第49話 華麗なる立ち回り(キャロライン視点)



 私が長年オフィーリアと友人であること。


 この揺るぎない事実を軸に噂の火消しを続けていった。


「オフィーリアの相談に乗っていたのだけど……私の助言では上手く行かなかったみたいで」

「紹介した私に落ち度があるの。だけどまさかあのドレス店で悪事が行われてるだなんて思わなくて」

「オフィーリアの不興を買ったのは確かなことよ」


 自分の非を認めがらも、絶妙な具合で悪者にならないよう立ち回っていく。


「……キャロライン様のお話は筋が通ると思わない? 実際にオフィーリア様とルイス侯爵が共にしている姿は滅多に見ないもの」

「確かに。社交界に滅多に顔を出さないのは、不仲が理由なんじゃ……」


 多くを語らなくとも、噂が大好きな彼女達は適当に話を広げて憶測を振り撒いてくれる。おかげさまで私への同情が必要以上に集まるのだった。


「キャロライン様、言われているほど悪くはないわよね……」

「えぇ。噂が肥大化しすぎたんじゃ」


 各所で哀れみの眼差しを向けられ始めたところで、私が普段からお茶会にお呼びしていたご夫人方の元へと足を運んだ。


「……そうなんですね」

「お話、お聞かせくださってありがとうございます」


 彼女達はオフィーリアのお茶会に呼ばれただけあって、かなり手強い。


 それでも立ち去った後に耳を傾ければ、「だからオフィーリア様から夫婦に関するお話はなかったのかしら」と心の声を漏らす様子が聞こえた。


(ふふっ。反論する者がいない火消しは楽だわ)


 一通り夫人方に話をして回ると、そろそろ夜会も後半戦に差し掛かるような時刻だった。


 一度夫と合流し、状況を報告した


「……そうか」


 ただ一言それだけ。

 感謝を言われることはないと思っていたが、労いの一言も無いことに苛立ちを覚えたその時、背後から名前を呼ばれた。


「デリーナ伯爵夫人」

「……! フォルノンテ公爵夫人!! フォルノンテ公爵様!」


 まさかシルビア様に、挨拶以外で名前を呼ばれるだなんて。こんな光栄なことはない。


 そう興奮しながら夫と共に頭を下げれば、シルビア様はにこりと微笑んでくださった。


「夜会は楽しまれてらっしゃるかしら」

「は、はい……!」

「今回初めて招待させていただいたでしょう? よろしければ少しお話をと思って」

「も、もちろんです……!!」


 舞い上がる気持ちを抑えようとしながら、夫人の申し出に喜んで答えた。いくつか世間話のような雑談をしていただいた。


 その光景はやはり目立つものなのか、ご夫人方を中心とした視線を私達が集めていた。


 シルビア様は終始穏やかで、公爵も物腰柔らかな雰囲気のもと話をしてくださった。夫からはただならぬ緊張を感じながら、もう少し堂々として欲しいと思うのだった。


「……デリーナ伯爵夫人。これは私も先程聞いた話なのだけど」

「は、はい」

「私の義妹でもあるオフィーリアと……すれ違いがあったと」

「!」

(シルビア様からその話を振ってくださるなんて……!!)


 初対面に等しい格上の相手には、さすがに噂の火消しはできないと思っていた。しかし、先程撒いておいた種のおかげて、主催にも話が届くという結果を手に入れた。


 そして何より嬉しいのは、この会場中の多くの人が注目するなか弁明させて貰えることだった。


 私はあくまでも暗い表情をしながら、他のご夫人方にしたような説明をしていった。


「……なるほど。デリーナ伯爵夫人としては良かれと思ってしたことだったのね」

「はい……私はオフィーリアをただ助けたくて」

「……デリーナ伯爵夫人の主張だと、ルイス侯爵夫妻は上手く行っていないことが前提のお話になるわよね」


 それは義妹夫妻の夫婦仲を心配し始めた様子に見えた。


「オフィーリア……ルイス侯爵夫人はずっと努力を重ねておられました」


 今度は自分が夫人に寄り添うように、オフィーリアの実情を語ろうとしたその時だった。


「あら、知っているわよ?」

「え?」

「オフィーリアが絶え間ない努力をしていたことは、貴女よりよく知っているわ。……私は貴女の言う夫婦仲が不仲という話に疑問を抱いただけよ」


 シルビア様は突然、まとう空気を一変させた。心なしか先程までより声も響いている気がする。


(な、何? 私、シルビア様の不興を買ってしまったかしら……)


 豹変とも取れるシルビア様の変わりように驚いていると、今度はフォルノンテ公爵から冷たい眼差しを感じ取った。


 目線を恐る恐るそちらに向ければ、しっかりと目があってしまう。


「デリーナ伯爵夫人の言い分が正か否か、全員自分の目で確かめて欲しい」


 公爵はそう一言突き刺すと、会場の入り口に視線を向けた。


 その瞬間、ガチャリと扉が開いた。


「「「!!」」」


 会場内の招待客が全員目の前の光景に目を疑った。


「…………え」


 それは私も同じだった。


 何故ならそれはあり得ないことだから。


 オフィーリアがユーグリット様とパーティーに参加するだなんて、そんなこと。

 その上仲睦まじい様子だなんて。


 絶対にあり得ない。

 いや、絶対にあってはならないことなのだから。




▽▼▽▼


 約一週間ほど更新を止めてしまい、大変申し訳ございません。


 本日より更新再開とさせていただきます。お待ちくださった皆様に、心より感謝申し上げます。


 まだ本調子ではないので、完全な毎日更新はできないかもしれませんが、更新を休む場合は必ずご連絡させていただきますので、何卒よろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る