第八章 急展開
七月二十五日十六時二十分。
僕達は午後から御神君の家に集まっていた。
「今日は、南野さんと則島の同級生で、同窓会の主催者の竹飛っていう人に会うんだっけ?」
半藤君が頭を描きながら、そう御神君に訊いた。
「ああ・・・・・俺はそろそろ竹飛さんと会う時間になるから近くの喫茶店に出掛ける。2時間程で帰ってくる。終わったら直接、報告するから皆はここに残ってくれ。部屋は自由に使ってくれても構わないから」
「分かったわ」
大谷さんがそれを承諾し、御神君は部屋を出て行った。
十七時三分。
とある喫茶店。
御神は頼んだホットコーヒーに手を付けていない。
湯気が立ち籠っている。
「まず、訊きたい事は同窓会の主催者は貴方だけだったという事です」
御神が目の前に座る釣り目の男に問いを投げ掛けた。
「いや、死んだ則島もだったよ」
「そうでしたか。同窓会の打ち合わせは則島さんと行ったのでしょうか?」
「ああ、同窓会の打ち合わせの一ヵ月前に居酒屋でね」
「そうですか。次に訊きたい事は同窓会での二次会です。本当に則島さんは七月十七日に行われた同窓会の二次会に参加していたかどうかです」
「さぁね、大勢だったからあんまり覚えていなかったよ。だけど誰かが則島も二次会に参加しているって言っていたからそうなんじゃないかな」
「幹事なのに誰が参加しているのか知らなかったのですか?」
「まぁ、幹事と言っても、軽い同窓会でしたからね。来る者はウェルカムというノリです」
「そもそも、何故、この時期に同窓会を開こうとしたのですか?まだ、夏休み前で、地元に帰省していない人達も大勢いるでしょう」
「川口なら実家から都内の大学に進学している人も多いし、普通に来られるでしょう」
「地方の大学に行っている人達は考慮しなかったのですか?」
「そんな事、こっちの勝手でしょう」
空気が殺伐とする。
「そうですね。分かりました。野暮な事をお訊きして申し訳ありませんでした。次に訊きたい事は則島さんを同窓会の幹事に誘ったのは貴方だったという事です」
「・・・・・ああ、そうだよ。・・・・・もうそろそろ、いいかな。君と話していると少し不快になって来たよ」
「それは、申し訳ありません・・・・・が、後、最後に一つお訊きたい事が御座います」
「何?」
「最近、貴方は幸せですか?」
「・・・・・さぁーね。でも一般的には同級生が死んで幸せだとはとてもじゃないけど言えないじゃないかな」
そう告げると、竹飛は席を立ち上がり、直ぐに店を出て行った。
御神君が出掛けてから、二時間半経った。御神君はまだ戻って来ない。
「遅いな」
半藤君がそう呟いた。
「話が長引いているんじゃないの」
大谷さんがそう答えた。
「暇だから、テレビでも点けようぜ」
「また、勝手に」
「いいじゃん、御神も部屋は自由に使ってくれても良いからって言っていたし」
半藤君がそう言うと、テレビのリモコンを手にし、オンボタンを押した。
「何か、良い番組はやってねーかな」
半藤君がそう言って適当にチャンネルを変え始めた。
「・・・・・・・・・・・昨夜、東京都荒川区の自宅アパートで首を吊った男が遺体となって発見されました。死体となって発見されたのは東明工業大学四年、南野浩平さん二十一歳。・・・・・・・・・・」
「なっ、何だって!」
大谷さんが初めに大きな声を出した。
南野さんが死んだ!
何て事だ。
フクマデンの有力候補が消えてしまった。
フクマデンに殺害されてしまったのか?
いや、彼は例えMDに参加していたとしても敗北していない。
ならば、自殺したのか?
