第29話 この国一番のギャングを検挙してやったぜ!
「死神の連中を今回こそブッ潰すわよ!!!」
副署長の合図でそれぞれが動き始めた。
ヘイヘイが薄い紫色の魔法弾を放つ。
数百メートル離れたところにいた敵が倒れた。
スゲー精度だ!
ゴリマックスのレシーブで空高く飛んだ3号が、空中で笹テックアローを放つ。
大量の矢が自由自在に軌道を変えながら犯罪者たちに直撃した。
自動追尾する矢とかめちゃ強じゃん!
一方、離れた建物ではシロナが魔法無双していた。
幽霊のシロナは壁や床を透過することができるので、気づかれることなく最短で見張りの背後を取れるってワケだ。
強みがガン刺さりしたな。
シュラフは寝袋の側面から手足を突き出す。
四つん這いで壁や天井を這いずり回りながら、口からビームを放って敵を殲滅していた。
新手の妖怪かな?
「(こちらヘイヘイ。狙撃に成功しました!)」
「(3号も見えてる敵全部やったっすよ!)」
「(シロナも無事に制圧完了しました!)」
「(シュラフだ。安眠の邪魔をしたやつらはすべて殺した)」
一斉に無線が入る。
上空からの俯瞰視点だから、みんなの活躍はよく見えたぜ。
「今だ、零華!」
『任せておけ! アイスウォール!』
銀行内に突入する際にネックとなるのが人質の存在だ。
だから零華に氷壁を生成してもらう。
建物内の狙った場所にピンポイントで魔法を使うなど零華の実力なら造作もない。
「(零華が氷魔法で人質と犯人を分断してくれたわ! 全員突入しなさい!)」
「「「「「(了解ッ!)」」」」」」
サーマル越しでも犯人たちが動揺しているのが丸わかりだった。
見張りたちからの連絡が途絶えた瞬間に突如氷壁が現れたのだから、よほど戦闘経験豊富でもなければ混乱してしまうのは当然だろう。
そこへ突撃する警察官たち。
副署長の正確な指示も相まって、警官たちの実力は圧倒的だった。
「(こちら秀俊。エントランスにいた犯罪者を全員シバき倒してやったぜ!)」
「(2号と横島君の出番なかったです。あと大トロモンスターが死にました。僕たちは人質の保護に移ります!)」
「(了解、ナイスよ!)」
秀俊強くね?
あの図体のデカさなのに、俊敏な動きで銃弾を躱しながら全滅させちゃったよ。
本当にビッグだったのか……。
「(こちら秀俊。腹が痛くなったから離脱するぜ! 後は頑張れよ!)」
上がった評価すぐに下げてきたな……。
秀俊の株価大暴落だ。
「(制圧班そのまま進んで大丈夫! 異変に気づいた敵の下っ端たちが来てる。ちょうどその先の角曲がったところでかち合うわよ!)」
「(了解!)」
たけおが前に出て敵の攻撃を引き受ける。
その間にたけおの横を抜けた1号と龍之介が一瞬で斬り伏せた。
「強いわね、龍之介。1号についていけるとは思わなかったわ」
「たけおもスゲーよ。筋肉でミニガン止めてんだから」
制圧班なだけあって強いな、みんな。
まだ実力が見えてないのはふわっちと大介だけか。
「(その先の通路を右に進んで。つきあたりの小部屋の西壁をブチ破れば、待ち構えている敵の後ろ取れるわよ)」
「(了解です、副署長ー!)」
ふわっちは元気な声で返事をすると、なぜか通路を左折した。
「(ふわっちそれ左!)」
「(なんかいっぱいいるー!? やばーい! けどなんか勝てたよ副署長ー!)」
「(よくやったわ、ふわっち! その先が金庫だからね。まだNINZYAいるわよ!)」
いや、ホントになんで勝てたんだ……?
強すぎだろ。
『天然だな、ふわっち』
「そこがいいのよ。見てて癒されるからね」
「わかる。ああいうタイプの子がいると空気よくなるよな」
「しかも実力もあるからね。ふわっちがいなくなったら王都警察は終わるわ」
話しながらも、サーマルは欠かさない。
NINZYAは慌てた様子なく逃走の準備に入った。
「(こちら1号、金庫に到着。NINZYAの姿は見えない。スキルを発動していると思われる!)」
「(ナイス情報! 1号たちは下っ端の処理してくれるだけでいいわ)」
「(ホアチャーッ!!! 大介です。下っ端の処理終わりました)」
「(早い! しごでき!)」
1号からの情報で確定した。
隠密中のNINZYAはサーマルで視認できる!
