第32話 アンデッドパンデミック事件簿! ~エルフの国を救ったぜ!~

 報告のあった場所に向かってみると、予想以上に大量のアンデッドがひしめいていた。

 様々な種族の混成軍ではあるが、見た感じゾンビ系の数がかなり多い。

 さながらゾンビパンデミック映画のような光景だ。


「これ、エルフたちに勝ち目なくね?」


「ですね。数が異常に多いですし、一体一体が最低でもCランク以上……Aランク以上の魔物もかなり混じっています。脅威度Sランク上位は間違いないでしょうね」


「とりあえず倒すか!」


 俺はパンチの衝撃波でアンデッドたちを消し飛ばす。

 おー、結構減るもんだな!


「しれっとバケモンみたいな攻撃してますね……」


「そういうシロナもすんげぇ器用なことしてるけどな」


 炎の魔弾を圧縮して威力を高めつつ、攻撃範囲を絞ることで森へ引火するのを避けて敵にだけ攻撃する。

 そう簡単にできることじゃなさそうだ。


「我は暗黒三将軍が一人、“冥拳めいけん”チーズ! 我が邪拳の前に沈むがいい!」


「チーズうめぇよな!」


「ドギャースッ!?」


 知性のある幹部っぽいのが出てきたので瞬殺しておいた。

 三将軍だからあと二人いるのかな?


「ほう、チーズを倒したか。だが、やつは暗黒三将軍の中でも最弱」


「所詮は面汚しよ」


「でもチーズうめぇじゃん!」


「「ドギャァァァスッ!?」」


「チーズ推しがすごい」


 他の幹部も瞬殺すると、ついにボスっぽいのが登場した。


「強いな、貴様」


 豪華な黒衣に身を包んだ長身の男だ。

 外見は人間と変わらないが、強力な気配を放っている。



────────


名前:レグルス・フォン・ステューシア

種族:邪悪なる不死者之王アンデッドロード

ランク:SS

称号:【魔公爵】


────────



 SSランクか。

 人類じゃ勝ち目無いやつが出やがったな。


 自我が強そうだから何者か聞いてみよう!


「私はレグルス・ステューシア。かつてエルフの国を支配下に置こうとして、あと一歩のところで夢叶わず死んだ男だ」


「今度こそエルフの国を支配するために蘇ったってわけですか」


「その通り。我が夢を阻むというなら、貴様ら二人とも私の下僕にして馬車馬のようにこき使ってやろう」


 レグルスは俺に手をかざす。


「普通の魔法じゃ俺は倒せないぜ」


「だろうな。貴様の強さは規格外だ。だから切り札を使わせてもらおう」


 黒い光が俺を包む。

 直後、死にたくなるほどの絶望が俺を襲った。


「ぐあああああああああ……ッ!?」


「なぎさ!?」


 なんだ……。

 何をされた……!?


「──ネガティブ魔法。私のとっておきの精神攻撃だ。さあ、苦しめ!」


「……昨日な、牛丼食べようと思ってたのにそれを忘れてカツ丼作っちまったんだ。死にてぇ……」


「ん……?」


「【アイテムボックス】で永久保存できるんだから今日牛丼作ればよくないですか?」


「そうじゃん! 落ち込む必要ねぇじゃねぇかバーカ!」


 俺は怒りのパンチを放つ!

 衝撃波がレグルスの魔法攻撃を打ち消して直撃した。


 オラァ! ワンヒット!

 ちったぁ効いただろ!


 砂埃が晴れる。

 中から出てきたレグルスは、表情一つ変えずに仁王立ちしていた。


 全く効いていないだと!?

 予想以上に強キャラなのか!?


「不動明王みてぇなやつめ! だったら俺は多動明王だ!」


「威厳なさそう」


「フハハハハハハ! 驚いたか? やせ我慢しているだけだ!」


「絶妙にカッコ悪いよ、お前」


「ドヤ顔で言うセリフじゃないだろ」


 ネガティブ魔法は強力だが、やりようはあることがわかった。

 次は仕留めきってやる!