皆暫く、声が出ない。ガチャッ。玄関の扉が開く音がした。足音がこちらに近づいて来る。
御神君か。
恐らくまだ、このニュースを知らないであろう。誰が伝えるのか?僕には出来ない。
部屋の扉が開かれた。
「どうしたんだ?皆」
「れっ、蓮司、今ニュースで南野さんが死亡したって・・・・・」
「なっ、何だって!」
暫く、無言になった。
すると、御神君がスマホをポケットの中から取り出して、電話を掛け始めた。
「もしもし、榎田警視ですか?今、ニュースでやっている死亡した南野浩平さんの現場に行きたいのですが・・・・・ええ、ええ、・・・・・有り難う御座います。では、今からそちらへ向かいます。では、失礼致します」
「御神君、南野さんのアパートへ行くの?」
秋山さんがそう御神君に訊いた。
「ああ、これから、南野さんのアパートに行く事になったのだけど、皆は今日、もう遅いから帰った方が良いな」
「そっ、そうだな」
半藤がそれに従った。
「あっ、あのー、僕も付いて行っても良い・・・・・かな?」
「どうしたんだ。三堂。お前が自ら行きたいって言うなんて珍しいな」
半藤君が当然の如く皮肉った。
今、自分は何を言っているのだろう。
全て、御神君一人に押し付けても良いなのか?
それとも単に初めての機会の好奇心か?
こんな自分でも何か役に立てるのか?
主人公になりたいからなのか?
「ああ、良いよ」
御神君がそう答えた。
意外とあっさりだった。
僕はたじろいだ。
御神君は僕なんかを連れて行っても本当に大丈夫なのか?
自分で言い出したけど、僕は少しどうしたら良いのか分からなかった。
僕達は御神君の家を出て、駅に向かった。
「じゃー、俺達はこれで」
半藤君達が山手線の内回りの電車に乗り、僕達は外回りの電車に乗り西日暮里駅に向かった。
僕達は西日暮里駅に着いて、南野さんのアパートに向かった。
暫く歩き、パトカーの明かりが見えて来た。
緊張が走る。
見えて来た。
周りには人だかりや野次馬がいた。
灰色の外観をした新築アパートだった。
人混みの中を掻き分け先頭に出た。
「こらこら、君、これ以上入いったら駄目だよ」
警官が御神君を注意した。
「御神と申します。多分、立ち入り許可が出ていると思うのですが」
「君、その子を通したまえ」
その時、黒髪に少し白髪が交じった短髪の三十代前半だと思われるスーツ姿の男がやって来た。
「宇崎警部」
「御神君かな。私は警視庁の宇崎だ。榎田警視より、君の現場への立ち入りを許可する様にと伝わっている。自由に入ってくれたまえ」
「友達も一緒に良いですか?」
「ああ、構わない」
僕達は部屋に案内された。
現場検証なんて自分とは関係のない世界だと思っていた。
不思議な気分だ。
意外にも恐怖より高揚している。
一階のワンルームの部屋だった。
玄関から廊下を通して、部屋までは一直線上に位置している。
部屋の中にはテレビやパソコンやプリンター等が置いてある。
そして、玄関には内側に突起物がなく、10cm程の高さが郵便受けが付いている。
死臭がまだ残っている。
嫌な匂いだ。
しかし、その中でも警察の人達が黙々と作業している。
流石プロだ。
「南野さんが発見された時、どういう状況だったのですか?」
「第一発見者のアパートの管理人の話によると、バイト先の店長から南野がバイトに来ないから部屋の様子を見てくれとの連絡を受け、チャイムを鳴らした所、返事がなかったので部屋を開けようとしたが部屋には鍵が掛っていたらしい。そして、管理人の合鍵を使って部屋を開け、部屋の中を覗いた所、物干し竿からロープで首を釣って死んでいた南野を発見したらしい。鑑識の結果、死亡推定時刻は昨日の24日の朝だと推定される。そして、南野の着ていたカットソーの穴に部屋の鍵が入っていた」
そう言って、宇崎警部がビニール袋に入っている大きな輪がついた鍵を僕達に見せた。
「そして、南野のと思われる携帯電話は玄関に落ちていた。また、南野が持つ合鍵も机の引き出しから発見され、窓も割れた形跡がなく施錠してあった。床には台があり、南野が激しく抵抗した形跡もなく、部屋から遺書も発見され、自殺の線が濃厚だと考えている。そして、遺書には先日の則島と島内殺しを自供した事が書かれていた」
やはり、南野さんがフクマデンだったのか?そして、その目的を果たし、自殺したのか?