「よっしゃあ! NINZYA、アンタは今日で終わりよ! サーマル最強!」
「おっ、今転移したな。この感じだとカメラを見続けていれば見逃すことはなさそう」
副署長、俺、コンちゃんの三人でカメラの画面を凝視する。
まさか空から補足されているとは思うまい。
『副署長よ、当初の予定通りNINZYAは捕まえなくてもいいのだな?』
「ええ、追跡するだけでいいわ。NINZYAは調子に乗ったイキりキッズで自分の隠密能力に絶対の自信を持ってるから、そのままアジトに戻るはずよ。そこに押しかけ家宅捜索といきましょ」
NINZYAはあっという間に銀行から出ると、建物の上を駆け抜ける。
かなり早いが警察ヘリをまけるほどじゃない。
このままアジトまでコッソリついていってやんよ。
「(銀行組は犯人の護送と市民のケアをお願いね。特に精神的にダメージを受けている市民がいたら病院まで連れて行ってあげるように。NINZYAは追えてるから安心しなさい)」
「(了解です! 副署長も気をつけてくださいね!)」
銀行内は無事に制圧完了。
一人も被害者が出なかった……あ、大トロモンスターが死んでたわ。
「市民がケガしなくてよかったわ」
「市民に優しいんだな。犯罪者には何してもいいって言うから、俺が法だ! って感じでもっと好き勝手してるもんだと思ってたよ」
「私らはひったくり程度でも平気で殺すし犯罪者がゴネたらいったん殺して警察署に持ち帰ったりするのよ。死んでも蘇生できるとはいえ、痛くて苦しくて怖いことには変わらない」
「要するに恐怖政治的なことをしてるってわけか」
「そう。そんな警察って市民目線からしても怖いみたいで反発もあるのよ。ただ、王都は『世界で一番安全な街』って呼ばれるくらい犯罪率と犯罪件数が圧倒的に少ないの。その実績があるから私らの存在が許されてるだけで、市民にまで横暴に振舞い始めたらそれこそ解体されちゃうわ」
警察の裏話を聞いていると、NINZYAが【短距離転移】で建物の地下にワープした。
「そろそろアジト近いのかしら?」
「それっぽい雰囲気だよな」
NINZYAは何度か【短距離転移】を繰り返す。
四度目の転移を終えた時、NINZYAは立ち止まった。
と思ったら、サーマルカメラからNINZYAの姿が消えた。
「転移した? ……違うわね。【短距離転移】の範囲に瞬間移動した熱源はなかった。つまり転移とは別の要因……」
副署長は素早く推理する。
すぐに結論を導き出した。
「こことは違う次元、つまりダンジョンに入ったと考えるならつじつまが合う」
「こんなところにダンジョンがあるのか?」
「情報はないわ。だからこそ可能性は高い。アジトがダンジョンだとしたら、これまで死神のアジトについて手掛かりが得られなかったことにも説明がつくもの」
『とにかく行ってみるぞ!』
NINZYAの姿が消えた場所の地上に着陸する。
警察ヘリを【アイテムボックス】に仕舞ってから、特大シャベルで廃墟の床をブチ破った。
俺らフィジカルゴリラだから岩盤掘り進めるくらいわけねぇぜ!
「ビンゴね」
廃墟の二百メートル真下には出入り口のない地下スペースがあり、その壁にダンジョンの入り口があった。
【短距離転移】しないと来れない場所にダンジョンの入り口か。
見つけられないのも無理はないな。
『突入するぞ!』
「(こちら副署長。死神のアジトと思われるダンジョンに突入するわ!)」
「レッツゴーゴーゴーゴーゴー!」
ダンジョンに入る、
中は洞窟のようになっていた。
分かれ道などは見当たらず、奥の方へまっすぐ続いている。
「あんまり複雑な構造はしてなさそうな雰囲気だな」
「普段使いの隠れ家なら複雑すぎると不便そうだし、小さめのダンジョンを活用しているのかしら?」
『とりあえず進んでみよう!』
奥に進んでいると露骨にトラップが設置されていた。
「壁にドクロマークのスイッチて……。こんなのに引っかかるアホなんていないでしょ」
「こういうあからさまなスイッチはなんのために存在していると思う?」
『それはもちろん押すために決まっておるだろう!』
というわけで押してみたら爆発した!
うひょー、いい体験できたぜ!
「ここにいたわ」
『……ハッ!? これはまさか……押しちゃいけないボタン押すタイプを殺すための巧妙な罠!?』
「何ッ!? 俺たちが気づかないうちに敵の思惑に乗せられていただと……!?」
「絶対違うと思うわよ」
このダンジョンはやり手だ……!
気を抜いたら敵の掌で転がされちまう!
