エピローグ エンドのその先へ



 フォルノンテ公爵家主催のパーティーから一ヶ月が経った。


 ステュアートお兄様の予想通り、キャロライン様は社交界では腫れ物扱いをされるようになってしまった。


 国内の中でも二つの家から見限られたことに加えて、夫であるデリーナ伯爵からは離婚が言い渡された。


 キャロライン様は離婚を拒否したようだが、デリーナ伯爵はそれを受け入れることはしなかった。キャロライン様とあのドレス店の繋がりに関して、伯爵は証拠をかき集めてキャロライン様に突きつけたのだという。

 

 結果、離婚に応じる他なくなったキャロライン様は、今はご実家に帰られたのだとか。


 侯爵家とはいえど末端となるご実家では、肩身の狭い思いをしているという噂が流れてきた。

 

 実家に戻った最初は、汚名返上のために各所のパーティーに参加しようとしていたようだ。地方のまだ噂が広がっていないパーティーに参加できたはいいものの、嘘を盛り込んで自身を被害者にしようとした結果、嘘が簡単にバレて、白い目で見られるようになったようだ。


 結局、キャロライン様は地方でさえパーティーに呼ばれなくなり、事実上社交界から追放される形となり、この一件は本当に幕を閉じたのだった。






 ルイス侯爵では、朝は両親が仲良く二人で散歩をすることが日課となっていた。

 

 さらに朗報か、離れていた寝室は同室へと変更したのだった。だが、あくまでと同室となったのは寝室のみで、お母様の自室は現在も推し色で染まり続けている。


 結ばれた今でも、お母様は推し活をし続けている。


「推し活を卒業? そんなこと絶対にしないわ。だって、この一つ一つが私の生き甲斐なんだもの。これからもイヴちゃんと二人、楽しく推し活し続けるわ!!」


 と言われたので、最近もお互いの部屋を行き来しながら推し活をし続けている。二人揃って、笑顔を浮かべながら毎日手を動かしていた。


 お母様の部屋といえば、相変わらず紫で染まる部屋だが、ちょうどよかったぬいぐるみやハンカチ等のグッズ類は、段々と数が増えていった。


(お母様の製作速度が、あまりにも早すぎるのよね)


 その結果、作りすぎたグッズは推し本人に届けられる形となり、お父様の自室も段々と可愛らしいものへと変化しているのだった。


「オフィーリアからもらえるものなら、なんだって」


 以前、大量の浪費に兼ねて贈り物をしていた頃とは打って変わって、お父様は嬉しそうに狼のぬいぐるみを抱き締めていた。


 それを見てお母様が悶えていたのは、私だけが知っている。その様子から、お母様のお父様に対する推しという認識は消えていないようだった。


 こうしてルイス侯爵家には平穏が流れるのだった。


「イヴちゃん。私、そろそろ巨大なぬいぐるみ作りに挑戦してみようと思うの」

「巨大な……といいますと、どれくらいでしょうか?」

「そうね……ユーグリット様くらいかしら?」

「さすがに大きすぎると思うのですが」

「で、でも。本人と同じ大きさなら、寂しくなった時ユーグリット様を感じられるから……」

「あぁ……」

(そう言えば最近、お父様はお忙しいんだっけ)


 寝室を同じにした結果想像以上に適応が早く、今では傍にいないと寂しく感じるほどにまで二人の距離は成長していた。


「そうすれば、寂しくないかなって」

「お母様の気持ちはわかるんですが……」

(作ったらお父様が嫉妬するんじゃないかな? ……でもいいのか、それで)


 お父様が少し不憫かなとも思ったのだが、悪い方向には転ばなさそうと思ったので、作ることに決めた。


「わかりました、作ってみましょう。少し時間はかかると思いますが」

「えぇ! これで寂しくならないわ!!」

(逆効果な気もするけど、それは黙っておこう)


 ということで、私はお母様の大きな狼のぬいぐるみ作りを手伝うことにしたのだった。


 楽しそうに手を動かすお母様は、目をきらきらと輝かせながら没頭していた。その姿を見て、改めて心の底から安堵する自分がいた。


(……お母様はもう、闇になんて落ちないわね)


 推し活を勧めたことから始まった、この不思議な恋の物語は、無事幸せな結果を生み出すことになった。


(……誰一人欠けてない。お母様も、お父様も、ジョシュアもいる)


 当たり前のようで、当たり前ではなかった日々。


 とても心中するつもりだったとは思えないほど、幸せに包まれたルイス侯爵家。


(どうか……この日々が続きますように)


 そんな思いを込めながら、私は狼のぬいぐるみを作り続けるのだった。



▽▼▽▼


 「押して駄目なら推してみろ!~闇落ちバッドエンドを回避せよ~」をここまでお読みくださり、誠にありがとうございます。


 このエピローグをもちまして、第一部を完結とさせていただきます。


 《第一部》ということで、実は《第二部》を投稿予定です!!

 ここで終わりにすることも考えたのですが「本作の主人公はあくまでもイヴェット。そのイヴェットの恋愛が書けてない!!」ということになりまして、第二部を書くことに勝手ながら決意いたしました!


 もしよろしければ、イヴェットの恋愛編となる第二部も、新たな推し活と共にお付き合いいただけますと幸いです!


 そして、お休みに関するおしらせです。


 第一部完結のキリの良さと、第二部投稿の準備に関する面から、11/3~11/5の三連休、誠に勝手ながら本作は更新をお休みさせていただこうと思います。


 第二部は週明けの月曜日11/6から投稿開始とさせていただきますので、何卒よろしくお願いいたします。

 

 また、感想をお送りいただいた皆様。三連休の間に、必ずや返信を遅れながらにお送りさせていただければと思っております。お待たせしてしまい大変申し訳ございません。


 第一部の最後になりますが、お母様の闇落ちを防ぐ第一部を完結まで見届けていただいた読者の皆様に、心より深く御礼申し上げます。


 本当にありがとうございました!!


                 咲宮


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