「あの、その遺書を見せて頂けないでしょうか?」
「良いよ」
そう言って、宇崎警部が御神君に遺書を渡した。
この度、則島智と島内大輝を殺害したのは私、南野浩平で御座います。
則島は中学時代に私を虐め、その結果そのトラウマにより精神的に患い、それが原因で今でも人との付き合いが上手く行きませんでした。
今まで勉強を頑張って来たのに就職活動が上手く行かず、殺意が芽生えました。そして、七月十八日の午前八時頃に則島を殺害しました。
また、現在、私と同じ大学に通っている島内は私に対して、金銭を揺すり、これを機にどうせなら一緒に殺害しようと思いました。
そして、七月二十二日の十九時頃に則島を殺害しました。
しかし、私はその十字架を背負って一生生きていく事は出来ないと思います。
ですから死んでお詫びします。この度は御迷惑お掛けしました。
南野 浩平
「則島の殺害時間には南野さんはバイトに出ていて、アリバイがあるのですが、どうやって則島を殺害出来たんでしょう?」
「それは現在調査中だが、必ず南野は何らかの方法で則島を殺害したと考えられる」
「そうですか。有り難う御座いました。宇崎警部」
御神君が宇崎警部に遺書を返した。
「そうそう、遺体の傍にはこんな物も落ちていたんだった」
御神君に紙を渡す。御神君がそれを凝視した。それを僕も覗き込んだ。
{
int high;
char *murder=malloc(1024);
printf("input high=");
scanf("%d",&high);
if (high >=180)
murder="NO";
else if(high >=175);
murder="NO";
else if(high >=170);
murder="YES";
else if(high >=165);
murder="NO";
else if(high >=160);
murder="NO";
else if(high >=155);
murder="NO";
printf("FYKUMADEN= %2sÄn",murder);
free(murder);
return 0;
}
MD FIN SYU PC R
一体これは何語なんだ?
英語と数字と記号が書かれている。
「これをどう思うかい、御神君?」
「・・・・・・・・・・C言語ですね。南野さん、大学でプログラムをやっていると言っていたので恐らくレポートか何かでしょう」
「そうかね」
「しかし、念の為、これを写真で撮らせて頂いても良いですか?」
「ああ、良いよ」
そう言って、御神君は宇崎警部に遺書をポケットからスマホを取り出し、シャッターを押した。
「有難うございました」
御神君が遺書を返し、宇崎警部が離れた。
「それとこの写真が床に落ちていた」
宇崎警部がそう言って、御神君に写真を渡した。
「こっ、これは」
ふと見てみた。
・・・・・大谷さんが写っている写真だ。
一体、何で大谷さんの写真が南野さんの部屋にあるんだ?
身震いした。
「有難うございました」
御神君は写真を宇崎警部に返した。
「これは・・・・・」
御神君の視線の先には床に糸が落ちていた。
「ちぎられた形跡があるな。・・・・・少し濡れている」
御神君がそれを拾い、匂いを嗅いだ。
「油の匂いがする」
何をしているんだ?
「そうか。・・・・・物干し竿の位置から測定すると、床から南野さんの首の高さまでは1.9m程か」
御神君が物干し竿を見つめてそう言った。
「後はある二つ物さえあれば帰れるな」
御神君がそう呟いた。
色々な物を触り始めている。
何だろう?ある物って。
僕は適当に室内を歩いた。
ふと視線を目に入った本棚に向けた。
専門書や小説や漫画が並べてあった。
「一つ目は見付けた」
見ると御神君が床から何かを拾っていた。
何を拾ったかは小さすぎて判らなかった。
「宇崎警部」
「ないだい?」
「この床にあった髪の毛、調べて貰えませんか?」
「ああ、分かった」
髪の毛だったのか。
視線を本棚に戻した。
うん?
本棚の裏側に何か黒い紙が挟まっているぞ。
これは御神君が探している物と関係がないのか?
しかし、一応訊いてみなければ。
「あっ、御神君、ちょっと、いいかな。・・・・・何かあそこに挟まっているんだけど」
御神君がその黒い紙を拾った。
「これは・・・・・重要な手掛かりだよ。三堂」
その紙には黒くRという文字が書いてあった。
僕は自分が良い仕事をしたのかが分からなかった。
しかし、これが何か今回の事件の解決の重要な手掛かりとなるのか?