警戒しながら進み続けると、ほどなくして大きな扉にたどり着いた。
他に道は見当たらないので先に進んでみるか。
「呑気に引きこもっとんちゃうぞコラァ! 扉開けんかーい!」
副署長が怒鳴りながら扉を蹴破った。
警察ってより借金を取り立てに来たヤクザだな。
轟音を立てて扉が粉々になる。
中は会議室っぽい感じになっていて、数人の人間が集まっていた。
「王都警察ただいま参上ォ! 大人しく観念して死ねやゴラァ!」
「バカなっ!? 俺の隠密が破られただと!? ありえねぇ……ッ!」
アッシュヘアの長身男性が驚愕した様子で叫んだ。
お前がNINZYAか。
敵はNINZYA以外にもう二名いる。
緑髪の男性と、テーブルの上座の付近に立っている
この
副署長に聞いたら、合っていると返ってきた。
「ほう。我々のアジトにたどり着くとはやるじゃないか、警察諸君」
「出てこい、デスキメラグリフォン!」
「チクショウ! バレちまったなら
緑髪の男が巨大な魔物を召喚する。
NINZYAはナイフを構えて戦闘態勢に入る。
ボスが全身に濃密な魔力をまとった。
「すまないね。君たちを歓迎することはできない」
ボスの姿が一瞬で消える。
直後、俺の体に衝撃が走った。
「私の攻撃を止めたか。初見で対応できたのは君が初めてだよ」
強いな、国一番のギャングボスなだけある。
体感としてはSランクのかなり上のほうって感じだ。
『【完全隠密】、【ステルス】、【無音移動】、【無臭】程度で我の感覚を誤魔化せるとは思わないことだ』
「べガふッ!?」
零華がビンタを放つ。
NINZYAが地面にめり込み、その衝撃でクレーターができた。
「Sランクの魔物一匹で私は止められねぇわよ!」
「グギャァァァァッ……」
「ぶごっ!?」
鷲やらライオンやらヤギやら蛇やらいろんな生物がごちゃ混ぜになったキメラが、副署長のパンチ一発で爆発四散する。
キメラを従えていた緑髪の男も瞬殺された。
もともと勇者パーティーにスカウトされるほど強い副署長がコンちゃんのバフで超絶強化された結果、Sランク程度じゃ止めようがない化け物になっていた。
「え? 強すぎない!?」
さすがのギャングボスもこれには動揺を隠せない様子。
まさか神獣ご一行がちょうどタイミングよく警察体験してるとは思うまい。
「運が悪かったな、死神」
隙だらけのギャングボスの頭上に【アイテムボックス】を発動する。
街で買ったネタ武器……衝撃を与えると爆発する剣が降り注いだ。
ドゴォォンッ、ボカァァァンッ、ドギャァァァァンッ!
爆音が鳴り響き、ボスが大爆発に呑み込まれる。
「ふんッ! 効かんよ!」
爆発の中からボスが現れる。
大したダメージにはなっていないが、爆発によってボスの服が消し飛んでいた。
「十二時十三分、公然わいせつ罪で現行犯逮捕ーーーッ!!!」
俺はボスの背後を取り、素早く呪いの手錠をかけた!
この手錠をかけられた者は、スキルや魔法が一切使用不可能になり身体能力も一般村人レベルまで低下する。
無力化成功だ!
「死神! アンタたちは今日でお終いよ!」
「お前はこれから、公然わいせつ罪で逮捕された露出狂のギャングボスとして語り継がれるぜ! よかったな!」
「最悪だぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!? やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
ギャングボスは情けなく喚き散らす。
こうして俺たちは、この国一番のギャングを検挙することができた!
警察署に戻って死神たちの護送を終えた後。
俺たちは副署長に呼び出された。
「今回は手伝ってくれてありがとうね。おかげでずっと追いかけてたギャングを殲滅することができた。王都もさらに平和になったわ」
「俺たちもレアな体験できて楽しかったぜ!」
「……よかったらアンタたち警察に入らない? 好待遇は保証するわよ」
「誘ってくれんのは嬉しいけど、警察入るのはやめとくわ。自由に生きてぇし」
「そう……」
副署長は残念そうに俯く。
そんなに気に入られてたのか。
ちょっと申し訳なくなるな。
「またなんか体験イベント開いてくれたら遊びにくるぜ!」
『もちろんみんなでな!』
「その時はまたよろしくお願いしますね」
「きゅいきゅーい」
「……うん、わかったわ。またワクワクするようなイベントを企画するから遊びに来てね。みんなも喜んでくれると思うわよ」
副署長への挨拶を済ませた俺たちは、他の署員たちにも別れの挨拶をして警察署を後にする。
海水浴にキャンプに盗賊退治にグルメ大会、水竜襲撃、警察体験。
たった数日でいろんなことが起こりすぎた。
かなり濃い、クッソ楽しい旅行になったな。
楽しかったこと、面白かったこと、今度旅行するならどんなことをしたいかなどなど。
いろいろな話をしながら魔境へ帰還する。
ようやく見えた我が家の玄関前に、置物みたいに固まっている邪竜ちゃんの姿があった。
……うーわ。
帰って早々ヤベーのに出くわしちまった……。
『ようやく帰ってきたか! おかえりなのじゃ!』
「こんなに嬉しくないおかえりの言葉は初めてだよ」
『あまりにも寂しすぎて
「闇落ちしたやつは自分で闇落ちしたとか言わねぇだろ」
邪竜ちゃんが闇落ちか。
助ける必要ないな、うん。
面倒だし放っとこう。
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