第27話 レッツ警察体験!

 王都近くに現れた水竜を倒して英雄になった翌日。

 宿を飛び出た俺たちはギルドにやって来た。

 おっ、ちょうどいいところにギルマスが!


「よっすよっす! なんか楽しそうなイベントやアトラクションあったりしない?」


「唐突だな。楽しそうなイベントか……」


 ギルマスは少し考え込んでから、ハッとしたように近くのポスターを手に取った。


「ちょうど今日、警察が一日体験イベントを開くんだった。詳細はこのポスターに書いてある。応募者が驚くほど全くこなくてギルドにも宣伝ポスターを貼ってほしいと頼まれたくらいだから、当日参加させてもらえるはずだ」


「あざーっす!」


 俺はギルマスから手渡されたポスターを見る。

 ふむふむ、時間は十時からで受付は本署に行けばいいのか。

 移転に伴って解体される銀行があるから、そこを使って模擬銀行強盗演習をやるらしい。


「楽しそうじゃん」


「ヤバいと有名な王都警察で体験ですか……」


 シロナは引いた様子で呟いた。


 へ~、ここの警察はヤバいのか~。

 だから応募者が集まらないんかな?


『ほう、面白そうだな』


「そう言われると行ってみたくなるよな!」


『なるなる! 行くぞー!』


「そういえばこの人たち押しちゃいけないボタン喜んで押すタイプだった。仕方ありませんね、私たちも行きましょうか」


「きゅー」


 俺たちはポスターに記載されていた場所に赴く。


 ほ~、ここが本署か~。

 デッケェ建物だなぁ。


 俺たちは警察署に入る。

 受付で一日体験に参加したいと伝えたら、トントン拍子で話が進んだ。

 予想通り応募者が集まっていなかったらしい。


「こちらへどうぞ」


 俺たちは事務員に案内されて会議室らしき大部屋に移動する。

 中には上官と思われる警官たちがスタンバイしていた。


「よく来てくれたわね! 私が副署長、今回のイベントのリーダーだ」


 赤いメッシュとインナーカラーの入った黒髪ポニーテールの長身女性が嬉しそうに名乗った。

 ワル系美人な副署長に続いて他の署員たちも自己紹介する。


「俺が1号だ」「2号だぜ。よろしくゥ!」「アタシが3号っす! よろしくね~!」


 パンダデザインの全身フードを着た三人組がビシッとポーズを決めた。

 いきなりヤバいのがきちまったな。


「お前らホントに警察か?」


「よく見てほしい。俺たちの格好を」「パンダのカラーは白と黒! 警察カラーだぜ!」「つまり問題ナシ! 背中にも“Police”って入ってるしね」


 問題しかないと思うが?

 子供の屁理屈みたいだが、実際に警察業務をしているあたり許されてはいるのだろう。


「僕はヘイヘイ。魔法狙撃手をやっているよ」


 穏やかな好青年が名乗る。


 魔法狙撃手って響きカッケェー!

 戦ってるとこ見るの楽しみだな。


「わたしはメルです。みんなからはふわっちって呼ばれてるよ~」


 桃色髪の小柄な女性が名乗る。

 犬耳としっぽが生えてるけど獣人ってやつなのかな?

 あだ名の通り、ふわふわした雰囲気を醸し出していた。


「俺はシュラフだ。イベント中は寝てるから起こさないでくれよ」


 テーブルの上で寝袋に入って横になっている男がぼそりと呟く。

 警察とは思えない格好だが、白黒カラーの寝袋にはPoliceと表記されていた。

 お前もパンダタイプか。


「この俺がインヴィンシブルたけお! 王都警察で一番のマッスル・ザ・筋肉を誇る男だ!」


 上半身裸の筋肉ダルマがムキムキポーズを決めながら叫んだ。

 コイツどう考えても警察じゃなくてボディビル芸能人か何かだろ。


「俺の名は異次元大介」


「銃撃つの得意そう」


「聞いて驚け。俺の銃は百発ゼロ中だ」


「悪いほうに異次元だった」


「大介はエイム終わってるけどヌンチャクの扱いはうまいわよ」


 副署長が補足してくれた。

 ヌンチャク無双はそれはそれで見てみたいな。


「今回のイベントに参加する上官は以上だ。みんな戦闘班のエースだからすっごく強いのよ」


 思ったよりも人数少なかったな。

 まあこの世界なら当然か。


 地球では生身の人間が一万人の軍勢を倒すことなど不可能。

 だが、この世界にはたった一人で国を滅ぼせるようなやつもいる。

 実際、俺も人類を滅ぼせるくらいの力持ってるしな。


 ……えーっと、組織の統率を保てるのが百五十人までとかそんくらいだったよな?

 そう考えると、量を集めるより高い質の少人数のほうがうまく回るのだろう。


「で、こっちの二人は警察専属の医療隊。超珍しい蘇生魔法の使い手たち。右が院長、左がトロール野郎よ」


「医療隊のトップをさせていただいております。ケガをした際は我々にお任せください」


「犯人を殴り倒しに行って真っ先に殺される大トロモンスターとは俺のこと! 今日はもう四回死んでるぜ!」


「死にすぎだろ」


「毎日平均五回は死ぬ男! 世界で一番死んだ回数が多いのは間違いなく俺だぜ!」


 蘇生魔法……ファンタジー系のゲームでおなじみの魔法がこの世界には存在するのか。

 死んでも復活可能な警察とか犯罪者からしたら厄介なことこの上ないだろうな。


「これで警察側の挨拶は終わったから、次はアンタたち体験が自己紹介してくれるかしら?」


 副署長に促されて俺たちも挨拶する。

 水竜を倒して王都を救った話は警察でも話題になっていたらしく、上官たちは俺たちが参加することをとても喜んでいた。


「俺が大トリか」


 今回の警察体験イベントは俺たち以外にも一人だけ参加者がいた。

 身長二メートル近いスキンヘッドの大男が喋り始める。


「警察体験に来てやった大熊秀俊おおぐまひでとしだ。オメェら足引っ張んじゃねーぞ!」


「なんだコイツ。声も態度も顔もデケェ」


「おう、ビッグだぜ俺は! 責任とか何もねぇからよ、イキり散らかすぜ俺はよォ!」


「最悪な体験だ……」


 こうしてイベント参加者の顔合わせは終わった。

 続いて副署長による警察官の心構え講習が始まる。


「うちのポリシーは『とりあえず現行犯処刑!』。犯罪者相手だったら基本何やってもいいわよ」


 うん、確かにこの警察ヤバいわ。

 魔法で治療も蘇生も簡単だからやりたい放題できるんだろうな。


「で、一番大事なこと言うからよく聞いときなさい。『市民はとにかく大事にすること!』。ただし、取り逃したら後々脅威になるような凶悪犯罪者をシバくためならごめんけど死んでくれ。後で蘇生するから! の精神でやっていいわ」


「「「「「了解!!!」」」」」


 俺たちはビシッと敬礼する。

 さあ銀行強盗演習に行こうとなった時、事務員の人が慌てた様子でやって来た。



「大変です! ブルーオーシャン中央銀行から強盗事件発生中との通報が入りました!!!」


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