・・・・・うん?そういえば、この文字もどこかで見た気がするぞ。
気付いたら、それもポケットの中に入れていた。
「これで帰れるな」
御神君が言っていたある物ってこれの事だったのか?
でも一体これが何を意味するのか?
「宇崎警部、今日はこれで失礼します」
「ああ、ではまた何か解ったら連絡してくれ」
「はい」
こうして僕達は人混みを掻き分けて現場を後にした。
七月二十六日。
十三時。
とある喫茶店。
「突然、呼び出してしまい申し訳ありません、木元さん」
「ああ、大丈夫だよ、御神君。しかし、驚いたね。則島の次は南野か。呪われているのかな、うちの中学」
「そうかもしれませんね。・・・・・この前、竹飛さんと会ってきました」
「ああ、そうなんだ」
「それで木元さんに再び、訊きたい事が出来、呼び出してしまいました」
「そうなんだ。で、何、訊きたい事って?」
「はい、まず再度確認ですが、同窓会に参加していた人数です。同窓会の一次会では何人が参加し、その内、二次会では何人が参加していたのでしょうか?」
「確か、一次会では三十人程が参加して、二次会もほぼ全員が参加していた筈だよ」
「三十人程が二次会に参加していたという事は、カラオケ店は当然、いくつかの部屋を使ったのですよね?」
「ああ、確か四部屋のカラオケボックスを使っていたと思うよ」
「そうでしたか。次に、亡くなった則島さんについてです。同窓会での則島さんはどんな様子でしたか?」
「うーん、そうだね。何か、昔と比べて、暗くなったというか何というか。何か思い詰めていた様な雰囲気だったな。今思えば、死を予感していたのかな?でもまぁ、6年も経てば変わってしまう事は可笑しくないが」
「則島さんは中学の時はどんな性格だったのですか?」
「うーん、どっちかと言えばやんちゃな性格だったな。放課後、いつも騒いでいたし。それに、ここだけの話、南野を虐めていたし」
「そうでしたか。則島さんは二次会には参加していたのですね?一次会会場から二次会会場へ向かう様子はご覧になりましたか?」
「いーや、別の奴と会話していたから俺は見なかったよ」
「例えば、竹飛さんと則島さんは一緒に向かっていた様子はありましたか?」
「うーん、あっ、そういえば竹飛と則島は今回の同窓会の幹事だったから、二次会会場への案内の関係で一緒だったかもしれないな」
「竹飛さんは道中、他の皆さんと離れずに、二次会会場へ向かったのですか?」
「えーと、どうだったかな?」
「少しの時間でも抜けていた様子はなかったですか?」
「ああ、言われてみれば、竹飛が二次会のカラオケ店に向かう途中何となくちょっといなくなった気がするかも」
「そうですか。という事はその際に、則島さんもいなくなった可能性もありますね」
「そうだね」
「竹飛さんはどういう性格でしたか?」
「まぁ、一言で言うととにかく金にうるさい男だね。多分、同窓会の会費もピンはねしているね」
「そうでしたか・・・・・ところで、前川恵美という女性はご存じですか?」
「前川恵美・・・・・ああ、中学の時の同級生にいたな」
「そうでしたか。ちなみに則島さんとの関係は?」
「二人は付き合っていたよ」
「という事は前川恵美が則島さんの初恋相手ですか?」
「いや、違うよ。則島の初恋相手は小学校の時の女で、彼女は俺達とは別の中学校に行ってしまったよ」
「南野さんは同じ小学校でしたか?」
「いや、俺達とは別の小学校で中学校から同じだよ」
「そうでしたか。最後に一つお聞きしても宜しいですか?」
「うん、何?」
「南野さんの生年月日をご存知でしょうか?」
「えーと、確か1996年8月12日生まれだった気がする」
「そうでしたか、有り難う御座いました」
七月二十七日。
十三時半。
僕達はまた、御神君の家に集まっている。
そして、始めに遺書の発見と、南野さんが則島と島内を殺害したフクマデンだという事を皆に伝えた。
「・・・・・そうか。残念だな。そういえば、御神、昨日、木元さんに会ったんだよな?」
「ああ」
「南野さんの生年月日訊いたか?」
