第11話 勇気を出した相談(ジョシュア視点)



 一週間以上、お知らせもなしに更新を止めてしまいましたこと、深くお詫び申し上げます。本日より更新を再開させていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

▽▼▽▼



 母様が部屋に訪ねて来るのは珍しいことではなかった。時にはエリシャと共に来て、そのまま僕が遊び相手になったり、単純に母様が心配して顔を見せることもあった。


「どうかされましたか? もしかしてエリシャですか」


 そう尋ねながら、ソファーの方へと向かう。


 個人的には悩み事が多いものの、姉様同様、心配をかけたくなかったこともあり、屋敷の中では普段と変わらない様子を見せていた。


「エリちゃんは今イヴちゃんと遊んでるわ」

「そうでしたか」


 姉様の存在に、無意識に反応してしまう。それが少し恥ずかしくなってしまった。


「エリちゃんじゃなくてね、今日はシュアちゃんとお話ししようと思って。学園生活のお話しとか、聞かせてくれる?」

「学園生活、ですか」

 

 いつもと変わらない微笑みを浮かべながら尋ねてくれるが、内心は穏やかではない気がした。


(……心配、させてるんだろうな)


 困ったことに可もなく不可もない学園生活なのだ。迷惑を被っていることに関しては知られたくない。


(……ひとまずは自分の力でどうにか対処しないと)


 その意思が固まっていたので、母様には無難な学園生活の様子を話した。


「そうなのね」

「……はい」


 自分的には話し終えた上に、そういう雰囲気も出したので母様も席を立つかと思った。しかし、ソファーに深く座り込んだ母様は動く気配がない。


「…………」

「…………シュアちゃん」

「はい」


 沈黙の末に、母様はそっと名前を呼んだ。


「自分で言うのも何だけど、私は母としてシュアちゃんのことよく知っていると思うの」

「は、はい」

「だから言うのだけど……シュアちゃん、辛いことがあったのよね」

「!」


 何を思ってそう見抜かれたかはわからないが、今複雑に抱える問題の根本への感情はまさに“辛い”だった。

 

「シュアちゃんはよく頑張ってるわ。だからその、自分を責めすぎないでね。シュアちゃんは私の自慢の息子ですもの」

「母様……」 


 辛いと見抜いても詳細は尋ねず、ただそっと寄り添ってくれる。優しくありがたい配慮が、そっと胸に染み込んだ。


「それと、吐き出したかったらいつでも聞くわ。だから気楽に呼び止めてね」

「……ありがとうございます」


 母様の穏やかな雰囲気が、僕の意固地になっていた矜持を緩めていった。


(……そう言えば、母様も恋に悩んだ人だった)

 

 目の前で幸せそうに微笑む母様にも、今の自分と似たような状況があったことを思い出す。僕は詳しくは知らないけど、母様はその苦悩を無事に解決した人だった。 


(聞くなら……相談をするなら、母様しかいない)


 そう判断すると、母様が席を立つより先にどこか弱気な声をあげた。


「か、母様」

「えぇ」

「……その。相談をさせてほしくて」

「!! もちろんよ! 任せてちょうだい!」


 嬉しそうに引き受けてもらえると、どこか心の深くまで安堵している自分がいた。


「実は、その……」

「うん」

「…………………………」


 聞いてもらおう。そう思ったのだが、相談内容が恋愛だと意識すると、上手く言葉がでなかった。

 

 ただ、それでも母様は何も言わずにじっと待ってくれた。


「……どうしたらいいのか、わからなくて」

「わからないのね」

「はい……………………か、母様っ」

「うん、シュアちゃん」


 沈黙を悪いこととせず、自分のペースで話させてくれる配慮が凄く温かかった。そのおかげで、どうにか意を決することができた。


「ど、どうしたら、片想いの方を振り向かせられますか……!?」

「!!」


 何か含むのではなく、遠回しに言うのではなく、ただ純粋に放った。


 恋愛だなんて、そんな気配一度も見せてこなかったから母様はさぞ驚かれるだろう、という予測から新たな沈黙が生まれることは間違いなかった。


「シュアちゃん……」 

「?」


 改めて名前だけを呼ばれると疑問符が浮かんだが、母様はどこか意思の強い笑みになった。


「それがシュアちゃんの相談ね?」

「は、はい」

「わかったわ、任せてちょうだい。……必ず、力になるから」


 心強い声色には、明るい未来へと導いてくれる、そんな安心感が乗っている気がした。


「あ……ありがとうございます、母様」

「ふふっ」


 不意打ちのように力強い言葉は、涙を誘ったが全力で堪えた。


「それでシュアちゃん。話したいところだけで構わないわ。もう少し詳しく教えてくれる?」


 こくりと頷くと、ポツリポツリと話始めた。


「想いを……直接伝えるのには、まだ自信がなくて。まだ相手に意識すらされてないから……」

「……」

「どう伝えても、届く未来が描けなくて。…………自分に自信もなくて」


 イヴェットという姉の中では、僕は永遠に弟という位置づけで終わってしまう気がしてならない。それがどんなに苦しくて、切なくて、もどかしいことか。言葉に出す今でさえ、胸が痛くなっていた。

 

(でも……母様相手に、さすがに恋愛対象が姉様だなんて言えない)


 何かが壊れるのが怖くて、話そうという思いは深くに沈み込んでしまった。


「シュアちゃんはお相手の子に何かしてみたの?」

「個人的には、したつもりなんだけど……何も伝わっていなくて」


 まるで相手にされていない。反応からはそう感じていた。


「…………似てる」

「え?」


 母様は、僕の話を一通り聞き終わると、そう一言呟いた。


「私とそっくりだわ」

「そっくりって、何が……」

「……状況が、かしら。だとしたらどうするべきかしらね」


 母様が頭を少し悩ませ始めたかと思えば、突然「はっ!!」と目を見開いてこちらを見つめた。


「それなら私と同じ方法で行けばいいのよ!」

「え?」


 ばっとこちらに身を乗り出した母様は、目を輝かせながら笑った。


「押して駄目なら推してみましょう、シュアちゃん!!」

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