第18話 やはり俺は凄すぎるらしい【一般人の反応】

「お前ら大丈夫か?」


 夜の魔境で生物採集していたら、なんか魔物に襲われている人間たちを助けてしまった。


 重装備で斧を担いだ屈強な男。

 細身の長身男。

 長身男におんぶされている魔法使いっぽい格好の女。


 こいつらはたぶん冒険者ってやつだろう。


「……た、助けてくれてありがとうございます! あなたはいったい……?」


 魔法使いの女が恐る恐る話しかけてきた。


「俺は星宮なぎさだ。ムカデに文句言いに来ただけだから気にすんな」


「そうは言っても、お前がいなきゃ俺たちは死んでたんだ」


「感謝してもしきれねぇよ。ところで、星宮さんはこんなところで何してたんだ?」


「カブトムシとか探してた」


「「「はい……?」」」


 冒険者たちが三人そろってぽかんとする。

 それからめちゃくちゃ驚かれた。


「ここ魔境なんですけど!?」


「そうは言われても俺ここでスローライフしてるからなぁ。これが日常だ」


「どんな日常だよ!」


 いちいち驚かれるの懐かしいな。

 シロナが仲間になった時もこんな感じだったっけ。


「何度も魔境に来てる俺たちが言うのもなんだが、ここは地獄だぞ!? スローライフて!」


 ここは地獄か。

 その気持ち超分かるよ。

 俺も何度絶望したことか。


「ヘラクレスオオカブトがあとちょっとのところで毎回捕まえられねぇのは地獄だよな」


「地獄の方向性が俺たちとは真逆だった」


「前は魔王とかいうやつに邪魔されたしよ」


「「「魔王……!?」」」


 俺はヤギの角が生えてて右腕が眼球まみれの男に邪魔されてヘラクレスオオカブトに逃げられた話をした。


「それ本物じゃないですか! その後どうなったんですか!?」


「いきなり攻撃してきたから木っ端みじんにしておいたぞ」


「マジかよ。星宮さん人類の英雄じゃねぇか……」


「俺たちの知らないところでとんでもない事件が起きていたんだな……」


「とりあえず俺は帰るけど、お前ら俺ん家で休んでいくか?」


 俺は冒険者組に提案する。

 ムカデに追い回されていたからか、見るからにボロボロだ。

 そんなんで魔境歩いてたらあっという間に死んじまうだろ。


「いいんですか!? 正直すごく助かります!」


わりぃな、世話になる」


「何から何まで感謝する」


 俺は冒険者たちを連れて帰宅する。

 守護結果の中まで来た時、俺の帰りを待ってくれていたコンちゃんが嬉しそうに飛びついてきた。


「わっ!? なんですか、その子は!?」


「黄色い毛並みのキツネ……もしやカーバンクルか!?」


「マジで!? 幻獣って言われてるやつじゃねぇか!」


 俺は三人にコンちゃんを紹介した。


「ペットのコンちゃんだ!」


 コンちゃんの可愛さについて、特に念入りにアピールする。

 毛がもこもこふわふわでとんでもなく触り心地がいいんだよ!

 これでコンちゃんにメロメロになること間違いなしだ。


「これが幻獣……!? 可愛すぎです……!」


「幻獣をペットにするとは……」


「すげぇな」


 なおも俺がコンちゃんを自慢していると、トリオ兄弟がやって来た。

 採れたて新鮮な野菜が入ったカゴを抱えて。


「「「魔物……ッ!」」」


「心配すんな。敵じゃねぇよ。俺、こいつらの群れのボスやってんだ」


「群れのボスやってるって何!?」


「どういうことなんだ……?」


「テイマーじゃなくて!?」


 俺はトリオ兄弟を労ってから三人を家に案内する。

 俺ん家を見た三人は、その大きさに固まっていた。

 まー、俺ん家ちょっとした屋敷くらいデカいからな。


 ガチャリと玄関を開ける。

 天井から逆さまにシロナが登場した。


「わーーー!」


「何してんの?」


「オバケらしく驚かそうとしたんですけど。むー、次はびっくりさせてやりますからね!」


「俺、幽霊とか出たらまず物理でどうにかできるか試そうとするタイプだから、一生驚くことはないと思うぞ。ごめんけど」


 冒険者組のほうを振り返ると、シロナを見てビビり散らかしていた。


「なんでレイスがこんなところに!?」


「クソッ! もう聖水は尽きているというのに……!」


「ミリア一人でどうにかなるか……!?」


 こりゃ、シロナのことを敵だと思ってるっぽいな。

 シロナも自我を持った悪霊は超レアって言ってたから、そう思ってしまうのも無理はないだろう。


「誰ですこの人たち?」


「森で助けた冒険者だ。誤解されてるみてぇだから俺のほうから説明するわ」


 俺は冒険者組にシロナのことを説明した。


「……というわけで、シロナは自我を持ってるタイプの悪霊だから心配すんな。全然怖くないぞ」


「どうもシロナです~」


「悪霊が仲間って聞いたことないんですけど!?」


「自我を持ってる悪霊なんて存在してたんだ……」


「今日、過去一驚いてる気がするな、俺ら」


『なぎさ、この人たち誰?』


 散歩に行っていた零華が、冒険者組の背後にぬっと現れる。

 振り返った冒険者組は驚愕のあまり尻もちをついてしまった。


「こ、こここ、これってもしかしなくても神獣ですよね!?」


「なんで神獣がこんなところに!?」


「殺されちまうのか俺たち……」


 オーバーすぎるリアクションだなと一瞬思ったが、普通の人からするとそんな反応にもなるか。

 零華って神獣だもんな。

 俺たちが慣れてしまっているだけで、普通の人からすれば雲の上の存在だ。


『我のオーラに震えてしまったか人間よ。まあ我って可愛いから当然だよね』


「こいつはフェンリルの零華。コンちゃんと同じく俺のペットだ」


「「「ペット!? 神獣が!?」」」


『その通りだ。お前らには特別に我の芸を見せてやろう!』


「お手」


『わん!』


 零華がお手を放つ。

 直撃した俺の体が地面にめり込み、小さなクレーターができた。


「見たか? これが零華のお手だ」


「デスもぐら叩きか何かの間違いじゃないですかね……?」


 俺は筋肉の力で地面から抜け出た。


「「「フェンリルの攻撃で無傷!?」」」


「次の芸はこれだ! トリプルアクセル!」


『ぎゅいーん!』


 零華は魔法で足元を凍らすと、華麗なトリプルアクセルを披露した。


『じゃじゃーん! ドヤ!』


「さすが零華! オリンピック金メダル間違いなしだぜ!」


 次が最後の芸だ。

 ショートコント『大物釣り』。


『うおおおおおおお!!! これは間違いなく大物だーッ! ……ってこれ長靴やないかーい!』


「このペットが可愛い2023最優秀賞受賞!」


『やったー!』


 俺と零華は渾身の芸を披露する。

 その光景を目の当たりにした冒険者組は、放心した様子で呟いた。



「神獣がペット……」


「すごすぎてすごい以外の感想が出てこない」


「星宮さんはとんでもねぇな。前代未聞だ……」


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