第53話 終止符を打って(オフィーリア視点)



 キャロラインにとってはきっと、他人の評価が命。それならば、その生命線を崩すことこそが報復になると思った。 


「反論は、あるに決まって」

「そう? でもごめんないね。貴女の言い訳がましい反論はもうこれ以上聞く気になれないの。なぜなら、キャロラインの反論は証拠がなく筋が通ってないでしょう?」

「!!」


 言いがかりだとはねのけるなら、私にだって同じことをする権利はある。


「それに聞く意味はないわ。先程述べた通り、縁を切った仲ですもの。修復作業は不要よ」

「オフィーリア!」


 元々ここまで話すつもりもなかった。ただ、仕掛けられた以上無視することもできなかった。

 キャロラインの叫びに近い声に反応したのは、私ではなくユーグリット様だった。


「デリーナ伯爵夫人、およびデリーナ伯爵」

「!」


 デリーナ伯爵は、びくりと体を動かした。


「妻オフィーリアの意向により、我がルイス侯爵家からの交流も控えさせていただこう。元より無いに等しいが、これ以上交わることはないとだけ言わせてもらおう」

「こ、侯爵……!」

「デリーナ伯爵。貴方に関しては同情する。ご自身でもわかっていると思うが、今後の対応次第で伯爵への評価も変わることだろう」

「……お気遣いありがとうございます」


 ユーグリット様の言葉を、デリーナ伯爵はすぐに理解した。小さく会釈をする隣で、キャロラインは依然として怒りの表情を浮かべていた。


「オフィーリアはそうやって身分の低い者を貶めるのね」


 どうにか私の悪い部分がないか探して突いたキャロライン。しかし、当然ながらそれは彼女の歪んだ物差しだった。


「何を言っているの、デリーナ伯爵夫人。オフィーリアはむしろ身分など気にしたことはないでしょう。自身が初めて主催を務めたお茶会にだって、男爵夫人や子爵夫人だって招待したのですから。オフィーリアほど、身分に無頓着な者はいないわ。……まさか十年来の親友がそんなこともわからないなんてね」

「!!」


 お義姉様から擁護が飛ぶと、キャロラインはあり得ないという表情へと変わる。そしてそのまま、隣に立つお兄様がキャロラインに言い放った。


「デリーナ伯爵夫人。私達フォルノンテ公爵家としても、ルイス侯爵と同様の対応を取らせてもらおう」

「そ、そんな!! 何故ですか!!」

「オフィーリアの意思を尊重するだけだ。妹という繋がり無しで贔屓目で見ずとも、どちらに軍配が上がるか、私にとっては明らかなのでな」

「お考え直し下さい、公爵様!!」


 悲痛なキャロラインの声が響く中、お兄様は次に伯爵へ目線を移した。


「デリーナ伯爵。私もユーグリットと考えは同じだ。それで構わないだろうか」

「はい。全て受け入れる所存です」

「あなた! 何を言っているの……!!」


 本来であればキャロラインの味方になるであろうデリーナ伯爵でさえ、彼女を見放した。

 この事実が、紛れもなくキャロラインの正当な評価に繋がることだろう。


「どうかお考え直しください、フォルノンテ公爵様……!! 今はもうルイス侯爵家に嫁いだオフィーリアは関係ないではありませんか!!」

「何を勘違いしているんだ。贔屓目なしでも、といったはずだ。常識的に考えて、客観的に夫人を見た結果、そう判断を下したに過ぎない」


 追い詰められたキャロラインは、ひたすら救われようと抗い始めた。


「お考え直しください公爵様!! シルビア様っ!!」

「やめろ、キャロライン!」

 

 遂には二人に近付き、懇願し始めた。それをデリーナ伯爵は必死に押える。


「離して! お願いしますフォルノンテ公爵様!! シルビア様!!」

「私達はこれで失礼します……醜態をさらして申し訳ありません」


 キャロラインがそう叫ぶなか、デリーナ伯爵は苦しそうな顔で主催にそう告げた。そして、キャロラインを羽交い締めで拘束したまま、引きずって出口へ向かった。


 途中、お兄様の指示でキャロラインの退出にフォルノンテ公爵の使用人も手伝う結果となった。


「離して! 離しなさい!!」


 終始キャロラインはそう叫び続けていた。扉が閉まるのを確認すると、私は会場内に向けてできる限り大きな声で発した。


「本日パーティーにお越しの皆様、貴重なお時間を奪ってしまい大変申し訳ございません。ご不快になられた方もおられたかと思います。お目汚しをするようなことをしてしまったこと、深くお詫び申し上げます」


 ユーグリット様と共に深く深くお辞儀をすると、優しく肩に手が置かれた。顔を上げれば、そこにはお兄様が微笑んでいた。


「皆様。夜はまだ長いです、どうか残りの時間もお楽しみ下さい。……もちろん、オフィーリアとユーグリットも」

「お兄様」

「お気遣い、感謝いたします」


 主催である兄により、こうして場は一時的に締め括られた。


 そして、パーティーとして在るべき姿へと戻っていくのであった。


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