING(シュメッターリング)!!!」だもんね。絶対に必殺技の名前だよね。
ちなみに他にも――
蛾は「Nachtfalter(ナハトファルター)」だし。
みのむしは「Sackträger(ザックトレーガー)」だし。
ほたるは「Glhüwurm(グリューヴルム)」だし。
てんとう虫は「Marienkäfer(マリーエンケーファー)」だし。
「ドイツといえば中二、中二といえばドイツ」って感じだよね。
でも、音の響きだけで気に入って使っちゃうと、どっかの豚さんみたくなるから要注意だ。
まあ、つーわけで、もしオレ演説内容を理解している奴がいたら逆にビックリだよ。
再度繰り返すが、オレのアドバンテージは地球産だってこと。
コッチの人からみたら、オレこそが異世界人なわけで、だったら、オレが彼らには通じない言語で話しても、なにもおかしくはない。
――と何人かの騙されやすいアホ、もとい、察しのいい人たちは勘違いしてくれたわけだ。
そうなれば、後は簡単だ。
「えっ、みんなわかってんの?」
「もしかして、わかってないの自分だけ?」
「なんかわかんないけど、オレものっておくか」
という主体性のないバカ、もとい、空気を読んでくれるありがたい方々のおかげで、ご覧の有様というわけだ。
『裸の王様』みたいに「ねえ、あのオニーチャン、なんでわけのわかんないことしゃべってんの?」って言い出す素直なお子様がいなくて助かったよ。
今頃みんな、勇者様が居世界の言葉でありがたい演説をしてくれたと信じきって感動してるんだろうな……。
だけど、隣のイーヴァには、オレのハッタリはバレバレのようだったで、こっちをジト目で見ている。
リスティアはキラキラした瞳でこっちを見つめているけど、気づいてないんだろうか?
いや、しょーがないじゃん。
オレだって本当は中二感満載なカッケー演説とかキメてみたかったよ。
だけど、中二病全開な全盛期の現役時代ならともかく、とっくに引退すませて、時折自分の黒歴史を思い出して「うぎゃー」ってなるハタチ過ぎには、ちょっと恥ずかしすぎるでしょ。
…………ごめん、嘘ついた。
今でも現役だわ、オレ。
異世界で勇者やることになって心からワクワクしてるし、本気でカッケー演説キメたかったわ。
でも、いざ実際に、いきなり「さあどうぞ」って振られたら、頭真っ白になっちゃってさあ。
必死に捻り出そうとしてはみたけど、リスティアの演説はどんどん進んでいっちゃうし、焦れば焦るほどなにも浮かんでこないし、そうしているうちに、遂にやってきちゃったオレの出番!
咄嗟のハッタリでなんとか乗り切るしかなかったわけだ。
でも、これでよかった、とオレは思っている。
どうせオレのことだ。いくらカッケー内容を思いついたとしても、いざそれを離す段になったら、カミカミでグダグダになるに決まっている。
こんな大勢の人前で話した経験なんてないしな。
高校時代、クラスのみんなの前でプレゼンするだけでも緊張したくらいだ。
贅沢をいえば、「カッコいい内容をカッコよく話す」というのが理想の演説だろう。
でも、そんなんオレには到底不可能だ。そういうのは、本当の勇者にでも、任せておけ。
今回オレとしては、「カッコ良く話す」をクリア出来ただけでも十分に合格点だ。
「カッコいい内容をグダグダに話し」てしまう結果になるよりは、「中身のない話をカッコよく話す」方がよっぽどマシだ。
ということで、オレの初演説はバッチリ成功を収めたと言えるだろう。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『完全に酔っぱらいのセクハラオヤジだ』
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