第16話 フラーシュ王国(3)
「実は、私……果物が食べられないんです」
「え?」
一週間ほど問題なく過ごしていたけれど、唐突に朝食の時にラフィーフがそう呟いた。
困ったように肩を竦めて微笑み、俯いてしまう。
なるほど~、ニグム様がラフィーフを私付きの世話係にしていたのは海外の文化を教えるためだけではなかったのね。
「あの、果物はなにが食べられないのですか?」
「バナナとオレンジ、キウイフルーツ……ですね」
「ふむふむ……なるほど。アレルギーが出やすい果物食材ですね」
そうなのですか、と目を見開くラフィーフ。
そうなのです、とあまりやりすぎない程度にアレルギーについて説明する。
食べるとどんな症状が出るのかと聞くと、少量で全身に蕁麻疹が出るという。
特にオレンジが強く出て、一度意識を失ってしまったらしい。
それは危ないタイプですね。
「あの、フィエラシーラ姫はこの症状をご存じなのですか? 治療法をご存じですか!? なんとかなりますか?」
「ラフィーフは立派な果物アレルギーですね。体の中にある風邪などのウイルスを倒す”抗体”が異常に過剰反応して攻撃して、守るべき自分自身を傷つけてしまうのです。自分の体の中で起こっていることで、そういうのは体質なんですよ。私もアレルギー体質なのでよくわかります。ちなみに、直す方法は今のところありません。症状を抑えたり、緩和する目的の
「
「まだ研究中です」
申し訳ないけれど、抗アレルギー
そう言うと、しゅん、と落ち込んでしまった。
なにか事情があるんですか、と首を傾げると、友人と一緒に果物を食べることができないという。
それはキツイ。
友人と同じものを楽しめないのはつらいよね、と共感する。
「フィエラシーラ姫様、ニグム様がラクダ見学にお誘いにいらしましたよ。動物アレルギーになってしまうようでしたらオアシスに行ってみないか、とのことです。どうなさいますか?」
「オアシス?」
ラクダも気になるけれど、オアシスの方も気になる。
コキアがニグム様の使用人からの伝言を伝えてくれた。
私のアレルギー体質のことも考えて、二択にしてくださったのね。
「遠くからならラクダさんも見てみたいです。そのあとにオアシスもぜひ。明日ですか?」
「はい。……第二王子殿下や第三王子殿下、国王陛下や前王陛下からも面会の申し入れがありましたが、ニグム様の方でスケジュールを調整しているそうです。さすがに国王陛下にはお目通りしなければいけないと思いますが……」
「そうですね……」
とにかくこの国の男には気をつけろ、この国の男は他人の婚約者でも女は許可があれば手を出してもいいと思っている、とブチギレているらしい。
客人相手でもこの国に生まれ育ち、他国に行ったことがない者は他国への女性の扱いを知らずとんでもないことをするらしいのだ。
ニグム様はそれを心配している。
他国の様子を学んでいるニグム様にとって、「いつか国際問題になる」とのこと。
フラーシュ様もそこをとても懸念していて、もっと国内の貴族を留学させるべきだと言っている。
一応サービール王国にはニグム様以外にも貴族子息が留学しているが、彼らも自国と国外の文化の違いや女性への扱いの差に驚愕しているという。
ゆっくりと、じんわりとこの国は自国の文化に溺れていっている。
かつて前世で日本が鎖国して独自の文化を発展させたときのような感じだろうか。
けれど、女性の価値や立場、地位が低いのは拍車がかかり続けている。
それはいつか、国際問題に発展するレベル。
国外と交流を積極的に持たなければ、国内の女性への対応が国外でも通用すると勘違いした者が他国の姫や最悪女王へ不遜な態度を取ってしまうかもしれない。
うん、この辺で意識改革を進めないと地獄しか待っていないわね。
ニグム様とフラーシュ様の懸念はごもっとも。
でも、この国の男性の意識だけ改革していってもダメだわ。
そのお話もした方がいいわね。
「明日、ニグム様にご挨拶できるかおうかがいしてみましょう」
「よろしいのですか?」
「えーと……そうですね……」
コキアの神妙な面持ちにと、言葉に含まれている意味。
国王陛下、その血族の方にお会いする……それは、ニグム様の婚約者候補としてなのか、それとも婚約者としてなのか――という問い。
私はまだはっきりと答えを出せていない。
一週間ほどこの国の現状を自分の目で見て王太子妃としてニグム様とともに国内の変革を行う覚悟。
私のことを真剣に好いてくださっているというのは、ちゃんと伝わってくる。
いい加減、私はその思いに答えを出さなければいけない。
「明日、お返事しますよ」
「では、
「ええ、よろしくね」
国のことを考えれば、婚約はする。
十年離れていても、私は
祖国の役に立つことが、王女としての役割だもの。
まあ、自分の体質を最優先に考えつつ、だけれど。
だから、まだ追いついていない自分の気持ちは後回しにしよう。
この国でニグム様を支え、この国を変革し、故郷との繋がりを深めて双方の国のためになるように勉強の方向を変えなければ。
「あの、あの、フィエラシーラ姫様、もしかして……ニグム様と……?」
「ふふふ、さあ? まだどうなるかわかりませんわ」
どこに耳があるかわからないので、ラフィーフにはそうやんわりとごまかした。
けれど初日にあんな――指にキスをする求婚行為――を見せつけたのだから、そう思われるのは仕方ない。
まあ、実際そうなるだろうし。
「ではもしそうなったら一番に『おめでとうございます!』って言わせてくださいね!」
「ええ。でも、ダメでも抗アレルギー
「は、はい!」
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