「ネガティブ魔法──最大出力!」


 気づいた時には、俺は膝から崩れ落ちていた。


 苦しくて苦しくて、心臓が潰れそうになるほど強く絞めつけられる。

 今すぐにでも死にてぇ……!


「さあ、もっと苦しめ!」


「俺はなんて罪深いんだ……! 冥王牛グラガンナとか魔王とか水竜王とか、あからさまな強キャラを即オチ二コマさせちゃってごめん……」


「やっぱりなんか思ってるのと違う感じになるな、私のネガティブ魔法……。なんで?」


「知るか」


 俺の罪はまだまだこんなもんじゃねぇ!

 謝らねぇと……。

 謝らねぇと……!


「ギャングボスがカッコいい雰囲気出してたのに、全裸にして公然わいせつ罪で逮捕してごめん……。俺のせいで公然わいせつ罪で逮捕された露出狂のギャングボスとして歴史に名を刻むことになっちまったよ……。ごめんな……」


「えぐいことしてない……? ギャングボス可哀そう」


 くっ……!

 ネガティブ魔法が強すぎる……!


「最大出力のネガティブ魔法であれば、いかに貴様といえども反撃できまい。苦しんでいる隙に私の魔法攻撃で殺しきってやる!」


 俺は胸を押さえながらレグルスを睨む。

 なすすべがないかと思われた時、シロナが疑問を呈した。


「別にネガティブでも敵は倒せるくないですか?」


「そうじゃん! 俺のほうが強くてごめぇぇぇぇぇぇんっ!!!」


 俺は本気で謝りながらパンチを放つ。

 衝撃波が魔法をかき消し、レグルスを木っ端みじんにした。


「ドギャァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアスッ!?」


「勝っちゃってごめん」


「煽るな」




 アンデッド大量発生の元凶であるレグルスを倒した俺たちはエルフの国に戻る。

 門の近くにはエルフの戦士たちが集結していた。


 観光案内をしてくれたリーンがリーダーのようで、忙しそうにあれこれ指示を出していた。

 おっ、ちょうどいいところに。


「なぎさにシロナ!? なんで森のほうから来てんのよ!? 今アンデッド大量発生中で超危険なんだけど!?」


「……お、おい、やっぱりこいつらが元凶なんじゃないか……?」


 シロナがアンデッドなのもあってあらぬ疑いをかけられそうになる。

 面倒なのでささっと報告すっか!


