仲間が増えたね
ハイキングとピクニックの違いは何なのかというと、答えは簡単。歩くのがメインならハイキング。お弁当を食べるのがメインならピクニックだ。
今回はピクニックという事で、
「軽い運動で終わりそうだな。徹夜明けにはもってこいだ」
「はい。明日からまた学校ですもんね」
と、山登りが得意なノボルと、体力が無尽蔵のソーハが言えば、
「あーしはいつもこのくらいのコースで充分かなー。運動は苦手だしー」
「オレに至っては、大自然を歩くのなんか20年ぶりだからな」
などと、キャンプは好きでも歩くのは嫌いなキタローと、そもそも20年も生きてなさそうな見た目のつじげん先生が続く。
「先生って、山とか森とか嫌いですか?」
「んー……嫌いってわけじゃねえけど、他にいろいろ忙しいんだよ。学校の先生なんかやってるだけでも時間が無いし、昨日まではバンド活動とかやってたからな。根っからのシティ派ってわけだ」
つじげんは、少しだけ寂しそうに空を見上げた。
木漏れ日は誇張抜きにキラキラと輝き、光のすじを何本も降らせる。その向こうを鳥が飛んでいくのが見えた。
前に目を向ければ、綺麗に整備された砂利道と、その先にある芝生が見える。そこは木々に遮られることなく、どこまでも明るく照らし出されていた。
「まあ、昨日でバンドも辞めちまったから、これからは時間もクソたっぷりあるか」
そっと溜息をつく彼の背中を、ノボルが軽く叩いた。
「そうだな。悪い事ばかり考えても仕方ないし、前向きに考えられるならよかったんじゃないか?」
「おお、ノボル。お前言うようになったな。……先生扱いしなくていいとは言ったけど、オレの方が年上ってことに変わりはないからな」
「そりゃすまんな。俺は年功序列を採用しない主義でね」
やや睨み合いながら歩いていた二人は、どちらからともなく笑みを隠しきれなくなる。
「なんかいいな。同年代の友達が増えた気分だ」
「そうかい。俺も弟が出来たみたいで嬉しいよ」
「オレが年上だって!」
「はははっ」
つじげん先生は、あっという間に誰とでも仲良くなれるタイプだ。遠慮のなさと、子供のような見た目がそうさせるのだろう。悪意を感じないところも重要かもしれない。
狙って出来ることではないので、才能と呼ぶしかない。
そんな才能に恵まれているので、昨日初めて会ったノボルとは一晩で仲良くなっているし……
「キタローも初めて会う気がしねえな。どっかで会ったか?」
「あははー。いやー、気のせいじゃないかなー。あーし知らなーい」
初対面と思しきキタローとも仲良くなるのが早い。もっとも、キタローからすれば毎日のように学校で会っている仲だが。
「それにしてもキタロー。なんで今日はメイド服チョイスなんだ?」
「あー……前から着たかったコスなのよ。そろそろSNSにも新しい写真とか上げたいしー」
「そーなのかー。それにしても、お前ほんとに男か? 女にしか見えないな」
「ノボルにも言われたわー。あーしとしては嬉しいから、女ってことでもいーよー」
その方が正体もバレないだろう。
「あ。そうそう。性別の話だったら、あーし面白いネタ持ってんだよねー」
「お? なんだ?」
草原の真ん中で、キタローは立ち止まった。そして口元を隠すように手を当てると、つじげん先生にだけ口元を見せる。つまり『耳を貸して』という意味だろう。
「おお、内緒話か?」
「そ。特にノボルとソーハちゃんには内緒」
こっそり二人を先に行かせてから、つじげん先生に耳打ちする。身長差で言えばキタローの方が高いので、少しだけかがむ姿勢になる。
「じつはさ。ノボルはソーハちゃんを女の子だと思っててー、ソーハちゃんは自分が勘違いされてる自覚が無いのー」
「え? んなことある!?」
「あるあるー。これがマジなんだって。で、あーしの予想だけど、ノボルはソーハちゃんのこと好きっぽいんだよねー」
「マジかよクレイジーだな」
「うん。なんか思い出したら笑えてくるわ。あーしも……くっぷ。ふふっ」
「確かにそりゃ笑うよな」
「でしょでしょー。あっははっはははっ。のぼ、ノボルが、ソーハちゃんを、おん、おんなっはははははははははは」
「お、おい。キタロー?」
「ぴゃーwww」
まるで見えない何かにくすぐられたように、キタローが身もだえながら走り出す。バタバタと身体を左右に振りながら歩くものだから、大きな胸がぶるんぶるん揺れた。もげそう……
いや、もげた。本人から生えているおっぱいではないので、そりゃ激しく動けば取れるものである。そのままホックの外れたブラジャーごと、ブラウスの胸元を通過して吹き飛んでいく。
「あーっはははははははっはっはっはっ」
「……いや、オレに言わせればキタローの方が面白えわ」
さすがにドン引きしたつじげんは、その童顔をひきつらせることしか出来なかった。
「あ、もちろんソーハちゃんの性別とか、ノボルには内緒だからね」
「分かってるよ」
なんにしても、こうしてキタローは秘密を共有できる友人を得たのである。
そしてノボルは騙され続けることになるわけだが、それはそもそも自己責任。
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