「ああ、1996年8月12日生まれらしい。この事は榎田警視にもその後、確認したから間違いない」
「そうか!だったら、SAOがフクマデンで確定だな」
「ああ、死んだ南野さんの代わりに明日は誰がSAOをやるかだな」
「主催者Xの手下じゃね?」
「ああ、そうだな。そして、偶然にも殺害された島内も南野さんと全く同じ生年月日だったらしい」
「そうなの?これは偶然なのかしら?」
大谷さんがそう疑問を持った。
「ああ」
「後は、アリバイがあった南野さんがどうやって則島を殺害出来たのかだね」
大谷さんがそう呟いた。
「そうだな」
半藤君も同意した。
「則島が殺害されたのは七月十八日。・・・・・ツインホテルの事件の時みたいに、死体を冷凍して、死亡推定時間を誤魔化したんじゃないのよ。そのずっと前には実は殺害されていたのよ。つまり、則島が殺害されたのはもっとずっと前で実は第一回目の時点ではプレイヤーは別の誰かがやっていたという事よ」
大谷さんが開口一番にそう推理した。
「だけど、則島の死体にはカラスのマークが貼ってあったんだろ。つまり、則島はMDで敗北したから殺害されたんだよ。つまりMDより前に殺害して、MDで敗北した後にカラスのマークを貼ってはMDに違反する事になるからそれは有り得ない」
半藤君がそれを否定した。
「主催者Xはそんな事本当に遵守するかしら。仮にも極悪非道の殺人者なんだから」
「しかし、奴は頭が切れるし、ルールを守ってこそ御神に挑戦している意味がある。・・・・・南野さんも不親切だな。殺害を自供したのなら、その方法もちゃんと記述しておけばこんなに考えなくても済むのにな」
半藤君がそう愚痴った。
「でも、これも陰の共犯者が用意した蓮司への挑戦だとも考えられるね。犯人は示すがその殺害方法は自分で考えて下さいってね。決して許せる事じゃないけどね」
「あり得るな。・・・・・答えは出すが、その途中計算は自分で考えて下さいって、植松みたいだな」
「そうだね」
場が少し和んだ。
植松とは僕達の数学の担当教員の名前である。
その時、御神君のスマホが鳴った。
「はい、御神です。・・・・・はい、はい、そうですか。やはり、ありましたか。・・・・・はい、そうですか。わかりました。・・・・・それは後程、説明します。・・・・・はい、では失礼します」
「何の電話?」
半藤君がそう訊いた。
「いや、プライベートの電話だよ」
「そっか」
「でも、何はともあれ、明日のMDを残すだけだわね。最後は何事も無く終われば良いけど」
「そして、御神が優勝して一億円、俺達で山わけだな」
「ちょっ、ちょっと貴新、人が二人も殺されたというのに不謹慎よ!」
「ごめん、ごめん、冗談だよ」
「全く、あんたっていう人は」
「だけど、明日のMDでは参加プレイヤーは南野さんがいなくなったから五人となるのだろうか?それともまた別の奴が南野さんのIDを使って参加するのだろうか?」
「そうだな。南野さんが使っていたIDは何だっただろうな」
御神君がそう呟いた。
「南野さんが使っていたIDが消滅しないのならば、遠野さんかその仲間が代わりにやるんだろ」
「恐らくそうだな。一先ず、今日は解散だな。明日は先週と同じく、九時にここに集まってくれないか?」
「あっ、御免、俺明日、用事があるからパスだわ」
半籐君がそう懇願した。
「また?一体、何の用事なの?」
「それは言えないけど、大事な用事なんだ」
「そうか。じゃあ、またな」
御神君があっさりとそれを認めた。
大谷さん、秋山さん、半藤君は部屋を出ようとし、僕も部屋を出ようとした。
「三堂、君だけ少し残ってくれないか?」
「えっ、ええ」
「何だよ。また、三堂かよ」
「ああ、少し三堂に、話したい事があるんだ」
「三堂と?こいつと話かよ・・・・・」
「ああ、そうだ」
「そうなのか?名コンビ誕生だな」
「ああ」
「人には何か一つ位長所があるもんだな」
「こら、貴新」
そう言って三人は部屋を後にした。
何だか少し、嬉しかった。
「三堂。実はもう事件の全貌が殆ど解っているんだ。後は、二つの決定的な証拠だけで全てのピースが揃う事になる」
「えっ!」
事件の真相が解っている?