「そのアンデッド軍団だが、俺とシロナで全部倒してきたぞ!」


「私はほとんど何もしてませんけどね」


「は!? 倒してきた!?」


 リーンたちが驚く。


「ほれ、証拠だ」


 俺は【アイテムボックス】からレグルスの魔核を取り出す。

 【鑑定】スキルを持っているエルフに調べてもらった。

 これでハッキリするだろ。


「アンデッド……それも、SSランクの魔物の魔核で間違いありません。魔核の誕生日時もつい先ほどなことから来訪者たちの発言に嘘はないかと」


「は? SSランク!?」


「そうなんだよ、思ったより強くてさ! シロナの正論パンチがなかったら結構ヤバかったぜ!」


「SSランクレベルの戦いで正論パンチってどういう状況よ!? ディベートでもしてた!?」


「あ、そーいやレグルス木っ端みじんにしたら森の一部が消滅したから、植林活動頑張ってくれ」


「森の一部が消滅したって何!? どんな威力の攻撃しとる!?」


「これでも周囲の被害を抑えるためにできる限り威力を下げたんだぜ!」


「SSランク相手に手加減できるって、アンタ武神か何かで!?」


「ツッコミが冴えてますね、リーン!」


「えへへ、ありがと……じゃなくて、とにかく長老のとこに行くわよ! 詳しく説明してちょうだい!」


 リーンに連れられて俺たちは長老のもとを訪れる。

 森での出来事を詳しく報告した。


「私たちを救っていただいて感謝だBaby! 君たちがいなかったら里は滅んでたYO! お礼にいろいろ差し上げるぜチェケラ!」


 ギラギラサングラスに派手な服を着たファンキーおじいちゃん。

 この人がエルフの国で一番偉い人だった。


 ずっと鎖国していたエルフの国を暇って理由で開国させたのだから、このくらいぶっ飛んだキャラしてても違和感ねぇな。


「長老長老! 世界樹が! 世界樹をご覧になってください!」


 エルフの衛兵が興奮した様子で部屋に飛び込んできた。

 なんだなんだと俺たちは外に向かう。


 ここに来た時には瘴気で枯れていた世界樹が、ピンク色の花びらを満開に咲かせていた。


 生命力が爆発したかのような、世界樹の名に相応しい力強さがそこにはあった。


「わぁ~……! きれいですね! これが世界樹の本当の姿……!」


「デッケェ桜みてぇだ。エルフの国に来れてよかったな!」


「ええ! ……ただ、私たちだけで見るのが少しもったいないです。次は零華とコンちゃんも連れて来ましょうよ!」


「いいなそれ! みんなで花見するか!」


 シロナと話に花を咲かせていると、エルフたちがわらわらと集まってきた。


「なぎささん、シロナさん! 里を救ってくれてありがとうございます!」「何かお礼をさせてください!」「うちの店の料理好きなだけ食っていきな! 自慢の一品だよ!」「うちの商品も好きなだけ持っていっていいぜ! 里の伝統的な工芸品さよ!」「里を挙げて歓迎するっすよ!」


 みんなから讃えられた俺たちは、うまいもんを食いまくっていろんな品々を貰った。

 いっぱいお土産が手に入ったな!


 そのままエルフの里にて一泊。

 旅館で源泉かけ流しを堪能する。

 帰る間際、長老の家に呼び出された。


「家庭菜園してるって聞いたからYO! これをあげるぜい!」


「おう、ありがとな! で、これは何に使うん?」


 よくわからんポーション的な液体を貰ったぜ!


「世界樹の花びらを用いて作った魔法成長薬だぜ! これに魔力を注いで植物にかけると、植物がありえんくらい成長するYO!」


「うひょー! 最高だぜ~!」


 某亀のセリフを言って喜んでたらリーンがやって来た。


「別れの挨拶をしてあげに来たわ!」


「ちょうどよかった。俺も挨拶したかったんだよ」


「……アンタたちまた遊びに来なさいよね! 待ってるから!」


「もちろんだぜ! ここのメシはうまいからな!」


「今度は友達も連れてきますよ。ツッコミが大変になると思うので頑張ってくださいね!」


「どんな友達連れてくる気よ! ……わかったわ。片っ端から拾ってツッコんであげるから覚悟しときなさい!」


 別れの挨拶を済ませた俺たちは、ハンバーグステーキ定食号ヘリコプターに乗り込む。

 エルフたちから大歓声を浴びながら魔境に向けて飛び立った。


 数時間後。

 我が家に帰宅すると、人間形態の零華とコンちゃんが飛びついてきた。


『なぎさー! シロナー! 寂しかったぞー!』


「きゅーうっ!」


「ごめんごめん。遅くなっちまった」


「いろいろあったんですよ」


 俺はコンちゃんをたっぷりと可愛がってから、魔法成長薬を取り出す。

 効果を説明した。


『──つまり、これに魔力を込めてマンドラゴラに使えばとんでもなく成長すると?』


「そう。とんでもなくうまくなるに違いないってことだ」


『では我の魔力の五割を込めよう』


「じゃあ俺も五割込めるぜ!」


「いくらなんでも込めすぎでは!?」


「『まあ大丈夫やろ』」


 俺たちは魔法成長薬に魔力を込める。

 虹色に光り輝きだした液体をマンドラゴラにかけると、葉っぱの部分がみるみるうちに巨大化していった。


 軽く二十倍はデカくなったな。

 土の中に埋まっている根っこの部分もおそらく巨大化していることだろう。


「『食うのが楽しみだな!』」



 激しく揺れるマンドラゴラの葉を眺めながら、俺と零華は呟いた。


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