4.オチコボレ

 どうもやる気が感じられない。ダンジョンに関する各種法令や探索時の記録義務、HMDRの機能については索検さくけん三級で必ず出題される重要項目だと言うのに。


「おい虹子、聞いてんのか?

 せっかく勉強見てやってるんだからせめて寝るのはやめろよな。

 今日やったとこだけできれば索検三級は受かるんだからさ。

 つーか、マジで国主導になったあらまし辺りは試験に出るんだよ」


「失礼ね! ちゃんと起きてるわよ。

 リクってば、遠まわしに私の目が細いって悪口言ってるんじゃないの?

 そりゃ紗由ちゃんみたいにかわいくないけどさ……」


「そんなこと言ってねえよ。

 大体お前から教えろって言って来たんだから必死さを見せてほしいもんだっての。

 どう見てもやる気があるようには見えないんだよ」


「やる気と結果は比例しないと言うか…… 用語が難しすぎるのがいけないのよ!

 学校名からして能力開発技術研究特別大学校なんて覚えられないってば」


「ちゃんと言えてるじゃねえか。

 その調子でしっかり覚えてくれよ。

 今回逃すとまた三カ月後だぞ?

 つーかこれで受けるの何回目だっけ?」


「四回目…… 飛び級も小中学で少しだけだし、才能ないのかなぁ。

 IQテストでも平均辺りをうろうろしてるからやる気も出ないわよ」


「探索者って言うか、能力にはIQ関係ないだろ。

 虹子は探索向けのいい能力持ってるんだから頑張った方がいいぜ?

 俺よりよっぽど素質あるって」


「そうは言うけど本当に使い物になるかわからないじゃない?

 配信見てると凍らせたり爆発させたりすごく派手でしょ?

 磁力制御なんてランキングでも中の下よ?」


「あれは人気ランキングとほぼ比例してるから当てにならねえよ。

 配信自体で稼ぎたいなら絶望的かもしれねえけどさ。

 本業の探索をしっかりやればそこそこ贅沢できるもんさ。

 モンスターで良ければ本物の肉も食えるしな」


 肉が食えるのは探索者の数少ない特権である。現代は大昔とは異なり、家畜の飼育はほとんど行われていない。代わりに昆虫やモンスターからタンパク質を初めとする各種栄養素を抽出し、化学合成で作られたその他の栄養素を配合して総合フードベースが作られる。それを家庭用の調理器へセットして任意のメニューを選ぶ仕組みがほとんどだ。


 ちなみにダンジョンに生息するモンスターには狩猟制限がなく、いくら獲っても構わない。とは言え、狩ったまま放置することは許されないので、その場できちんと処理し持ち帰る必要はある。俺はそれが面倒だし持ち帰るのも大変なので最低限しか狩っていない。


「でも本物のお肉って血なまぐさいじゃない。

 私はあんまり好きじゃないけどな」


「そっか、じゃあ今日は飯食っていかないか?

 昨日獲ってきた肉があるから夕飯はそれにするつもりだったんだけどな」


「いやいや、食べないとは言ってないわよ。

 フードベース料理よりかはずっとおいしいもの。

 でも一番は魚かな、高くてなかなか食べられないのが残念だけど」


「じゃあ今度東京湾のダンジョン行くから獲ってくるかな。

 本物の魚なのかはわからねえけど、水の中に出るモンスターなんだからきっと魚だろ」


「随分珍しいね、横須賀まで行くの?

 紗由ちゃんも一緒なの?」


「ウチは行かないよ。

 おにいが横須賀にいても指示はこっちから出せるからね。

 それにちょっとカワイイ子に誘われたからってデレデレするおにい見たくない」


「ちょっと紗由ちゃん? それどういうこと?

 ま、まさかリクに彼女でもできたわけ!?」


 また紗由が面白がって虹子をからかっている。この間救出した探索隊『スノーダイヤモンド』は確かに女の子三人組でかわいい子もいたはずだけど、意識を取り戻す前に救命隊へ引き継いだので挨拶すらしていない。


 それをムキになってわざわざ否定するのもおかしな話なので、俺はあえてなにも言わずに二人の会話をただ聞いていた。

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