何故、大谷さん達にはそう言わなかったんだ?
「そして、その証拠探しをこれから探しに行くんだが、それに君に協力して欲しいんだ。昨日の君の洞察眼には光るものがある。だから、一緒に来て欲しいんだ」
「うっ、うん。いいよ」
そう力強く説得されたら「行く」という選択肢しかなかった。
連れて来られた先は川口駅前のカラオケ店だった。
恐らく、則島さんの同窓会の二次会が開かれた店だろう。
「あの、すみません。私、とある事件を調査している御神と申す者なのですが、事件の調査の為、七月十七日の店内の監視カメラの記録を見せて頂けないでしょうか?」
「駄目、駄目」
店員が当然の如くそれを拒んだ。
「実は私、警察にその事件の調査協力を依頼されている立場で、もしそれ拒否するなら公務執行妨害に当たる可能性がありますが、それでも宜しいでしょうか?」
「てっ、店長に相談してきます」
そう言って、店員は店の奥へ消えて行った。
一分後、店長らしき人とさっきの店員が戻って来た。
「君、もしかして、御神君?」
「そうですが」
「先週ね、警察の方がもし、御神という男が事件の事で訪ねてきたら調査協力してやってくれと頼まれていてね」
関係者以外立ち入り禁止の部屋に案内され、僕達は七月十七日の監視カメラのビデオを再生し、視聴した。
暫く経った。
「・・・・・やっぱり、それらしい人は映っていないな」
・・・・・どういう意味だ?
「良し、もう大丈夫だ。次に行こう。・・・・・無理を言って申し訳ありませんでした。有り難う御座いました」
「うん、君も頑張ってね」
店長と挨拶を交わし、僕達は店を出た。
僕には何が映っていないのかが解らなかった。
「みっ、御神君、今ので何か解ったの?」
「ああ、収穫はあったよ。・・・・・次は、こっちだ」
そう言って、歩き出した。
五分程道を歩いた。
「竹飛さんが戻って来た場所はここか・・・・・」
そう言って路地裏へ進んだ。
「三堂、暗くて悪いが、ここら辺で銀色の腕時計を探すのを手伝ってくれないか?」
「腕時計?」
どういう意味だ?
「ああ」
不思議に思いながらも御神君から懐中電灯を受け取った。
やっと、役に立つ時が来たと思ったが、只の肉体労働か?
僕達は無言で黙々と探していた。
二十分経ったが、まだ見付からない。
下を俯いた。
うん?
ビール箱の中から何やら光が見えるぞ。何だ?
ビール箱の中から拾った。
「みっ、御神君」
「お手柄だ、三堂」
「よし、最後だ」
まだ、行かなければならない場所があるのか?
一体何処から湧くんだ、この人の元気の良さは。
後、二つの証拠だけではなかったのか?
五分程歩いた。
連れて来られた先は近くの神社だった。
「みっ、御神君。ここは・・・・・?」
「えーと、見ての通り神社だけど」
「何でこんな所に何しに来たの?」
「何しにって、神様に明日のMDが無事に終わりますようにとお願いしに来たんだよ」
・・・・・えっ。
理論派の意外な一面だった。
そう言って御神君が賽銭を投げ入れた。
僕は隣で願っている御神君が「全て繋がった」という言葉を小さく呟いたのを聞いた。
僕達は川口駅に向かった。
暫くして、乗換駅に着いた。
「今日は付き合って貰って有り難う。お陰で、全てが解決しそうだ。明日も宜しく。もう夜だから、気を付けて帰ってくれ」
「うっ、うん。御神君も気を付けて」
僕達はここで別れた。
これで、ようやく今回のMD事件の真相が解ったんだ。
いや、まだフクマデンとの対決が残っているから、解決はしていないか。
しかし、あのツインホテルの事件を解決した御神君がそう言うんだから間違いない。
全ての真相は解った。
そう言えば、御神君の最後の顔は何だったんだ。
全て解ったと言っていたのにも関わらず、何処か表情が晴れていない様に感じた。
しかし、そんな事よりも今の僕は明日のラストバトルに向けて、英気を養う事が重要だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます