第16話 王子殿下のご登場です




 あれから、エリーザ様は見事に推し活にはまった。


 お母様と巡り合わせた結果、エリーザ様の秘めていた愛が爆発した。といっても、あくまでも形にする方向限定で。


 創作意欲あふれるエリーザ様は、毎日二つは推しグッズを製作していた。


(毎日完成した物を持ってきて報告してくれる姿が。可愛らしくて可愛らしくて……)


 何が可愛いかと言えば「イヴェットさん。実は昨日も作ってみたの。不出来ではあるのだけど」と、さりげなく紹介する割には、少し恥ずかしそうにでも楽しそうにする様子が可愛い。


 最近はその姿を見るのが毎日の日課と言えるほど、エリーザ様の推し活は素晴らしい形へと成長していた。


(……今日も良いものを見れたわ)


 今日も先程のお昼休みで、無事に推し活の報告を受けた。時間は放課後となり、私はジョシュアを待つために馬車の方へと向かっていた。


(いつもそうなのだけど、私のクラスが終わるのが早くてジョシュアのクラスが遅いのよね)   


 担任の個性だろうか、と疑問をうっすらと考えながら歩いているとご令嬢方が集まっているのが見えた。


(…………これってもしかして!)


 勘が働く中、私は気配を殺しながらこっそりとご令嬢方の集まる場所へ混ざった。そして、背伸びをしながらご令嬢の壁の向こう側を見れば、そこには王子殿下のお姿があった。


(やっぱり!)


 彼こそエリーザ様の推し活相手であり、婚約者であるお方。我が国アルヴェンテ王国の第一王子である、セラフィス殿下。


(いやぁ……さすが王子。ビジュアルが神がかっているわ)


 乙女ゲームの頃から、王子という立ち位置なだけあって他のキャラクターよりも輝いている雰囲気はあった。


 ただ、実物を目にするとその表現は誇張などでは無いことがわかった。


 乙女ゲームで出てくるセラフィス殿下は、頭脳明晰であり、公務もきちんとこなす責任感のある方だった。

 

 第一王子であることから、公務で忙しくなるために学園に出現する率はキャラクターの中では断トツで低かった。


 そのため、セラフィス殿下が登校するとちょっとした騒ぎになるのである。

 

 性格の面では、相手の配慮は当たり前にできて細かな仕草まで品のある骨の髄まで王子感あふれるキャラクターである。


(……第一印象は、そのまんまって感じだわ)


 あふれる王子感。

 これは、遠目で見ても感じられるものだった。


「セラフィス殿下をお目にできるだなんて、今日は幸運だわ……!」

「えぇ、本日もとてもお麗しい」


 周囲の反応も予想通りな気がした。基本的にご令嬢方から嫌悪を向けられることはなく、学園全体でも憧れの存在。


(その証拠に、集まっている生徒の中に男子もいる)


 声こそ出さないものの、彼らもセラフィス殿下の登場に目を奪われていた。


 その場全体が王子殿下に染まる中、私は一人でこっそりと感想を抱いた。


(……でもやっぱりジョシュア様よ)


 どんなに神々しくとも、やはり最推しが一番輝くというもの。どこか反射的にジョシュアの良さを、内心で高速詠唱したい衝動に駆られた。


 ……もちろん我慢したが。


 気を取り直して、セラフィス殿下の後ろ姿を追った。


(……あの方がエリーザ様の想い人)


 公務が忙しいというのはわかるものの、どうかエリーザ様に目線を向けてほしいと友人ながらに思ってしまった。


(話を聞く限り、とても恋人らしい関係性には聞こえないのよね……)


 頑張るエリーザ様を見ているが故に、おもわずセラフィス殿下に念を送ってしまう。

 セラフィス殿下がゲーム通りに、悪役令嬢となったエリーザ様を遠ざける未来だけは来てほしくないと思った。


(……そのためにも、推し活にさらにハマってもらわないと)


 私が殿下と関わる未来はあまり見えない。間違いなく殿下よりも、エリーザ様との方が交流は増えるばかりだ。


 エリーザ様の目指す王子妃像がいまいちわからないものの、殿下を想っているのなら推し活して損はない。

 

(推し活をしている人を見ると、自分も負けないくらいやりたい感覚に襲われるのよね。……私もジョシュアへの推し活、頑張らないと!!)


 そう意気込んだ瞬間、背後から声をかけられた。


「姉様」

「わっ!」

「ごめん、驚かせた?」

「う、ううん。平気よ、気にしないで」


 さすがに、声をかけられる直前まで本人のことを考えていたなど言えない。

 ただ、明らかに動揺してしまった。


「……これは何の集まりなの?」

「セラフィス王子殿下が登校なさったみたいなの」

「…………そっか」

(……ふむ。あまり殿下には興味ないみたい)


 ちらりとご令嬢の方を見るだけで、それ以上は特に言及しなかった。かと思えば、視点は私へと移った。


「姉様は……王子殿下に興味があるんだね」

「もちろんよ」

 

 当たり前だと言わんばかりの回答には、何故かジョシュアが固まってしまった。


「…………セラフィス殿下には婚約者がいたと思うけど」

「当然知っているわ。それがエリーザ様ですもの」

「それは……友人の婚約者だから気にしてる、ということ?」

「それ以外何かあるの?」

「……ううん、ない」


 本音を言えば攻略対象者だから、という理由もあるのだが、これは私にしかわからないものだ。


「ごめん、てっきり、殿下に惹かれたのかと思って。……ほら、王子殿下は眉目秀麗と聞くから」

「確かに神々しかったし、とてもカッコいい見た目をしてらしたわ」

「……そっか」


 それは、ご令嬢方が歓声をあげたくなる理由がわかるほどだった。


「でも私からすれば、ジョシュアの方が何倍もカッコ良くて輝いていると思うわ」

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